中国の「ブロックチェーン強国」宣言に沸く仮想通貨市場。習政権が目指す世界初の官製デジタル通貨

習近平

習近平国家主席の発言を機に、中国はにわかブロックチェーンブームに沸いている。

REUTERS/Jason Lee

「ブロックチェーンって一体何なんだ(区块鍵到底是啥)」

10月29日、中国最大の検索ポータル、バイドゥ(百度)で、冒頭の一文がリアルタイム検索1位に躍り出た。

10月28日には中国上場企業20社以上が、「当社とブロックチェーンの関わり」を説明する文書を発表し、株式市場ではブロックチェーン関連銘柄が軒並み急騰した。

現地メディアによると、10月25日から11月1日までの1週間、人民日報、新華社、光明日報、中国日報、中国人民広播テレビ局、中国テレビ局の政府系7大メディア発の「ブロックチェーン」をタイトルに含むニュースは62件。そのうち新華社は最多の16本の記事を掲載した。

非政府系メディアも、新聞からウェブメディアまで「ブロックチェーンはあなたの生活をこう変える」「国民総ブロックチェーン」など、ブロックチェーンに引っ掛けた記事を大量生産している。

日本のラグビーブームより熱いかもしれない、中国の「にわかブロックチェーンブーム」。管理者のいない非中央集権的な技術であるはずのブロックチェーンを一気にバズワードに押し上げたのが、中央集権国家のトップ習近平国家主席の演説だったという事実には、同国の矛盾も透けて見える。

仮想通貨は禁止、ブロックチェーンは推進

ビットコイン

中国は2017年、仮想通貨取引を全面禁止した。

REUTERS/Anton Vaganov

10月24日、中国共産党中央政治局が開いたブロックチェーン関連の研究会に出席した習主席はこのように発言した。

「ブロックチェーン技術の応用は、新たな技術革新と産業イノベーションにおいて重要な役割を担う。世界の主要国家がこぞってブロックチェーン技術の発展を支援している。我が国も積極的にブロックチェーンを経済・社会に導入し、発展を図っていく」

圧倒的な権力を持つ習主席が、ブロックチェーン分野で中国の国際的なルール制定力を高め、世界の覇権を握る意欲を表明したことで、この聞き慣れない言葉は一気に広がった。

中国は2017年9月、投機の過熱や詐欺行為のリスク防止のために、仮想通貨の取引やICOを全面禁止した。だが、仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーンについては、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などと並ぶ次世代技術として支援してきた。

中国IT大手テンセント(騰訊)グループが10月に発表した「2019年テンセントブロックチェーン白書」によると、2016年に中国の政策の方向性を示す五カ年計画に「ブロックチェーン」という言葉が初めて登場して以降、裁判の証拠保全手続きや行政事務の効率化など、公共サービスでブロックチェーンの活用は着実に進んでいる。2019年6月時点で中国25省、市、自治区、特別行政区がブロックチェーン関連政策を導入している。

また、同分野での特許競争も激化。2015年に中国で31件だったブロックチェーン関連特許申請件数は、2016年に430件、2017年に1210件、さらに2018年には2435件に拡大。3年で80倍に増えた。

中国知財メディアIPRdailyによると、2019年前半、ブロックチェーン関連特許申請数が世界で最も多かったのは中国アリババ(子会社のアント・フィナンシャル含む)で322件だった。

5年越しのデジタル人民元構想、リブラで加速

人民銀

中国人民銀行はデジタル通貨の発行を5年前から検討してきた。

REUTERS/Petar Kujundzic

このように、金融・ITを中心に産業分野では既に注目技術となっていたブロックチェーンだが、習主席直接の“承認”が伝わると、一気に国民的な話題に昇格。波は世界にも波及し、ビットコインを初めとする仮想通貨相場も急騰した。

一方、仮想通貨相場がダイレクトに反応すると、政府系メディアは一斉に「ブロックチェーンは国の重要産業だが、仮想通貨はこれまで以上に厳しく取り締まる」と報じ、線引きに躍起になっている。

中国政府の「ブロックチェーン強国」宣言は、Facebookが6月に発表した暗号通貨プロジェクト「リブラ」が刺激となっていることは間違いない。

中国ではFacebookへのアクセスがブロックされているにもかかわらず、リブラ発表後、中央銀行である中国人民銀行幹部が公の場でそのメリットやリスクを論じるようになった。

さらに人民銀の王信研究局長が7月8日、「中央銀行がデジタル通貨を直接発行するのは、通貨政策にプラスになると考えている。今後、デジタル通貨発行の研究を進めていく」と発言すると、人民銀幹部の発言はリブラからデジタル人民元にシフトしていった。

とはいえ、中国はFacebookに対抗してデジタル人民元の開発に着手したわけではない。アリババやテンセントなど民間IT企業が主導してキャッシュレス社会が急速に進展する中、人民銀は2014年にデジタル通貨の研究を始め、2017年には深セン市にデジタル通貨研究所を設立している。

リブラの衝撃によって、五年越しのデジタル人民元構想の実現を加速させた、というのが、人民銀の主張だ。

デジタル人民元のプライバシーは「半分」守られる

FB

Facebookの暗号通貨リブラは規制当局の反発を買い、計画通りのローンチが難しくなっている。

REUTERS/Erin Scott TPX IMAGES OF THE DAY

Facebookのリブラが足踏みする一方、デジタル人民元の開発が加速したことで、両者は並べて、あるいは対抗する存在として論じられるようになったが、目指す世界や設計は違う。

リブラが国際送金のコストを下げ、銀行口座を持たない人に金融サービスを提供する理想を掲げている一方、デジタル人民元は「利子もつくし、電子マネーと現金のいいとこどり」(人民銀)と説明されてはいるが、実際は消費者のお金の流れを把握し、丸裸にするためのツールでもある。

デジタル人民元は中央集権的に運用され、交換や利用が「実名制」となる点も、既存の暗号通貨とは大きく違う。

中国の著名エコノミスト宋清輝氏は8月21日、人民銀の意を汲む形でSNSウェイボ(微博)に以下のように投稿した。

「中国人民銀行が発行を準備しているデジタル通貨とビットコインは、天地ほどの違いがある。ビットコインは非中央集権的なデジタル通貨で、帳簿は公開されているが口座は匿名性だ。中央銀行のデジタル通貨は中央集権的で、口座は必然的に実名制で、取引は追跡できる。プライバシーは半分守られ、政府だけが閲覧する権利がある」

これにはフォロワーからも「じゃあ、プライバシーは政府に筒抜けじゃん!」「全ての収入を把握して、完全に税金を徴収するためだな!デジタル通貨導入に否定的なドイツ人の賢さがようやく分かった」と突っ込みが相次いだ。

ブロックチェーンの中心軸は東に移動

海外メディアのフォーブスが8月、特ダネとして「デジタル人民元は(アリババなどECサイトでセールが行われる)独身の日の11月11日にローンチする」と報じ、世界中で拡散したとき、人民銀は即座に「デマだ」と否定した。だが、穆長春決済司副司長は「(デジタル人民元は)いつでも出せる状態」とも述べており、官製デジタル通貨世界一番乗りへのカウントダウンは着実に進んでいる。

習主席の「ブロックチェーン強国」発言から2日経った10月26日には、暗号業界の整備や振興を目的にした暗号法も成立。2020年1月1日の施行が決まった。Facebookのリブラへの期待から始まった2019年のブロックチェーン市場だが、中国の参戦によって世界の中心軸は大きく東へ動いている。

(文・浦上早苗)

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