生物学者で野生生物のテレビ番組の司会も務めるリジー・デイリー氏が、コクカイビゼンクラゲの隣で泳ぐ。2019年7月。
Dan Abbott, underwater cinematographer with Wild Ocean Week
- 地球が大量絶滅期に突入している。世界規模で生物が減少しているのは、地球の誕生以来6度目のことだ。
- 国連が発表した報告書によると、最大100万種の生物が絶滅に瀕しており、その多くは数十年のうちに絶滅するという。
- その大きな要因となっているのが人間の活動だ。生物の生息域は公害、気候変動、森林伐採によって破壊されている。
- 一方で、恩恵を受けている生物もいる。クラゲだ。海水温の上昇や海洋生物の乱獲により、クラゲはその生息数を爆発的に増加させている。
地球が6度目の大量絶滅期に突入していることを示す証拠は、ますます増えている。国連が発表した報告書によると、50万〜100万種の動植物が絶滅に瀕しており、その多くは数十年のうちに絶滅するという。
公害、生息地の消滅、海水温の上昇、その他の気候変動の影響により、かつてないスケールで生物の生息数は減少している。だが、この不吉な傾向に抗う生物がいる。クラゲだ。
クラゲは5億年前から地球の海を漂っている。この釣鐘のような形をした海面下の住人は、世界中の海で見られる。スミソニアン協会によると、4000種ほどのクラゲがいるという。
過去20年の間に、その生息数は世界的に急増した。クラゲの大量発生は「ブルーム」と呼ばれ、広く知られるようになった。ブルームはビーチを閉鎖に追い込み、停電を引き起こし、さらには他の魚を死に至らしめる。
ブリティッシュコロンビア大学の研究者による2012年の論文で、クラゲの増加が、人間の活動に関連している可能性が示された。
温室効果ガスによって閉じ込められた熱の93%が海に吸収され、海水温が上昇する。他の多くの海洋生物とは異なり、クラゲは暖かく、酸素の少ない海でも繁栄することができる。さらに、カメやサメなどのクラゲの捕食者は、人間によって乱獲されている。
なぜクラゲは繁栄しているのか、なぜクラゲの急増が危険なのか、写真とともに見てみよう。
クラゲは、キノコ型のカサをすばやく収縮させて水を吐き出し、それを推進力として前に進む
カリフォルニア州サンディエゴ近くの海に漂うブラックジェリーフィッシュ。
Port of San Diego
クラゲは触手を伸ばして獲物に触れ、毒針で捕らえる。獲物は触手でクラゲの体のくぼみに運ばれ、そこで消化される。
クラゲはほとんど何でも食べる。プランクトン、甲殻類、魚の幼生などがクラゲの獲物となる
大阪の海遊館に展示されたクラゲ。
Marisa Vega Photographer/Getty Images
スミソニアン協会によると、クラゲは共食いまでするという。
体の構造が複雑ではないクラゲは、変化する環境に簡単に適応できる
カリフォルニア州のモントレーベイ水族館で開催された展覧会でのアカクラゲ。2012年3月。
Richard Green/Reuters
JSTOR Dailyによると、クラゲは他の海洋生物と異なり、変動する水温や酸性度、塩分に影響されにくい。
アメリカ海洋大気庁によると、海水温の平均値は過去100年間で摂氏0.9度、上昇した。2018年は記録史上最も高い海水温となった
Vertigo3d/Getty Images
海水温の上昇は、酸素の減少を伴う。この2つの打撃により、サンゴなど多くの海洋生物は深刻な被害を受ける。だがクラゲはそうではない。中緯度の地方では、海水温の上昇によりクラゲの胚や幼体が早く成長するようになり、繁殖期間も長くなったと、Inside Climate Newsが報じた。クラゲはもともと繁殖力が強い。スミソニアンマガジンによると、繁殖期の雌は1日当たり4万5000個の卵を産むという。
驚くべきことに、クラゲは海運業や海底掘削業からも恩恵を受けている。クラゲの成長過程のひとつであるポリプの段階では、何か硬いものに定着する必要がある
Alyssa Janco/Getty Images
スミソニアン協会によると、海底の砂や岩よりも、ドックや石油プラットフォームといった人工的な構造物の方が、ポリプにとって定着しやすい。その上、多くのポリプは低酸素の環境にも耐えられる。
耕作地からの肥料分が、川から沿岸部へ流れ出ると、海はクラゲにとって食べ放題のレストランのような状態になる。食べ物を取り合うライバルもいない
Krishan Lad / EyeEm / Getty Images
