先日、人身事故をスマホで撮影しようとする利用客に対し、JRの社員がモラルを問う異例の呼びかけをしたことが話題となった。
旅行サイトの調査によると、12%の人が「いけない」と思いながら撮影した経験があるという。観光地から事件や被災の現場まで、一体何が起きているのか。
ブルーシート内をスマホで撮影
4人に1人が撮影モラルが低下していると感じている。一体なぜか(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
旅行サイト「エアトリ」を運営する株式会社エアトリが「撮影モラル」に関する調査を行った。
調査のきっかけは、JR東日本の異例のアナウンスだ。10月2日にJR新宿駅(東京都新宿区)で起きた人身事故で、救出作業のために現場を覆っていたブルーシートの内側にスマートフォンを差し込んで撮影しようとする複数の利用客に対し、駅員が「お客さまのモラルに問います。スマホでの撮影はご遠慮ください」と呼びかけた(共同通信2019年10月3日)。
撮影モラルが低下したと感じる場所で最も多かったのは「観光地」だ。
出典:「撮影モラル」に関するアンケート調査(エアトリ)
2019年10月、20代~70代の男女 1141人を対象にインターネットで調査を行ったところ(小数点以下、切り捨て)、昨今の日本人のモラルに関して「低下している」と回答した人が 75%と大多数を占め、「向上している」と回答したのはわずか 5%だった。
また、4〜5人に1人は友人・知人がモラルのない写真を投稿しているのを見たことがあった。
撮影モラルが低下したと感じる場所として最も多かったのは(複数回答可)、観光地(65%)。次いで「公共交通機関」(55%)、「事故・事件現場」(50%)、「被災現場」(46%)だった。
観光地、飛行機、自殺や救命の現場でも
撮影:今村拓馬
具体的にどのようなことがあったのか。声を紹介する。
観光地では、
「立ち入り禁止区域に入って撮影している。看板も大きくある。物事は意味があって立ち入り禁止と記載しているのに。特に多いのは絶滅保存植物区域です。山・川・湖近隣」(60代・男性)
「観光地で落書きをしている友人の写真動画を撮っていた。注意をしたら逆に叱られた」(50代・女性)
公共交通機関では、
「飛行機の機内登場に際し、ビジネスクラスの乗客が席の写真撮影に夢中になり、エコノミークラスの乗客の着席に支障をきたしていた」(60代・男性)「飛行機内で、周りの人と近い距離なのに勝手にバチバチ写メしてて……なんか軽くで良いから一言言って欲しい」(50代・女性)
事故・事件現場では、
「同じマンションの方が飛び降り自殺をしたが、その現場を上の階からスマホで撮影されているのをこの目で見た時には大ショックを受けました」(60代・女性)「人身事故現場・火事の消火中に救命などをしている人や通行人の邪魔になっているのに動画を撮っている人が多くびっくりする」(30代・女性)
TVより早く「リアル」
「いけない」と思いながらも、撮影モラル違反をしてしまった経験がある人も。
出典:「撮影モラル」に関するアンケート調査(エアトリ)
調査を行ったエアトリによると、「石碑に名前を彫って撮影していた」「慰霊塔でピースサイン」などの目撃情報もあり、観光地の歴史的背景への理解やリスペクトが足りていない観光客が一定数いることがうかがえるという。
一方で、事故や被災現場での撮影に関しては複雑な思いの人も。
「事故現場などで何か証拠となる物が写るときや、災害で被害の大きさを伝えるのはTVよりも早くリアルなものがある場合もあるので、一概に撮影モラルが悪いとも言い難い。自己責任できちんと行うべき」(40代・女性)
実際、災害時の救援要請や、災害後の支援不足、またメディアの報道が及んでいないことへの危機感から、被害の写真や動画をTwitterにアップする人も多い。
反対に、自身で「いけない」と思いながらも、撮影モラル違反をしてしまった経験があると答えた人は12%いた。
「いけない」と思いながら撮影をした経験のある人に対してシチュエーションを聞いたところ、最も多かったのは(複数回答可)、「観光地」(46%)だ。続いて「ライブ・イベント会場」(20%)、「公共交通機関・旅客施設」(17%)という結果に。
「線路柵に脚立を置き忘れて、線路内に立ち入ったと厳重注意された」(40代・女性)「海外の公演後のアンコールで周りの人達が撮影し始めたので、撮影したら後ろ斜めの外国人から注意されてしまった」(40代・女性)
必要なのはモラルより罰金?
GettyImages/WaffOzzy
調査を行ったエアトリではこう分析している。
「撮影モラルの低下について、どの場面においても意見が多かったのが、『他人も映る場所から撮影する』『他人も映った写真がSNSにアップされていた』といった内容でした。SNSでの顔出しリスクや個人情報保護が声高に叫ばれている今、他人への配慮は最も重要と言えそうです。
自身がモラル違反を経験したという回答には、『他の人も撮影していたから』『どさくさに紛れて撮影した』というものもあり、人混みの中でこそ正しい判断が求められます」(エアトリ)
撮影モラルが低下していると感じる背景について、
「撮影に限らずモラルやマナーが低下していると感じる。またある意味『無関心』がそういったことを増長させているとも感じる」(40代・男性)
「自分のことしか考えていない人が増えたのではないかと思います。相手や周りの人の立場になって考えれば、撮影していいかどうか分かると思います」(40代・女性)
などの懸念や、
「私はツアーコンダクターとして20年仕事しましたが、写真モラルを注意すると、何様だとかえってクレームになっていました。どうしてもモラルハザードを設けるなら残念だが罰金でもしないとだめだろうと思う」(50代・女性)
という意見もあった。
インターネット、SNS、スマホ(カメラ)の普及はより一層進む。社会問題として、議論が必要だ。
(文・竹下郁子)