公開されたPhotoshop iPad版のアイコン版。文字やテーマ色は既存のデスクトップ版のものと変わらないが、クラウド対応を示す「角丸」なアイコンになっている。
撮影:小林優多郎
アドビは11月4日、クリエイター向けイベント「Adobe MAX 2019」に合わせて、iPad向け写真編集ツール「Photoshop iPad版」の提供を開始した。
価格は単体プランで月額1080円だが、デスクトップ版も含めたコンプリートプラン(月額6248円)およびフォトプラン(月額1078円)を契約中のユーザーは、既存のAdobe IDでログインすることでそのまま利用可能(いずれも税込み)。
アドビがPhotoshop iPad版の推奨動作環境としている製品は以下のとおり(括弧内は発売年)。
- iPad Pro 12.9インチ 第2世代(2017)以降
- iPad Pro 11インチ(2018)
- iPad Pro 10.5インチ(2017)
- iPad Pro 9.7インチ(2016)
- iPad Air 2(2014)以降
- iPad mini 4(2015)以降
- iPad 第5世代(2017)以降
iPadで使える本物の「Photoshop」
Photohop iPad版は、1年前のAdobe MAX 2018で開発が発表されていたもの。“Photoshop”の名前を冠したモバイル向けアプリは以前から複数種類が存在したが、それらのアプリは合成やスケッチ、変形など用途ごとに分かれており、モバイルらしい手軽な作業に向いていた。
一方、Photoshop iPad版はWindowsやmacOS向けに提供されている、デスクトップ版並みの“本格派”アプリだ。デスクトップに近い機能とiPadらしいタッチ操作、Apple Pencilに最適化された新しい表現力を持っている。
Photoshop iPad版の実力とは? リリース前のアプリで確認してみた。
まずはホーム画面。開いたことのあるデータが一覧で表示。端末内とクラウドから呼び出せる。
編集画面の雰囲気はデスクトップ版によく似ている。アイコンの大きさや配置などはiPadに最適化されている。
右側にはPhotoshop特有の“レイヤー(階層)機能”を配置。
レイヤー部分をピンチインアウトとするとサムネイル(縮小画像)表示と詳細表示を切り替えられる。
調整レイヤーや合成表現などをサポート。レイヤー効果の機能は後日実装予定。
左側には各種ツールのアイコンを配置。長押しすると別のツールが表示されるものも。
Apple Pencil(第1世代&第2世代)をサポート。細かい部分の範囲選択なども可能。
なお、Apple Pencilの利用はPhotoshop iPad版を利用する上での必須条件ではない。
範囲選択をすると、その後に何をするか画面下に候補が表示される。
先ほど切り抜いた画像も移動ツールを使えば、タッチ操作で直感的に動かせる。
両手を使った操作も可能。タッチショートカットのボタン(写真の指の下にある白い半透明の丸)を押すと、拡大縮小時に縦横比を固定するなどオプション機能が使える。
なお、タッチショートカットのボタンは画面上に自由に配置できる。
複数の指で行うジェスチャー操作の代表的なものはこの通り。
iPadなので当然、Photoshopからカメラを起動してその場で写真を取り込むこともできる。
ブラシは、大きさなどを変えられるが、種類は限られている。
書き出し設定については4種類の画像形式に対応。現段階では解像度の指定などはできない。
iPad版はデスクトップ版の代わりになるか?
Phoshop iPad版にはまだ実装されていない機能がいくつかある。
Photoshop iPad版を実際に触った筆者の感想は「恐ろしいほど簡単に、Photoshopが使えるようになる」だった。
まず、1つ強調しておきたいのは「Photoshop iPad版は、デスクトップ版Photoshopの代替品ではない」という点だ。もちろん良い意味で。
アプリの外観や各種機能などはデスクトップ版ゆずりの機能で、一部のショートカットキーの設定はデスクトップ版と共通しているが、実際の操作感や体験はかなり異なる。タッチやペンの操作を主軸とするiPadと、キーボードやマウス(トラックパッド)での操作が基本のWindowsやmacOSでは、標準となる操作感覚も画面の大きさが異なるからだ。
ユーザーインターフェース(UI)の大きさや配置位置など、細かな点、そして現在実装されている機能もデスクトップ版Photoshopとは差異がある(機能に関して言えば、アドビは今後機能追加を予告している)。
多様な“創り方”への期待感
最新のデータをいつでも、対応するどのアプリでも呼び出せる「クラウドドキュメント」はクリエイターに新しい作業の仕方を提案している。
だからといって、Photoshop iPad版がデスクトップ版Photoshopの廉価版・機能制限版である、という認識も正しくない。
今でもそうかもしれないが、これまでPhotoshopを初めて使う人は、ある程度の知識と操作の仕方を覚える必要があった。
一方、Photoshop iPad版は画像編集の専門用語などは知っておく必要はあるものの、基本的には直感的な操作かつ、次への動作への導線が考慮された非常にわかりやすいUIになっている。デスクトップ版と比べて“Photoshop独特の作法”を覚える必要が大幅に減っている。
また、Photoshop iPad版に導入されたクラウドドキュメントの仕組みにより、オンライン環境下であれば、常に最新のデータを、家ではデスクトップ版のPhotoshop、出先ではiPad版のPhotoshopやお絵かきツールの「Fresco」で開くことができる。
Photoshop iPad版は多くのクリエイターや、何かを創りはじめたいと思っている人に対して、新しい“創作手段”を提案できる、そんな期待感を込められる製品だ。
(文、撮影:小林優多郎 取材協力:アドビ・システムズ)