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2000人満席の塾。子どもたちの「すげー」を引き出す「探究学舎」代表・宝槻泰伸

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撮影:竹井俊晴

子どもを塾に通わせる理由は、成績アップ、そして、その先にある受験合格。

そんな“当たり前”を壊し、急成長している教室がある。

東京・三鷹に拠点を置く「探究学舎」。国語や算数といった教科学習やテスト対策は一切行わず、子どもたちの「もっと知りたい!」「やってみたい!」という好奇心を刺激して、自ら探究する力を身につける、まったく新しい学び舎だ。

授業の区分は、「宇宙編」「元素編」「経済金融編」「戦国英雄編」といったテーマごと。クイズや実験、カードゲーム、ジオラマ、映像、音楽など五感で楽しめる仕掛け満載の90分間の授業に、小学校低学年の子どもたちも夢中になる。この秋にはオーケストラも巻き込んで開発した「音楽編」をリリースした。

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塾生の子どもたちが手作りした巻き物。独力で調べた事柄がびっしりと書き込まれており、夢中で取り組む姿が伝わってくる。

撮影:竹井俊晴

塾にお決まりの宿題もない。任意の提出物は「ミッション」と呼ばれ、探究心に火が付いた子どもたちが、自ら書き上げた“巻き物”は壮観だ。授業を受けて宇宙の虜になった小学1年生の男の子が「宇宙すごろく」を発案し、商品化までサポートしたこともあるという。

探究心の爆発には「驚きと感動」

「子どもたちの探究心を爆発させるきっかけは、“驚きと感動”なんです。自然の神秘と人類が積み重ねてきた英知。その壮大なストーリーの奥深さに触れ、『すげえ!!』と感動したら、子どもは勝手に学び出す。そんな興味開発型の教育を、僕はやっています」

探究学舎代表の宝槻(ほうつき)泰伸(38)の口調はよどみない。

「例えば、元素編ではすっげーキレイな元素の模型を使って……」と語り出すと止まらない。その目はキラキラと輝き、誰よりも自身が楽しんでいることが伝わってくる。

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撮影:竹井俊晴

宝槻が目指す教育は、一言で表すとどういうものなのか?そう問うと、「スーパーマリオを育てること」という答えが返ってきた。

「貧困や少子化、環境問題……世の中にはいろんな課題が山積で、例えて言えば、僕たちの生きる世界の頭上には“閉塞感”という壁がある。その壁をぶっ壊す挑戦者は、いわばがスーパーマリオのような存在です。マリオって頭上のブロックを壊す時に“ジャンプ”をしますよね。それと同じで、勇気をもってジャンプする挑戦者、つまりマリオが、世の中には必要とされているんです」

ジャンプ力の元になるのは、強い興味や関心、独自に磨いた能力。バイオテクノロジーに没頭して壁を突破する人、地方食の掘り起こしで壁を突破する人……これからは「多様なマリオの育成」こそ教育の役目なのだと宝槻は考えている。

「学歴ピラミッドの頂点に立つビジネスエリートに集中投資する時代は終わった。受験の勝ち組をつくると、その裏で大量の負け組をつくることになる。マリオには定員はありません。街中の誰でもマリオになれます。人それぞれの情熱や個性を通して社会に貢献できる。その道筋づくりこそ、教育がやるべきことでしょう」

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撮影:竹井俊晴

受験にコミットしなくても成立する

深刻な少子化問題を抱える日本で、教育産業は“斜陽産業の一つ”と言われる。伝統的な受験対策塾や予備校ですら経営に苦しむ時代だ。

それでもなお教育業界に挑む勝算は、“ルールチェンジ”にある。

「東大合格者数という限られたパイを取り合っても、成長には限界がある。

塾の経営者ともよく話をするのですが、彼らも危機感を持っていますよ。『多様性の時代に、受験をゴールにする教育だけでは足りない』と。そして、何より、子どもたちがワクワクして、何かに夢中になる姿を見たいと思っている。

しかし、自分たちが飯を食ってきたビジネスモデルを簡単に捨てることはできない。大きな“船”ほど、そのジレンマを感じているはずです。

だからこそ機動力のある僕らが、“受験にコミットしなくても成立する”教育ビジネスがあるのだと、新しいモデルを示したいんです」

探究学舎が受験塾にシフトするのは簡単だという。実は、そんな時代もあった。でも、もう戻る気はない。

「業界を変えるために、振り切る必要がある」

強い意志の裏には、この5年の間につかんできた確かな“手応え”がある。

全国各地で数千人が参加

探究学舎

授業は国語、算数など教科別ではない。「宇宙編」「元素編」「経済金融編」「戦国英雄編」などに分かれている。

提供:探究学舎

全国で1校しかない教室に通う生徒数は70人から500人に。今では海外からも入塾希望者がいる。売り上げは2000万円から3億円に成長した。

通塾生以外の子どもたちとの接点を増やしたことで、2019年夏から始めた地方で開催するイベント形式の授業「探究ツアー」の参加者は累計5000人を超え、3年前から始めた短期集中講座「探究スペシャル」は2019年の夏休みまでに8000人を呼び込んだ。

週1回90分の授業に通塾する費用は月2万円、長期休暇を中心に実施される「探究スペシャル」は2日間で3万6000円と、決して安くはないが、体験受講の希望者は年々増え続けているという。1回数千円の参加費でより気軽に参加できる「体験ツアー」や、自宅で受講できるオンライン授業の開発にも積極的だ。

「昔は、『いい大学を出て、医者や弁護士になる』というのが人生の成功則だった。でも今は、成功の評価軸が一つではなくなり、『わが子が夢中になれる何かを探してあげたい』と願う親のニーズも高まっている」

宝槻自身も、5人の子どもを育てる親として、価値観の変化を肌で感じているという。

「でもね、今でこそ自分のミッションやビジョンをはっきりと語ることができるようになりましたが、従来の価値観に長らくとらわれていた時期もありました」

そう言って、宝槻は語り始めた。(敬称略・明日に続く)

(文・宮本恵理子、写真・竹井俊晴、デザイン・星野美緒)


既存のルールや枠組みを超えて新しい仕組みやビジネスを作ろうとチャレンジする人たち「ミライノツクリテ」。Business Insider Japanでは「ツクリテ」たちを応援し、世の中に伝えるための連載を始めます。

トップバッターは塾業界から日本の教育を大きく変えようとしている「探究学舎」代表の宝槻泰伸。


宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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