LINEグループの仮想通貨市場参入から1カ月あまり。見えてきたこと、まだ見えないこと

LINEのくま

LINE Financialの社屋には、スタンプとして人気のくまのぬいぐるみが。仮想通貨事業でもユーザーの心をつかめるか。

撮影:小島寛明

LINEグループが日本の仮想通貨市場に本格参入してから1カ月あまりが過ぎた。

メッセージアプリとして8100万人のユーザー基盤をもつグループの参入は、競合他社にとって脅威にほかならない。

しかしその一方で、アメリカやヨーロッパでは、フェイスブックの参入をきっかけに仮想通貨規制の強化をめぐる議論が再燃している。

仮想通貨市場の先行きに不透明感が漂うなかで、LINEはどんな戦略を描いているのだろうか。

「静かな」サービス立ち上げ

山下哲史氏

LVCの山下哲氏COO。仮想通貨事業参入のため、LINEグループに加わった。

撮影:小島寛明

LINE子会社のLVCで最高執行責任者(COO)を務める山下哲史氏は、「中長期的にクリプト(暗号資産)とLINEのさまざまなサービスとの融合を図り、価格の上げ下げだけでないニーズを取り込んでいければ」と話す。

LVCは9月上旬、仮想通貨交換業者として金融庁に登録を果たし、9月中旬から交換所「BITMAX(ビットマックス)」のサービスを開始した。

同社のサービス立ち上げは静かなものだった。交通広告など大規模な宣伝は行わず、決済サービスLINE Payのユーザー向けにサービスを告知するなど、最小限の露出にとどめている。

しかし、LVCの神谷健・暗号資産事業部長は現状をこう評価する。

「対外的なマーケティングはほぼやらない形で進めてきているが、数字は積み上がってきている感覚がある」

8月にLINE証券がサービスを始めるなど、このところ金融関連事業への進出を急いでいるLINEだが、会社として長い期間の蓄積があるとは言いがたい。

COOの山下氏はその点について、率直に語ってくれた。

「仮想通貨交換業は、銀行のようにオペレーションに長けた人がごろごろいるわけではない。オープンして、さまざまなユーザーが入ってくるなかで、手探りの部分もあった。まずは何よりもオペレーションをしっかりやろうと考えた」

LINE Payとの連携に強み

LINE証券

このところ金融関連事業への進出を急いでいるLINE。写真は8月20日、「LINE証券」ローンチ記者発表会にて。

撮影:川村力

LVCの強みは、サービス開始前から予想されたように、親会社LINEの強固な顧客基盤にあるようだ。

LINE Payには、本人確認を終えたユーザーが約490万人いる。必要な確認資料を提出するなど一定の手続きをLINE Pay側で終えているユーザーの場合、投資経験、収入などの情報を入力すると、短時間で取り引きを始めることができるという。

「LINE Payとの連携、シームレスな口座開設には一定の評価をいただいている」と神谷氏は言う。

2018年以降、日本の交換業者からは「一部のコアなユーザーからは根強い支持を得ているが、なかなかすそ野が広がらない」との声が何度も聞かれた。

しかし、LVCの口座開設者は、仮想通貨や他の金融商品を含め、これまでに投資経験のないユーザーが多いという。

この点について神谷氏は「ふだん使っているLINEで仮想通貨の取り引きができるのは、特徴的な部分だと思っている」と話す。

規制の行く先はまだまだ不透明

神谷健氏

LVCの神谷健・暗号資産事業部長。「トークンエコノミーの実現はわれわれの悲願」と語る。

撮影:小島寛明

LINEは今後、どのように既存のサービスと仮想通貨の融合を図っていくのだろうか。

LINEグループは2018年8月、日本国外の居住者を対象に、独自の仮想通貨「LINK(リンク)」を発行している。

現時点では日本で売買できないが、必要な手続きが完了して取り引きが可能になった場合、次のような使われ方も予想できる。

例えば、LINEのプラットフォーム上では、企業や個人がスタンプを制作してユーザーに販売している。

いまのところは現金やポイントで購入する仕組みだが、スタンプを販売した対価をトークン(仮想通貨の一種)で受け取るといった選択肢も想定しうる。

ブログを投稿するなど、ネットワークに「貢献」をした人に対して、トークンを付与するといった仕組みも想定できる。

ただし現時点では、こうした仮想通貨の利用を実現できるのか、国内の規制の面ではっきりしない部分も多い。

「法律、自主規制ルール含めて、まだまだ見えないところが多い。しっかり遵守して進めていくことを基本線とすると、1、2カ月といった短い期間で、新たなサービスをどんどんリリースしていけるかというと、それは難しい状況もある」(山下氏)

LVCの高永受・最高経営責任者(CEO)は、10月3日に東京都内で開かれたカンファレンスで、著作権管理や個人情報の管理などにもブロックチェーンを活用していく考えを示している。

(文、小島寛明)

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