いじめやパワハラで病んだとき、組織を出るのはなぜ被害者なの?

落ち込んでいる人

被害者側であるのにも関わらず、組織を出なければいけない社会の構図に不満を抱く。

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相談を受けるたび、またかと思う。被害者が組織を離れ、加害者が組織に残るというこの構図。

学校のいじめや、会社のパワハラに当てはめて考えてみてほしい。いじめられた側がそこを離れ、いじめた側が残るという結果を、今まで数々の場面で見たことはないだろうか。

常習犯上司ではなく衰弱した部下が悩む

私はキャリアコンサルタントとしてさまざまな人から相談を受ける。

上司の無茶振りがあまりにひどく、過労で倒れてしまい、会社に残るべきか悩んでいるという20代女性。女性からの相談では、その上司と今後もうまくやって行けるかが悩みのポイントとなった。

相談に乗っているうちに、ふと違和感を感じた。

なぜ、被害者側がこれほどまでに、問題の上司とうまくやっていけるかを考えなければならないのかと。

聞けば、この上司は過去にも同様のケースで部下を追い込み、退職者も出したことがあるという。いわば、部下をダメにする“常習犯”だ。そんな人を野放しにして、一体、この組織はどこへ向かっているのだろうか。

他にも、20代の会社員男性から「働くうちにうつ症状が出始め、退職を検討している」という相談がきたことがあるが、やはりその人が頭を悩ませていたのは、今後の上司との付き合い方だった。

うつ症状があることを診断書で見せているにもかかわらず、業務量もそのままで、何も配慮しようとしない上司とうまくやっていけるのだろうかという不安が、相談者側につきまとっていた。

「一度、会社の方に相談してみては?」と聞いても、会社は現状を知りながらも何も動きがなかったことから、相談しても期待はできないと言う。結局その人は、いまだに自分の病気に対する上司の理解が得られず、転職活動を始めた。

こうしてまた、被害者側が組織を出て行く。

「あなたにも非があったのでは?」

上司

上司からのパワハラへの視線が厳しくなった今でも、上司が原因で過労やうつに苦しむ社員は存在する。

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かく言う私も、会社でベテラン社員からセクハラに遭い精神的に追い込まれた時期があったが、「あなたにも非があったのでは?」という心ない人事担当者の言葉もズシンと重くのしかかり、最終的には組織への居づらさを感じ、そこを離れた。

上司によって引き起こされた過労やうつに苦しむ社員が出た場合、一体どれだけの企業が現場検証や上司へのチェックを行っているのだろうか。過労で倒れるほどまで働かせた上司や、死を意識するほどまでうつ状態に追い込んだ上司の責任は問われたのだろうか?

もちろん、パワハラやセクハラに対する社会の目は、10年前20年前と比べれば、ずっと厳しくなっているだろう。

それでも、被害者側は強く訴えることのリスクを恐れ、うやむやになってしまうことは珍しくない。上司に何のお咎めもなく、何事もなかったかのように働くことができてしまうケースは未だにある。被害者が去れば、何もなかったかのように職場の日常が続く“コトの軽さ”には驚かざるを得ない。

被害者が組織を出るより前にやるべきこと

会社の被害者に対するアフターフォローとして、定期的な面談などを行うことはよくある。

しかし、本人にヒアリングしたところで、加害者との上下関係がある中で真実が語られるかは疑問だ。被害者が衰弱しきっているケースや、思い出すのもつらい状態であれば、聞き出すことそれ自体が被害者への精神的な負担になったりもする。

だからこそ、会社が表面的なことに止まらず覚悟を決めて事実確認と然るべき対応をしなければならない。「あなたにも悪い部分があったのでは?」と、被害者側を追及することなど言語道断だ。

まず被害者を守ること、その選択肢の一つとして、被害者自身が組織を出ることも大切だ。しかし、そうなる前に組織がしなければならないことは、被害者が安心して働けるような職場に作り変えることではないだろうか。

また一人雇えばいいでは済まされない

職場

加害者である上司だけでなく、その状況に対して見て見ぬ振りをしてしまう職場全体の「空気」が、被害者をより一層苦しめてしまう。

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日頃、被害者は加害者である上司や、この件を対応する人事などの部署だけでなく、その周囲の人とも関わり合って仕事をしている。

直接この件に関係がない人からの風当たりの強さは、余計に被害者を苦しめる。過労やうつで、正常に働くことが困難になった時、追い込まれた被害者を「忍耐力のない人」「体が弱い人」などと決め付け、会社の変わり者として扱う人もいるだろう。

そうした「空気」がより一層、被害者を組織の外へ外へと追い込む。

しかし、すぐに組織にはびこる文化を変えることは難しくても、会社が変わろうとする意思をしっかりと持ち、態度で示していく。そうすることで、被害者が組織から出ることだけが唯一の選択肢のような状況を、少しは食い止めることができるのではないだろうか。

1人の退職者が出た時に、「また1人雇えばいいか」などと言っている場合ではない。社員は会社の部品ではないのだ。新しい人を入れたとしても、その人にまた同じように嫌な思いをさせてしまうだけだ。

どんなに素晴らしい理想や理念を掲げ、事業を推進していても、社内ではパワハラ・セクハラ常習犯を野放しにし、社員が不幸な組織に、未来はない。

(文・境野今日子、写真はイメージです)


境野今日子:1992年生まれ。株式会社bitgrit人事部長、株式会社地方のミカタのキャリアコンサルタントなどの職場で働くパラレルワーカー。新卒でNTT東日本に入社、その後、帝人を経て現職。就活や日系大企業での経験を通じて抱いた違和感をTwitterで発信し、共感を呼ぶ。

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