ホテル予約「ブッキングドットコム」社員数1万7500人で挑む“勝ち筋”戦略

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撮影:伊藤有

世界最大級のホテル予約サイト「Booking.com」(ブッキング・ドットコム)はオランダ・アムステルダムの本社を一部プレス向けに公開、グレン・フォーゲルCEO含む幹部が、Booking.comの最新サービスとビジネスの状況に答えた。

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Booking.com本社は、アムステルダム市内の運河沿いにある。元銀行だったという建物は美しくリノベーションされ「The BANK」という名前のオフィスビルに。ここに1700人近い従業員が働く。

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この時期にプレスツアーを開いたのは、世界的に日本が注目される2020年の東京五輪を控え、テクノロジー企業としてのBooking.comの存在感を示したいという狙いがある。

Booking.comの現在の社員数は約1万7500人。そのうち2500人程度がエンジニア社員で、実態としては、相当なテック企業だ。


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1日あたりの予約数は155万泊。サイトを改善するために一部のユーザーに行う「ABテスト」は1日に1000件以上が同時に走っている。

撮影:伊藤有

親会社Booking Holdings(本社・アメリカ)は2018年の売上高145億ドル、営業利益53億ドル(営業利益率36.7%)。競合のExpediaグループ(売上高112億ドル、営業利益7億ドル)と比べても、強いビジネス基盤を持っていることは疑いようがない。

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2019年6月にBooking.comのCEOに就任したグレン・フォーゲル氏。親会社であるBooking HoldingsのCEOも兼任。グループ内の主要企業の買収戦略も率いてきた。Booking.comのCEO就任以来、日本の取材を受けるのは今回が初だ。

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日本参入は10年前の2009年。今では日本国内に6つのオフィス、従業員300人という体制になっている。

フォーゲルCEOは「オリンピックを非常に楽しみにしている。世界中の人々が日本に行きたがっている。すべての(旅行)関係者にとって(2020年は)非常に忙しい時期になるだろう」と、2020年がトラベルビジネスの大きな節目になると期待を語った。

今や50%がスマホで予約。実は国内予約も半数は「日本人」

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Booking.comが公表しているサービスの規模が垣間見えるデータ。サービスの開始はグーグルの設立よりも前の1996年だ。

地域別の収益状況について公開していないこともあり、日本国内向けビジネスの具体的な状況への言及は避けたが、フォーゲルCEOはいくつか興味深いデータも示した。

キーワードは「2つの50%」だ。

まず1つは、現時点での全世界の予約数。この約50%がすでにモバイル経由(アプリ、ブラウザー)だという。

2つ目は、日本国内向け予約数。「約50%以上が“日本のユーザー”からの予約」だと、明かした(国内ユーザー比率の大きさには、同席した旅行系ジャーナリストも驚いていた)。

世界最大級のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の日本市場向け予約数の半数が日本在住者という事実は、(世代による差はあるだろうが)日本のユーザーの旅行予約手段として、一定の浸透をしていると考えられるからだ。

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The BANK内のほぼ全フロアを占めるBooking.comのヘッドクオーターは、2021年に完成予定の新しいオフィスビルへ移転予定だという。同社が勢いに載っている様子が感じられた。

撮影:伊藤有

国内ユーザーに浸透した一因には、SEOやデジタルマーケティングを駆使した広告戦略が一定の成功をしていることも無関係ではないだろう。

実際、プレスツアーに登場した一人、チーフプロダクトオフィサー(CPO)の デイビッド・ヴィスマンス氏は、社内エンジニアチームが機械学習で取り組んだ最大の成果は?という質問に対して、しばらく考えた後「ホテル予約ネット広告のリアルタイム入札だ」と答えていた。

