決算説明会に登壇した長澤啓執行役員CFO。
撮影:伊藤有
メルカリの2020年6月期 第1四半期決算は、「営業赤字70億円」だった。
11月7日に開かれた決算説明会は、長澤啓執行役員CFOのみが登壇するシンプルなスタイルだった。
約1カ月前の9月27日、メルカリは創業者の山田進太郎氏の社長復帰をアナウンス。メルカリは2020年を「勝負の年」と位置づけているが、その体制へのコミットを意識させる人事といえる。
数字で目に止まる「好調」と「不調」
新しい決算年度の方針と第1四半期の総括のスライド。
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2020年6月期の第1四半期の成績は、数字の上ではわかりやすい「好調」と「不調」が見える。
売上高は145億円(前年同期38%増)と順調に成長する一方、営業損益は赤字70億円と、前年同期の赤字25億円に比べて、大幅に悪化している。
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積極的な投資を続けるメルカリの場合、「この赤字が何によって作られているのか」が重要なポイントだ。
国内事業に関しては、今期も変わらず好調な成長を続けていると、長澤氏は強調する。
国内事業に関しては、前年同期比でいずれも大きく成長し続けている。
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前年同期との比較で売上高は120億円(23.1%増)、営業利益は21億円(同51%増)。国内事業単体なら「営業利益率18%」という健全な事業として成長しているといえる。
赤字の要因は、従来と変わりなくキャッシュレス決済「メルペイ」と、米国事業の「USメルカリ」だ。
USメルカリ事業の概況。1カ月あたりの取引額100ミリオンドル(109億円)を目標に掲げるが、現時点では四半期で100ミリオン到達がやっと。まだまだ先は長い。
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四半期売上高145億円の企業が70億円の赤字というのは、やはり目につく。
長澤氏は、赤字に関しては、「端的にいえばメルペイとUSの広告宣伝費」だとする。「広告さえしなければここまでの赤字にはならない」という意味で、コントロールされた赤字であることを強調し、「いますぐ危機的なものではないと思っている」とコメントした。
国内の取引高がダウントレンドに見える?
国内事業の月間ユーザー数(MAU、赤線)と取引高(GMV)をまとめたグラフ。GMVに関しては、直近前四半期からダウントレンドに転じているようにも見えるが……。
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70億円の赤字以外にもう1つ、気になる数字がある。
メルカリが成長指標の1つに掲げるGMV(取引高)の成長率が2019年第4四半期に続き、下り坂になっていることだ。
GMVのマイナス成長に関しては、2019年6月期の通期決算でも質問が出た。経営陣は当時、季節変化が大きい事業のため、第4四半期は「数字がへこみやすい」という趣旨のコメントをしていた。
それに加え、今四半期の数字上の不調は別の要因があると、長澤氏は述べた。
いまメルカリは、広告宣伝費の主軸を「購入促進」から「出品促進」へと変えつつある。これがGMVが伸び悩んでいる原因の1つだという。
出品促進に力を入れる理由は、今後の成長を支えるための「畑」を先に用意しておくという狙いがある。
購入と出品のバランスをとっていくことが重要だ、というのがメルカリの考え方。
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「出品と購入のバランスが大事。(メルカリ経済圏の)健全性を担保するために、出品に力を入れている。そのためGMVは少しスローダウンした」(長澤氏)
「購入側が強すぎると、中長期的には(流通商品の)在庫がなくなるところがある。(そのため)早めにリバランスすることが大事だと思っている」(同)
出品促進は広告宣伝以外にも、アプリの機能を開発・拡充していく。新機能「売れるかチェック」では、写真をとるだけで過去の販売実績からいくらくらいで売れそうなのかがわかるという。メルカリがかねてより取り組む、AIを活用した機能だ。
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次の四半期は、メルカリが冬物衣料の流通などで「稼げる」時期に入る。長澤氏の説明どおり、安心してみていられる数字なのかどうかは、次の決算での成長度合いがポイントになってくる。
US事業とメルペイへの投資は「成長余地次第で」
撮影:伊藤有
今期の赤字要因としてあげられたUS事業とメルペイの広告宣伝費は、「勝負の年」というからにはさらに拡大する可能性はあるのか?
質疑の中で長澤氏は、含みを残すコメントをしている。
「米国とメルペイでどういう投資をするかだが、“勝負の年”なので、きちんと成長できるなら、投資すべきだと思っている。
今年度、投資をみきわめると(通期の)決算で言ったが、メルペイもUS事業もグロースがとれるなら、投資規模を守って攻めていきたい。
(とはいえ)70億の損失が大きいのは、我々もそう思っている。いま投資をすることで、最終的にはリターンがとれるという分析のもと、やっている」(長澤氏)
メルペイは引き続き「還元合戦」には参加しない
LINE PayとPayPayが「一騎打ち」状態のばら撒き還元合戦を繰り広げる中、メルペイは一貫して、そこまで大きな還元施策には出ない方針を貫いてきた。
PayPayはばら撒きのパワーゲームを継続しているが、LINE Payに関しては引き締める方向に方針を変え始めている。
メルペイは今後どうするのか?結果から言えば、従来の方針に今後もしばらく変化はなさそうだ。
決済事業を急速に立ち上げるには「100億円還元」クラスの莫大な資金投下が必要だ。メルカリはC2Cの「メルカリ」と、メルカリで販売したお金をリアル世界で使える「メルペイ」のシナジー効果で費用対効果のよい成長を狙う、と長澤氏。決してナンバー1を狙わないわけではないが、最初からナンバー1をとるマネーゲームからは、今後も距離を置く。
メルカリとしては、中国にWeChat PayとAlipayがあるように、どこかの大手キャッシュレスのほかに「もう1つ生き残る存在」として、メルペイを成長させたい考えだ。
(文、写真・伊藤有)