男性も結婚する女性を選ぶ基準が変わってきているというが…。
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マッチングアプリは男性が課金し、男性から女性にアプローチするのが主流だ。それが逆だったらどうだろう。女性がお金を支払い、女性から男性に声を掛ける。
今まさに「女性が選ぶ」ことを売りにしたマッチングサービスが、婚活疲れした女性たちの間で静かに話題になっている。
本気か体目的か。相手の真剣度が分からなかった
かつての「出会い系」は、その名を「マッチングアプリ」と変えることで見事にイメージチェンジに成功した。MMD研究所とスマートアンサーの調査によると、この3年でマッチングアプリの認知度はさらに上がり、20〜30代で「知っている」と回答した人は27.8%(13.7ポイント増)だった。そのうち利用したことがある人は全体の約3割という結果だった。
マッチングアプリ経由で出会い、結婚に至った夫婦ももはや珍しくない。
しかし、マッチングアプリの敷居が下がる一方で、本気で婚活をしたい人にとって悩ましい問題もあった。それは、会ってみるまで相手が「本気」なのか体目的の「ヤリモク」なのかが分からないこと。
前出の調査によると、「マッチングアプリでトラブルを経験したことがある」と回答した人のうち、女性に際立っていたのは「恋活/婚活ではなく性行為を目的としていた」という訴えだった。その割合は42.1%と半数近い。
そんな悩みを抱える女性を救済すべく生まれたマッチングサービスが「キャリ婚」だ。
キャリ婚の特徴は大きく3つ。
- 女性が有料で、男性は無料
- 男性の登録には面談が必要
- 女性のほうからアプローチすること。
どうしてこれらの仕組みが婚活疲れの女性を救うことになるのだろうか。キャリ婚を主宰する川崎貴子さんと金沢悦子さんのもとを訪ねた。
女のプロ、関係構築のプロ、性のプロによって設立
キャリ婚を主宰する金沢悦子さん(左)と川崎貴子さん(右)。
撮影:今村拓馬
川崎さんと金沢さんは共に人材領域で起業し、それぞれ別の会社を運営している。川崎さんは「女のプロ」を、金沢さんは「関係構築のプロ」を標榜する。
数年前、2人が人材業を営むなかで聞いていた女性たちの悩みは、必ずしもキャリアに関するものだけではなかった。恋愛になると距離感がつかめなくなる、自分をさらけ出すのが怖い、学歴や年収が高いせいで男性に引かれる、など。
そこで川崎さんと金沢さんは「魔女のサバト」と呼ばれるオンラインサロンを始めた。「キャリ婚」立ち上げの1年前、2015年のことだ。
魔女のサバトは勉強会を開催しながら自分の価値観を紐解いていくことで、「どんな結婚をしたいのか」を明確にするための場所だ。恋愛市場で人気のある男性を射ぬくことが良い結婚ではない。自分と人生観や価値観、生活感覚が合う人と一緒になることが良い結婚なのだと。
ところが、サロンで価値観の棚卸しをして自由恋愛に羽ばたいていったはずの女性たちが、次々と羽を折られる出来事に見舞われた。川崎さんは当時についてこう語る。
「マッチングアプリを使ってせっかく好きになれそうな人に出会っても、既婚者だったり体目的だったり、宗教やマルチ商法の勧誘もありました。動けば動くほどそういうことが起こる。あまりの遭遇率の高さに『じゃあ、私たちで真剣なサービスをつくろう』と始めたのがキャリ婚です」(川崎さん)
そこにAV監督の二村ヒトシさんが「性のプロ」としてジョイン。キャラの立った3人が知見を持ち寄り、2016年11月に「キャリ婚」は始動した。
「女性から選ぶ」ほうが実は効率がよかった
「女性が選ぶ」は実は効率的だったと語る川崎さん。
キャリ婚の会員は女性約2000人、男性約2000人。アクティブユーザー数は非公開だが、常に女性会員数の2~3倍のアクティブな男性会員がいるという。
男性会員が女性会員を閲覧することはできず、女性からアプローチする一方通行の仕組みに。そのほうがマッチング率が上がるからだ。なぜなら「生理的に無理」な範囲が男女によって違うからだ、と川崎さんは説明する。
「一般的に男性は女性の見た目を重視すると言われていますが、男性の場合は女性が10人並んでいたら、8人くらいは生理的に“いけなくはない”。反対に、女性は男性が10人並んでいたら、うち8人くらいは“生理的に無理”と判断する。許容範囲がそもそも違うので、女性から選んだほうが一気に対象を絞ることができるんです」(川崎さん)
世のマッチングアプリには一定数、「イイネ」を乱発する男性がいる。筆者は彼らのことを「ノールックイイネ男」と呼んでいるが、彼らの理論はこうだ。
念入りにプロフィールを見た上で女性にアプローチをしても、イイネが返ってこないことには始まらない。だから、大して中身を見ないままとにかくイイネを送りまくる。そしてイイネが返ってきた女性の中から選ぶ。マッチングしたことを知らせるお知らせボックスは、自分に少しでも脈がある女性の人材プールとなるというわけだ。
反感を買う方法ではあるが、確かに男性からすればそのほうが効率的だ。そして、この「ノールックイイネ理論」から、イイネを乱発する不道徳なフェーズを省いたのがキャリ婚のモデルということになる。
女性を有料にしたら“いい男”が集まってきた
金沢さん。「稼ぐ女性」を求めている男性は想像以上に多かったという。
ローンチから、まもなく3年。女性会員が有料という前代未聞のビジネスモデルはうまく機能しているのだろうか。
