Adobe MAX 2019では、Illustrator on iPad(Illustrator iPad版)の開発発表があり、会場もSNSも盛り上がりを見せた。
撮影:小林優多郎
アドビは11月4日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催中のクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2019」を開催。同社のクリエイティブツール群のアップデートなどを発表した。
その中でも、ベクタ形式※のイラスト制作ツール「Illustrator iPad版」(英語名はIllustrator on iPad)の開発発表には、とくに大きな反響があった。
※ベクタ形式とは:
線や図形などを数式やパラメーターで表現する形式。写真などはドット(点)の集合体で表現されているラスタ形式の画像に対し、ベクタ形式の画像は拡大縮小しても画質が劣化しない。
Illustratorは、その製品特徴から写真編集を得意とするPhotoshopとは違う傾向のイラストや、企業ロゴ、印刷物の制作などに広く使われている、アドビの看板製品の1つ。iPad版の開発発表への反響の大きさも、Illustratorが多くの人に使われていることに起因する期待感によるものだろう。
MAX 2019では、プレビュー版のアプリが自由に触れる状態で展示されていたため、実際に触ってみた。
作業画面のトップ。中央にはアートボードが広がっている。
左側にはツール群。デスクトップ版と比べると、まだプレビュー段階のためツールの数は少ない。
右上にはアートボードの切替画面と、選択しているオブジェクトによって内容が変わるプロパティーパネルがある。
例えば、テキストボックス選択時のプロパティーパネルでは、色や大きさだけではなく、フォントの種類や行間の調整などが可能だ。
右側中央には「パスファインダー」や「整列」のツールがまとめられている。
さらに、Illustrator iPad版のデモの目玉でもあったリピート(繰り返し)・シンメトリー(線対称)表現の機能もここにある。
今回は確認できなかったが、Illustrator iPad版にはカメラで読み取ったラフ画から自動でパスを作ってくれる機能がある。
最終的に「プロでも使える」レベルを目指すiPad版イラレ
現在はプレビュー版ということで、Illustrator iPad版のアイコンは従来のオレンジではなく、青と白をベースの「設計図」のようなデザインになっている。
第1印象は、「なぜこんなにイラレ(Illustratorの愛称)が快適に使えるのか」という驚きだ。
iPadやApple Pencilに最適化されているユーザーインターフェース(UI)や処理スピードは、つい触りたくなる魅力があった。公開済みのPhotshop iPad版と同じように、ある程度の用語の知識などは必要だ。
しかし、従来のデスクトップ版Illustratorにあった「なんだか操作がよくわからないもの」「メニューバーなどに隠れた設定項目が多すぎる」といったような、いわゆる“一見さんお断り”のような雰囲気がiPad版では比較的薄くなっていると思う。
Illustrator iPad版について答えたアドビのEric Snowden氏。
もちろん、今回触れた限りの機能だけであれば、「Illustrator」を名乗るには足りない部分が多い。例えば、より細かな字詰めの設定や効果、ショートカットキーなどだ。
ただし、これは段々と充実していくだろう。アドビでデジタルメディア デザイン シニア ディレクターを務めるEric Snowden(エリック・スノーデン)氏は、iPad版について「キーボードやマウスがない状況、ペンシルをどう活かすのかがチャレンジだった」と開発の方向性を語った。
また、スノーデン氏は「(最終的には)プロでも使えるツールに仕上げる。そこまでには時間がかかるが、それがゴール。進みながら考えていく」とIllustrator初心者はもちろん、すでにデスクトップ版を活用しているプロユーザーでも満足できる機能や使い勝手を実装すると付け加えている。
Illustrator iPad版は2020年リリース予定で、現在クローズドベータプログラムへの参加募集を行っている。新しい世代のIllustratorがどのような進化を遂げるのか、今後も楽しみだ。
(文、撮影・小林優多郎 取材協力:アドビ)