マクドナルドがハッピーセットのおもちゃを回収し、店内で使用するトレーにリサイクルするプロジェクトが12月から始まる。
約127万個を回収した2018年は、プロジェクト期間中の売り上げも上がったという。食品の調達から物流までエコにこだわり、ファストフードの常識を覆す「エシカル消費」を目指す同社の取り組みとは。
捨てられないおもちゃ30個
店頭に置かれたおもちゃ回収BOX。1号線池上店(東京・大田区)にて。9月上旬撮影。
撮影:竹下郁子
日本マクドナルドがハッピーセットのおもちゃを全国の店舗で回収し、店内で使用するトレイにリサイクルする「おもちゃリサイクルプロジェクト」を12月6日から開始する(2020年1月23日まで)。春、夏に続き、2019年は3回目のキャンペーンだ。
9月上旬、夏のキャンペーン期間中に東京都内の店舗をたずねると、家から持って来たという過去のハッピーセットのおもちゃで遊ぶ親子連れが数組いた。自宅にハッピーセットのおもちゃが「30個はある」というのは、5歳と3歳の女児と男児を育てる母親だ。そのうち、子どもたちの関心が薄くなってきたもの20個をリサイクルしようと考えているという。
「もらうときすごく喜んでいたので、その瞬間を思い出すとなかなか捨てられませんでした。子どももただ捨てると言ったら絶対に嫌がると思うんですけど、リサイクルにできるんだよ、良いことなんだよと話したら、素直に応じてくれそうだなと」
撮影:竹下郁子
6歳の女児を育てる別の母親も、
「うちにも10個はあります。これまでは特別に気に入っている物以外は捨てていたのですが、子どもに環境のことを教える良いきっかけにもなるし、これからは娘と一緒に回収ボックスに入れに来ようと考えてます」
と話した。
おもちゃは店頭に置かれたボックスで回収する。母親たちは皆、このボックスを見てキャンペーンのことを知ったそうだ。
親たちからのリクエストを受けて、リサイクルについて子どもでも分かりやすく学べる冊子も、店舗には置かれている。入り口付近にあったおもちゃの回収ボックスを見せてもらうと、懐かしいキャラクターから最近の物まで、どれも綺麗な状態で回収されていたのに、驚いた。
おもちゃのリサイクルは至難の技
回収BOXの中を覗かせてもらった。
撮影:竹下郁子
「おもちゃリサイクルプロジェクト」を始めた2018年は、約127万個のおもちゃを回収し、約10万枚のリサイクルトレイに再生した。これはプラスチックのおもちゃを対象としたリサイクルの取り組みとしては、国内最大規模になる。ハッピーセットの販売は年間約1億食。マクドナルドが持続可能な社会を目指して活動する“Scale for Good”の一環だ。
キャンペーンを担当する、日本マクドナルドCSR部・マネージャーの岩井正人(まさと)さんによると、きっかけは2014年、当時営業職だった岩井さんの元に、「ハッピーセットのおもちゃをどうやって捨てたらいいのか分からない」という客からの声が多数上がってきたことだという。
「回収ボックスを開けて本当にマクドナルドのおもちゃかどうか確認する作業をしたことがあるのですが、99.9%そうでした。あとはレシートが少し入っているくらい。
お子さんの名前や『バイバイ』と書いてあるものもあり、私でも涙が出そうだったので、これを捨てるのは難しいだろうと。 このプロジェクトを実施する前は『リサイクルしたいけど方法が分からない』という声もありましたね」(岩井さん)
日本マクドナルドCSR部・マネージャーの岩井正人さん。
撮影:竹下郁子
同時期、ニューヨーク国連本部でSDGsのアジェンダが採択されたこともあり、会社として環境問題にどう向き合うか考える中で生まれたプロジェクトだという。
しかし、おもちゃはさまざまな素材からできている。 プラスチックと言っても多くの種類があり、たとえば体の部分になっているのはABSという樹脂だが、目はポリプロピレン、手はポリエスチレンだったりと、複雑に組み合わさっている。さらにその中に電池やネジが入っていたりと、リサイクルするのは非常に難しく、どこの企業もなかなか手を出せなかったのだという。
