高級車、人気学区の家も半額、世界最大のセール 中国「独身の日」。日本企業も参戦

倉庫

2019年の独身の日に向けて、海外の荷物を仕分けする倉庫のスタッフ。

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今年も中国、いや、もはや世界最大のセール「独身の日」の戦いが始まっている。

ネットショッピング普及のためにEC大手のアリババが2009年に始めたセールは2019年で11年目を迎え、良く言えば定着、悪く言えばマンネリ化する中、商戦を盛り上げのためについには住宅や高級車までがセール品として売りに出された。

65インチテレビ、20秒で1万台

ダニエル・チャン

アリババは昨年、独身の日セールで3兆円を超える売り上げを記録した。

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独身の日は、「シングル」を示す「1」が4つ並んだ11月11日だが、アリババをはじめとするEC各社は、10月下旬から11月初旬にセール品の予約を開始し、11日0時の時点で巨額の売り上げを発表するのが恒例になっている。実質的なセール開始日は年々早まり、アリババのECサイト「天猫(Tmall)」は10月21日に予約受け付けを始めた。

Tmallによると予約開始10分で化粧品ランコムや資生堂など7ブランドが1億元(約16億円)超え。エスティローダーは25分で5億元近くを売り上げた。ファーウェイ、Honor(ファーウェイのサブブランド)、OPPO、vivo、シャオミの中国スマホ勢も、同日のセール開始30分で、2018年の1日の注文額を上回ったという。

11月1日にセールを始めた中国EC2位の京東商城(JD.com)では、65インチの大型テレビが20秒で1万台売れ、ミニ冷蔵庫、大型冷蔵庫、洗濯乾燥機も1時間で1万台を突破したと発表した。

農村と超大型商品に注目

配達員

カンフー着を身に着け、独身の日のセール品を配達するスタッフ。

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中国の消費市場では「金九銀十」という言葉があり、大型連休を挟む9、10月がピークとされてきた。金九銀十と春節(旧正月)の消費の谷間を埋める存在として、存在感を高めてきた独身の日セールは、アリババの1日(といっても前述したように、数週間の予約注文分を含む)の販売額が2兆円(当時の為替レート)を突破した2016年ごろから、日本でも注目されるようになった。ちなみに、アリババのECサイトの独身の日セール売り上げは以下のように、猛烈な勢いで伸び続けている。

  • 2016年:1207億元(約1兆9000億円)
  • 2017年:1682億元(約2兆6000億円)
  • 2018年:2135億元(約3兆3000億円)

アリババばかりが注目されるが、JD.comなど中国のEC企業はもちろん、リアル店舗も参画し、巨大なパイの奪い合いにしのぎを削っている。

セール前に大規模な買い控えが起きたり、リアル店舗の売り上げが落ち込むなど、副作用も産みながら膨張してきた独身の日だが、「売り上げはいつか天井に達する」との指摘は数年前から出ており、企業、プラットフォームともに目玉づくりに腐心している。

その中で2019年の注目点は、以下の2点と言えるだろう。

・新興ECの台頭

2018年に中国経済が減速に入って、都市部の消費が伸び悩む中、「三、四級都市」と呼ばれる小規模都市や農村が新たな主戦場となっている。

激安商品の展開で急成長した新興EC「拼多多(Pinduoduo)」は、農村市場の代表旗手だ。

昨年、独身の日セールの売上高はアリババが2135億元、2位のJD.comが1598億元(約2兆5000億円)、初めて参加した拼多多は94億元(約150億円)だったが、今年は「どこよりも安くiPhoneを提供する」と宣言し、期間中の売り上げは300~500億元に増えると見られている。

アリババやJD.comも当然、農村市場を有望視しており、地方政府と組むなどしてユーザーの拡大に力を入れている。

・高級車メーカーも参戦

ボルボ

今年はボルボがセールに参戦し、大きな話題となっている(写真はイメージです)。

REUTERS/Pierre Albouy

今年のもう一つのトレンドは、ECが通常取り扱わない車や家といった超大型商品がセール品の目玉となっていることだ。

ボルボはTmallで定価24万9800元(約390万円)のボルボS60Lを13万8000元(約220万円)で限定販売すると発表。他にも数車種をTmall上で大幅に値下げし、話題を呼んでいる。

「住宅」も各社が出品している。Tmallは深センに143件、杭州の人気学区でも部屋を売り出した。JD.comは70都市の不動産企業約200社と組み、6000件を最大半額で出品した。

日本企業は目的がより明確に

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日本商品を中国に届けるインアゴーラは、今年の独身の日に合わせて、猫との日常を配信し、255.8万人のフォロワーを持つインフルエンサーを起用し、アプリや日本の商品をアピールしている。

bilibili動画より

数年前は「値引き」に踊らされて衝動買いをしていた消費者も経験を積んで賢くなっている。事前に下調べ、吟味し選別するのが、今の独身の日との向き合い方だ。

9月にジャック・マー(馬雲)氏から会長を引き継いだアリババのダニエル・チャン(張勇)氏は11月に入り、「独身の日は売り上げの額を競う場ではなく、最先端の技術を披露する場だ。昨年我々は1秒で48万件の注文を処理した」と述べた。

実際、アリババは独身の日に殺到する注文をさばくために、決済や物流のテクノロジーを進化させてきた実績があり、チャン氏の発言には、独身の日セールを定義しなおそうとの意識もにじむ。

独身の日は、日本メーカーにとっても大きな商機だ。資生堂、ユニクロはTmall全体の中でも人気が高く、毎年その戦績が注目されている。

日本商品を専門に中国向け越境ECを手掛けるインアゴーラ(東京)は、「日本で独身の日の購買力が認知される中で、最近は日本企業の取り組みに変化がみられる」と説明する。同社広報の板野可奈子さんは、「赤字覚悟でたくさん売るだけでなく、ブランドの認知やリピーター獲得など、目的を明確にして商戦に参画する企業が増えている」と話す。

世界中が注目するようになった独身の日、消費者も企業側も来るべき成熟の時期をにらみ、向き合い方を変化させているようだ。

(文・浦上早苗)

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