LINE Payは今後の進退に関わる重要な岐路に立たされている。
撮影:小林優多郎
10月1日から始まったキャッシュレス還元施策。既存のクレジットカードや電子マネーを提供する事業者に加え、QRコードなどを使った新しいプレイヤーも独自の還元施策を同時開催するなど、国内のキャッシュレス市場は盛り上がりを見せている。
LINEの2019年度第3四半期決算 概要。
出典:LINE
そんななか、プレイヤーの一角「LINE Pay」を提供するLINEは、2019年第3四半期(7〜9月)決算を発表。
事業全体としては、第3四半期の売上収益は前年同期比7.9%増となる559億4200万円、営業利益は57億500万円の赤字となった。
営業利益の赤字額は第2四半期の139億2400万円と比べると大幅に縮小している。この主な要因はLINE Payに関するプロモーションなどの費用を抑えたためだ。
LINE Payのライバルとの差は広がる
LINE Payのグローバルでの現状。
出典:LINE
今回の決算で公表されたLINE Payの主な指標は以下の通り。
●グローバル
取扱高:2870億円(前年同期比9.9%増)
月間アクティブユーザー数:554万人(前年同期比52.1%増)●日本国内
登録ユーザー数:3690万人(第2四半期から67万人増)
本人確認完了者数:500万人超
月間アクティブユーザー数:286万人
数字だけを見ればユーザー数は順調に伸び、取扱高は維持しつつ、ゆるやかな成長を描いているように見える。
しかし、冒頭の通り日本はキャッシュレス還元施策によりプレイヤー間の競争が激化しており、決済のみにフォーカスすると、LINEは苦戦を強いられていると言える。
PayPayはソフトバンク・ヤフーの資産や関連サービスを活用した還元キャンペーンを数多く打ち出している。
撮影:小林優多郎
例えば、ソフトバンク・ヤフー陣営の決済サービス「PayPay」は、同サービスのユーザー数を1250万人(2019年9月13日時点)としており、LINE Payの登録ユーザー数と比較して2倍以上の差がついている。
LINEは5月に送金文化の定着、本人確認完了ユーザー増加、非アクティブユーザーの活性化を狙った「300億円祭」を開催。その効果もあって、第2四半期の月間アクティブユーザー数は490万人にのぼったが、第3四半期は286万人へと落ち着いた。
独自路線重視は吉と出るか
2019年6月の事業戦略発表会に登壇した社長の出澤剛氏(写真中央)と、主要役員の慎ジュンホ氏(左)、舛田淳氏(右)。
撮影:小林優多郎
この状況をLINEはどう見ているのか。
同社社長の出澤剛氏は第3四半期決算のウェブキャストで、ユーザー数の減少について「想定通り」と語った。加えて、足もとのキャッシュレス市場について以下のように述べている。
「LINEはさまざまなインセンティブが伴うキャンペーンでユーザーを拡大してきた。しかし、現在の市場はポイント還元合戦が激化し、消耗戦が続いている。
LINEはより本質的で効率的、他の事業者とは差別化した戦略を行った。その結果、LINE Payを利用する習慣が定着しつつある」(出澤氏)
実際、LINE Payの国内マーケティング費用は、第1四半期に41億円、第2四半期に97億円規模だったのに対し、第3四半期は8億円まで抑えられた。
LINE Payの国内事業に関する指標。
出典:LINE
しかし、それは一方で、LINE Payが単純な還元施策とは別に、ユーザーに選ばれるための価値を創出していく必要があることを示している。
LINE自身が“ポイント還元合戦”と評するように、いまキャッシュレス決済を活用している多くの一般消費者は、「おトク」を目当てに各サービスを使っている。
出澤氏は今後の方針について「(メッセージングサービスとしての)LINEの圧倒的なエンゲージメントと、金融サービスやその他のアセットとより連携していく」と語った。
消費者から大きな注目を浴びるこの時期に、大規模な還元キャンペーンを行わずして一決済サービスとして生き残れるのか。LINE Payは今後の進退に関わる重要な局面を迎えている。
(文・小林優多郎)