タクシー配車DiDi、Grabも巻き込む「コネクテッドトリップ」戦略

丸1日、朝から晩まで各事業領域の幹部が登場する中で、再三言及していたのが「コネクテッドトリップ」という、OTA企業としての新戦略だ。

ホテルの予約、現地のアクティビティーの手配、レンタカー手配、タクシー配車まで、旅のすべてをBooking.comを入り口にできる利便性を提供することで、収益最大化を加速させる狙いがある。

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コネクテッドトリップの概念を示したスライド(スピーカーはグローバルエクスペリエンス担当VPのラム・パパトラ氏)。この実現には、Holdings傘下の姉妹企業であるKAYAK(航空券予約)、OpenTable(レストラン予約)、Rentacars.comといったサービスを裏側でシームレスに接続し、外部企業との連携も含めたサービス構築を進めていく。

撮影:伊藤有

なかでも、旅行中の移動手段は常に旅行者がストレスを感じる要素の1つだ。

実は、日本のプレス陣が本社取材をした10月29日(現地時間)、Booking.comは、東南アジアを中心にサービス展開をしているタクシー配車サービス「Grab」のサービスをBooking.comアプリ内に取り込むことを発表した。

これによって、Booking.comを利用する旅客は、Grabの会員になる必要なく、滞在先でタクシー配車サービスを利用できるようになる。

Booking.comがGrabをアプリ内に取り込んだ様子

Grabとの提携による配車サービスの利用イメージ。Booking.comアプリの中にGrabの配車機能が取り込まれていることがわかる。

出典:Booking.com

さらに日本のユーザーにとって注目は、同様の取り組みを日本参入済みのタクシー配車アプリ「DiDi」でも近々展開する見込みだということ。Booking Holdingsは2018年にDiDiに対して5億ドルを出資、戦略提携を結んでいる。

「DiDiとのパートナーシップはすでに発表済みだが、あと2~3カ月で市場投入(アプリ実装)する予定」(パパトラ氏)だというから、年度内には、まず海外旅行で使えるようになっている可能性がある。

Booking.com本社広報によると、日本国内向けのサービスイン時期は明言できないとしながらも、近日中にロードマップを公開する予定だという

旅の窓口の「一気通貫」が“難問”になる理由

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撮影:伊藤有

コネクテッドトリップ構想は、一見するとOTA企業として極めて当たり前で、特別な取り組みのようには聞こえないかもしれない。

しかし、内実を聞くと「言うは易し、行うは難し」の典型だということがわかる。

体験ツアーなどのアクティビティー(例:カヤックの川下り、名産物の収穫ツアーなど)は運営側の現場がデジタル化されていないケースが多いからだ。

アナログ的な書類作業や電話予約が根強い業界に、どうやってテクノロジーを持ち込むのか? こう考えると、実現へのハードルは、DiDiなどのタクシー配車の取り込みに比べて、ずっと難しいものであることが想像できる。

Moco Museum

オランダのMoco美術館。こうした旅先のチケット手配もBooking.comででき、QRコードをかざして入館することができた。これもコネクテッドトリップの一環といえる。

撮影:伊藤有

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撮影:伊藤有

それでもチャレンジする理由は何か。フォーゲルCEOがプレス陣から質問された「事業の成長余地」への回答に、その理由が垣間みえる。

「弊社が持っているビジネスはまだまだ小さく、宿泊ビジネスにおいてシェアは10%以下です。旅行ビジネス全体の中ではさらに小さいものになります。

これは、我々にとっては成長余地がまだまだあるということ。旅行者、施設提供者、両方の顧客にグッドサービスを提供することが成長の鍵だと考えています」

フォーゲルCEOはさらに続ける。

「航空券、地上のアトラクション、地上交通機関などさまざまな部分を現在拡大して強化しています。これをすべてつなげることができれば、“コネクテッドトリップ”が実現できます。

旅行者が1カ所(のサービス)を訪れれば、すべての要素を叶えられるという体験を提供したい。まこのコンセプトはまだまだ取り組み始めた初期段階ですが、その実現に向かって進んでいます」

(文、写真・伊藤有 取材協力・Booking.com)

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