Adobe MAX 2019の会場となるロサンゼルスコンベンションセンター(LACC)。
撮影:小林優多郎
アドビは11月4日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにてクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2019」を開催した。
Adobe MAXは62カ所以上の国や地域から1万5000人以上ものクリエイターが参加する大規模イベントだ。例年、基調講演(キーノート)では同社のクリエイティブツール群「Adobe Creative Cloud」の最新アップデートが発表される。
MAX 2019においても、開催前日に公開した「Photoshop iPad版」のような最新製品や開発中の製品が発表になった。
いまや従来から「クリエイティブ」と呼ばれる作業は決してプロフェッショナルの需要だけではない。誰もが動画や写真をSNSなどで投稿・公開する時代がやってきた今、クリエイティブツールの事実上の標準的存在になったアドビはどうアプローチルするのか。MAX 2019の注目ポイントをまとめてみた。
1. フォトショップに続き「Illustrator iPad版」の開発が発表
Apple Pencilでかんたんにイラストが描けるIllustrator iPad版。
Photoshop iPad版はMAX 2018で発表になったが、MAX 2019ではイラスト作成ソフト「Illustrator iPad版」の開発が発表になった。
Illustratorの特徴であるベクター(曲線や線などを数式で定めることで、拡大縮小しても滑らかな線が維持される方式)ベースの仕組みをiPad向けに最適化。Apple Pencilを用いて容易に高品質なイラストを描けるように開発が進められる。
正式公開は2020年とアナウンスしており、MAX 2019開催と同時にクローズドベータプログラムがスタートしている。
2. AR制作キット「Adobe Aero」が公開
プログラミングの知識がなくても、ARコンテンツを作れるAdobe Aero。
出典:アドビ
2018年のMAXで、Photoshopと同時期に発表された「Project Aero(エアロ)」改め「Adobe Aero」が正式公開になった。
AeroはPhotoshopのレイヤー(階層)表現を使ってAR(拡張現実)コンテンツを作れるツール。クリエイターはiPhoneやiPadのカメラを通した映像上で、プログラミング不要で3DモデルやPhotoshop、Illustratorのオブジェクトを配置したり、動きを付けたりして、ARコンテンツを制作できる。
制作したARコンテンツはAero向けのファイル形式のほか、アップルの「AR Quick Look」でサポートされる「USDZ形式」のファイルで書き出せ、iOS 12以上のiPhoneやiPad(ARKit対応端末)でARコンテンツを表示できる。表示は専用アプリ不要、ブラウザーでOKだ。
Aeroは現在iOS向けアプリとして提供されているが、MAX 2019と同時にデスクトップ版のベータプログラムを開始している。
3. スケッチアプリ「Adobe Fresco」がWindowsに登場
Windows版Frescoのデモを行なうアドビの岩本崇氏。
8月にiPad向けに公開されたスケッチツール「Adobe Fresco」のWindows版が公開された。iPad版同様にアドビのAI技術「Adobe Sensei」を活用した水彩画のにじみや油絵の質感を表現できる「ライブブラシ」はWindows版でも健在だ。
また、他のスケッチアプリでは既に実装例があるが、制作過程を動画で表現するタイムラプス画面録画機能が実装。また、アプリ内でのライブビデオ配信機能も今後提供予定と発表された。
Windows版に関しては、すべてのWindows搭載端末ではワコムの「Wacom Mobile Studio」シリーズおよび日本でも発売予定のマイクロソフトの「Surface」シリーズに対応する。
4. Adobe XDがリアルタイム共同開発・バージョン管理に対応
バージョン管理やリアルタイム共同編集機能が実装されるAdobe XD。
出典:アドビ
ここ1、2年で発表されたアドビの新型ツールの中で一際盛り上がりを見せているのが、プロトタイプ制作ツール「Adobe XD」だ。
Adobe XDはウェブページやサービス、モバイルアプリなどのいわゆる「デザインラフ」をつくるためのツール。デザイナーはレイアウトのイメージはもちろん、プログラミング知識なしでアニメーションなどを設定できるため、実際に機能を実装するエンジニアと円滑な意思疎通が可能となる。
そんなXDに「リアルタイム共同開発機能」が実装される。これにより複数人がクラウド上の同じファイルにアクセスして、それぞれの編集結果がほとんどリアルタイムで反映。よりスピーディーな開発が可能になる。
また、合わせてバージョン管理機能も搭載。作業の履歴が逐一クラウド上に保存され、30日以内であれば過去のバージョンに復元できる。
これは個人の作業でも便利な機能だが、前述の複数人での作業で時でも有効なため、誰かが間違えて予期せぬ編集をしてしまっても、慌てずに元の状態に戻すことができる。
5. PhotoshopやPremiereなどもSenseiの力で強力に
範囲選択ツールが大幅進化したデスクトップ版Photoshop。
出典:アドビ
既存のデスクトップアプリも進化を遂げている。とくに写真編集ソフトの「Photoshop」と動画編集ソフトの「Premiere Pro」に関しては、誰もが驚く機能が実装された。
Photoshopでは、今までも「自動選択ツール」を使って被写体を簡単に選択できたが、この作業がさらに簡単になる。新機能の「オブジェクト選択ツール」では、単に被写体を含む形で範囲選択すれば、自動的に背景などを除いた形で被写体を選択できる。
合成のための素材の切り抜き作業など、使用者の“手間”と呼べるものが大きく短縮化される。
動画の縦横比をかんたんに変えられるPremiere Pro。
出典:アドビ
Premiere Proに関しては、「オートリフレーム機能」が追加された。
オートリフレーム機能は動画編集データ(シーケンス)を、縦長や正方形などの別の縦横比のデータに変換するというもの。単に一定の位置で切り取るわけではなく、動画に写っている被写体や文字テロップに合わせて自動変換するため、つくった動画をSNSの仕様ごとに書き出したいときに便利だ。
いずれの機能もAdobe Senseiによる強力な画像解析の賜物であり、アドビはクリエイターが機械的な作業に時間を浪費せず、より自身の作品に集中できるような機能に仕上げている。
(文、撮影:小林優多郎 取材協力:アドビ)