耕作地の栄養豊富な肥料分が海に流れ出ると、プランクトンや藻類が爆発的に増加。藻類の増殖によって海水中の酸素が使い果たされると、海洋生物が生息できない「デッドゾーン(死の水域)」が発生する。だが、そこでも生きていけるクラゲがいる。食べ物を取り合うライバルが存在しないデッドゾーンで、クラゲは思う存分プランクトンを食べることができる。沿岸部のデッドゾーンは、1960年代から10年ごとに2倍に増加しており、現在その数はおよそ500に上ると、スミソニアン・マガジンが報じた。
捕食者の乱獲も、クラゲの世界的な増加の原因
サンゴ礁で体を休めるアオウミガメ。ボルネオの東にあるセレベス海、シパダン島近く。2005年11月。
Reuters
クラゲの繁殖は、ウミガメやマグロといった捕食者によって抑えられてきた。だが、これらの捕食者の生息数は乱獲により減少している。過去20年の間、毎年1億から1億2000万の海洋生物が漁獲されている。
漁業は、クラゲと競合する生物を排除している。スミソニアン協会によると、クラゲが食べるのと同じ種類のプランクトンを食べるカタクチイワシやイカなどの乱獲が、クラゲにとっては分け前の増加につながっている。
ブリティッシュコロンビア大学の研究者による2012年の論文には「クラゲの生息数は、世界の主要な沿岸の生態系と海洋で増加しているようだ」と記載されている
ギリシャのサラミス島近海で撮影されたクラゲ。2018年8月。
Stelios Misinas/Reuters
論文では、クラゲの増加は人間の活動と明らかに関連があるとしている。
クラゲの大量発生は「ブルーム」や「アウトブレイク」と呼ばれる
パラオのジェリーフィッシュレイクに生息するゴールデンジェリーフィッシュは毒性が低いので、近くでシュノーケリングもできる。
Flickr/Richard Schneider
大量発生はさまざまな問題を引き起こす。
例えば、海水浴ができなくなる。クラゲに刺されたという報告は、世界中で年間に1億5000件に上る
Jayme Godwin / EyeEm / Getty Images
すべてのクラゲに刺されて痛いわけではなく、刺されても気づかれないクラゲさえいる。だが、危険なクラゲもおり、人が死ぬこともある。
オーストラリアウンバチクラゲなどのいくつかの種類のクラゲは、3分で人を殺すことができる
~UserGI15667539/Getty Images
ハコクラゲの毒は心臓や神経系を攻撃する。泳いでいる人が刺されると、岸に泳ぎ着く前に溺れたり、心不全で死んでしまう。
2019年1月、オーストラリアのクイーンズランド州で、浜に打ち上げられたカツオノエボシに、週末だけでも4000人近くの人が刺された
オーストラリア、ブリスベン近郊で撮影されたカツオノエボシ。なお、これはクラゲではない。
Kyle Hovey/Flickr
2018年には、フロリダ州ボルーシャ郡近くの沖合でクラゲのブルームが発生し、その週だけで1000人以上の人がクラゲに刺された。
大量のクラゲが発電所のパイプを詰まらせ、閉鎖に追い込むこともある
Alyssa Janco/Getty Images
1999年12月10日、フィリピンのルソン島で、石炭火力発電所の冷却用パイプに数千ものクラゲが吸い込まれ、4000万人の住民への電力供給ができなくなった。
2011年には、イスラエル、ハデラ近郊の石炭火力発電所で、クラゲが冷却システムを詰まらせた
2011年5月、イスラエルの石炭火力発電所でフィルターから取り除かれるクラゲ。発電所では、海水を冷却に用いるため、日常的にクラゲを除去する必要がある。
Ronen Zvulun/Reuters
2013年、スウェーデンの原子炉で、冷却用パイプに吸い込まれたクラゲが詰まり、運転停止を余儀なくされた。
クラゲの大量発生により、他の海洋生物の生命が脅かされることもある
alonsoleon9/Getty Images
2007年、大量発生したオキクラゲが26平方キロメートルにわたって広がり、アイルランド沖で養殖されていた10万匹のサケが死んだ。
海の生態系は、魚の世界からクラゲの世界へと変わりつつということを示す証拠は、ますます増えている。これは部分的には人間の仕業だと言える。2009年の論文によると、海洋生物の乱獲、気候変動、生息地の改変など、人間が環境に対して引き起こすストレスが「クラゲの大量発生を促進し、他の海洋生物に打撃を与えている」という。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)