マクドナルドは、衣類やプラスチック製品のリサイクルを手がけるベンチャー企業・日本環境設計と組み、愛媛県と茨城県、東京の一部の合計48店舗でテストをし、何とか全国キャンペーンにこぎつけた。環境省の「プラスチック・スマート」キャンペーンとも連携している。
リサイクルトレイといっても、回収したおもちゃからできたリサイクル樹脂は約10%程度だ。
「綺麗な色を出すには、今の技術ではこれが限界。できるだけハッピーセットのおもちゃだけでつくるよう、挑戦を続けています」(岩井さん)
新聞の空きトラックで塩の共同輸送
出典:マクドナルドCSRレポート2018
マクドナルドでは、他にもさまざまな環境への取り組みを行っている。
プラスチックの削減として2016年から、アイスコーヒーのカップをプラスチックから紙に変更し、2018年からは持続可能な森林認証である「FSC認証紙」を使用。持ち帰り用袋も紙袋を推奨し、プラスチックバッグは必要に応じて提供している。そのプラスチックバックも、植物由来の原材料からつくられたポリエチレンを50%以上使用したものだ。
飲食店のプラスチックごみ対策として話題にのぼることも多い「紙製ストロー」については、現在イギリスとアイルランドで実施中。日本では各国のテストの状況を注視している状況だ。
食品リサイクル率は2018年実績で53.4%を達成。ちなみに外食産業に置ける業界目標は50%、2016年度業界平均は23%だ。
撮影:竹下郁子
物流でのCO2削減にもこだわっている。
2019年6月からは、読売新聞が夕刊の配送に使っていたトラックの空きスペースで、マクドナルドの塩を輸送する共同輸送を始めた。関西の限定されたエリアだが、1年間でCO2排出量は約 1.1トン、トラックの走行台数約230台分の削減を見込む。「おもちゃリサイクルプロジェクト」で回収したおもちゃを工場に運ぶ際も、新たにトラックを仕立てるのではなく、例えばハンバーガーのパティを持って来たトラックが帰る時に載せるなど「戻り便」を使って工夫している。
食材も、RSPO認証パーム油や海のエコラベルと言われるMSC認証などにこだわって調達している。
「今あげたような認証マークの日本での認知度はまだまだ低いですが、環境に優しいものを選ぶことは、未来への投資です。マクドナルドで食事をするだけで、環境問題、社会問題に貢献していることになる。つまりエシカル消費になるということを、もっと広く伝えていきたいと思っています」(岩井さん)
「目的来店」でビジネスチャンスに
撮影:竹下郁子
こうした環境問題への取り組みは、ビジネスチャンスにもつながっている。「おもちゃリサイクルプロジェクト」では、岩井さんは子どもが両親や祖父母を連れて来店する光景をよく見たという。
「2018年は73日間で約127万個を回収しました。1人が2個持って来ているとしても、63万人が来店している計算になります。しかし、マクドナルドには家族で来店することが多く、63万人の数倍の方がおもちゃをリサイクルしにマクドナルドに来店されました。
飲食店の重要な指標として、偶然の『衝動来店』ではなく、自社をわざわざ選んで来てくれる『目的来店』というものがあります。環境アクションによる目的来店は何人ですかと聞かれて答えられない店が多いと思いますが、このプロジェクトではその点も数値化でき、経済合理性があることも確認出来ました 」(岩井さん)
環境問題への取り組みには、持続可能性が欠かせない。このプロジェクトでどの程度売り上げが上がったのか詳しい数字は非公表とのことだが、こうした結果を受けて、今年もさらにキャンペーンを継続・拡大することになったのだという。
さらにブランドイメージ調査では、このキャンペーンを受けて、母親のイメージが圧倒的にポジティブに傾いたという。
「マクドナルドは環境にいいことをしていると多くの人に伝えることができました。これはお金に換算できない、無形の財産です。
マクドナルドの店頭で働くクルーは約15万人。その研修でも今年から環境問題への取り組みをトレーニングするようにしました。例えばアルバイトの高校生が『マクドナルドって持続可能な調達してて、実は森を守ってるんだよね』と家族の食卓で話してくれれば、また良い影響が広がっていくと考えています」(岩井さん)
(文・竹下郁子)