川崎さんと金沢さんは「良い意味で予想外だった」と3年間を振り返る。
「私たちも、ヒモ候補の男性ばかりが来るかもしれないと内心ひやひやしていたのですが、蓋を開けてみたらいい男性ばかりで。性格は良くて、経済力もある。面談のたびに『まだ独身でいてくれてありがとう!』なんて叫んじゃっていました」(金沢さん)
女性を有料にしたら、いい男性が集まってきた。これはどういうことなのだろうか。
女性有料・男性無料というアイデアは、川崎さんによるものだった。
長く人材紹介業に携わってきた川崎さんは、会員になる男性が本当に信頼に足るかを直接会って確かめるため、男性の面談必須にこだわった。面談の手間がある代わりに、男性は無料に。女性は1万9800円の入会金と、月額3850円の会費を支払う。
主宰の3人が男性たちの面談をしていると、婚活に辟易していたのは実は女性だけでないことに気付いた。面談に来る男性のうち、一歩下がって家庭を守るという旧来型の女性像を求めている人はそう多くなかったという。
「年収が比較的高い男性ほど、対等な関係でいたい、家でも仕事の話をしたいという欲求を持っていました。けれどもマッチングアプリや結婚相談所では、“お嫁さん候補”が寄ってきてしまう。
他にも、そもそも合コンにも行かないしマッチングアプリもやらない、そもそも職場にも女性が少ない研究職やエンジニアが集まってきました。ブルーオーシャンがそこにあったんです」(金沢さん)
女性を有料にすることで、キャリア志向のある女性が集まる。共働きで対等な関係を望む男性からすると、専業主婦になりたいゆるキャリの女性とのやりとりを割愛できることになる。
親との同居、家事など42の質問で価値観網羅
キャリ婚会員必須入力の「価値観シート」の設問数の多さは婚活への本気度を測る指標にもなりうる。
キャリ婚会員になるとまず、男女ともに「価値観シート」と呼ばれるものに記入をする。その数、42問。「相手の年収は自分より高い方が良いですか?低い方が良いですか?」「パートナーの過去は気になってしまうタイプですか?」「相手のためになる嘘はあると思いますか?」「パートナーのご両親との同居は可能ですか?」など、聞きづらいが聞いておきたい内容がずらりと並んでいる。
「面談のときには、矛盾がないかも見ているんですよ」と川崎さん。
「例えば、家事のアウトソーシングはアリだと思いますかという質問。ナシだと書きながらも、自分は激務。ということは、家事は相手にやってもらいたいということ?と、本人も自覚してなかった意識をあぶりだしていきます」(川崎さん)
「矛盾を指摘されたときの反応も見ています。話し合える人なのか、怒る人なのか。ここで怒ってしまうようでは家庭内でも同じことをしますからね。面談では、冗舌かどうかではなく、他人と向き合う意思がある人なのかどうかを見ています」(金沢さん)
男性会員は面談を経て、女性の有料会員だけが閲覧できる会員ページにプロフィールが掲載される。その際、面談を担当したスタッフからのコメントが添えられる。男性を褒めたたえて女性にメッセージを送るよう促すためのものではない。面談者から見た短所を併記することで、客観性を担保しているのだ。
失礼な例えになってしまうが、キャリ婚の面談者コメントには親切な中古マンションのポータルサイトのような率直さがある。「床に傷があるが、眺望が最高」「騒音が気にならなければ、駅徒歩1分」といったように。
「私たちの好きなタイプを集めたサービスではないので。『こんな素敵なところとこんな短所があるので、目をつむれるならどうぞ』とフラットに提案するための面談者コメントです。何になら目をつむれるかは人によって違いますからね(川崎さん)」
結婚後も「理想の関係」を考え続けること
「女性有料、男性無料」。今までの常識を翻したら、新しい結婚の形が見えてきた。
キャリ婚への応募条件は「結婚したいこと」。結婚という手段を選ばない人も珍しくないこのご時世、結婚のメリットとはなんだろう。2人に聞いてみた。
「複数の人とカジュアルに楽しむオープンリレーションシップは確かに楽しいけど、私は震災のときに夫という存在のありがたみを感じました。有事のときに、走ってでも帰ってきてくれる人がいる。私が病気で稼げなくても、一緒に乗り越えてくれる人がいる。そんな安心感は、結婚だから得られるものだと思っています」(川崎さん)
金沢さんは“かぞく”の面から結婚の魅力について語った。
「自分が生まれる家族は選べないけど、“かぞく”は自分で作れるんですよね。うちは一人息子なんです。ひとりっこは寂しいだろうなと悩んでいたときに、ひとりっこの友人が『ひとりっこでも、自分でかぞくを作れるから大丈夫だよ』と言ってくれて、救われた気持ちになったことを覚えています」(金沢さん)
川崎さんも金沢さんも結婚推奨派である一方、離婚に対しても寛容だ。結婚も離婚も、そのときに必要なアップデートだと川崎さんは言う。
「絶対に失敗しない結婚なんてない。婚活のときに考えたように、結婚後も『理想の関係ってなんだろう』と考え続けなくては。絶対に失敗できないと構えていると、結婚なんてできません」(川崎さん)
(文・ニシブマリエ、写真・今村拓馬)
ニシブマリエ:ライター・広報PR。大手人材情報会社の営業、広報を経て2017年10月に独立。現在は企業の広報支援をしながら、HRやマーケティングといったビジネス領域や、ジェンダーや多様性などのソーシャルイシューを中心に取材・執筆を行う。趣味は、海外一人旅と写真と語学。