東京・世田谷の本社「楽天クリムゾンタワー」。
撮影:伊藤有
楽天の三木谷浩史会長兼社長。
撮影:小山安博
楽天は11月7日、2019年12月期第3四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比14.7%増の3191億3700万円、営業利益は同97.6%減の10億7200万円と増収減益だった。
投資先となる米ライドシェアのLyft(リフト)の株式評価損に加えて、物流コスト、MNO事業開始にともなう損失がかさんだ。
三木谷浩史代表取締役会長兼社長はリフトは投資効果が出ているとして「いい投資だった」と判断。本業の指標が好調であることをアピールした。
業績ハイライト。大幅な減益となったが、本業の指標は順調だと説明した。
撮影:小山安博
リフトの投資評価。ROI(投資利益率)とIRR(内部収益率)という2つの指標でリターンが出ている。
撮影:小山安博
2019年第3四半期は、3つの注力分野で順調に成長。これらをさらに成長させていくことが目標だとする。
撮影:小山安博
第4のキャリア「楽天モバイル」の気になる現状
9月に開催した楽天モバイル開始に向けた記者発表に立つ三木谷会長。
撮影:伊藤有
話題の中心となったのは10月からスタートした携帯電話のMNO事業だ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く第4の携帯キャリアとして参入した楽天モバイルだが、現在は東名阪の5000人限定の「無料サポーターサービス」として提供され、現時点で収益源とはなっていない。
MVNO事業は堅調だが、MNO事業への投資によって赤字幅は拡大。なお、MVNO事業に関しては「順次MNO事業にシフトしていければ」(三木谷会長)という考え。
撮影:小山安博
それに対する先行投資として基地局建設などのコストがかかるため、当面は赤字が続くことは間違いない。
楽天モバイルのネットワークは、「仮想化による世界初の商用OpenRANアーキテクチャ」という点をアピールしており、基地局建設のコストも抑えられるなどのメリットがあるとしている。
世界初の商用OpenRANアーキテクチャを採用したネットワークを採用する。
撮影:小山安博
全国展開とはならなかったのは、基地局建設の遅れによるものだ。
再三にわたる総務省の指導もあり、現状は東名阪の屋外のエリア化を進めている最中。10月末までに約2300局が稼働しており、それを含めて設置場所として約3300カ所を確保しているという。
12月末には設置見込みの場所を6500カ所まで増やし、そのうち4500カ所を用地として確定させたい考え。うち3000カ所には基地局を建設して実際に電波を出し始める計画だ。2020年3月末までの開設目標は3432局で、順調な進捗だとしている。
三木谷会長は自身が楽天モバイルを日々使っており、「8〜9月ごろはつながらない場所もあったが、私が使っているエリアではほぼつながらない場所はなくなった」とコメント。多い日には1日で60〜70局が開設しているとして、今後基地局建設をさらに加速させる。
「使っていて不自由がないところまで近づきつつある」(三木谷会長)といい、東名阪の屋外エリアは十分なエリア構築ができたという認識だ。
三木谷会長は、「基地局の建設は計画よりも前倒しで完了できる手応え」として、「基地局の建設を邁進していくのみ。基地局を鋭意建設していきたい」。基地局を含めたネットワーク構築での当初計画での投資額は6000億円だったが、この投資額について三木谷会長は「もう少し抑えられる」という。
収益化のカギの1つはKDDIとの「ローミング解消」
9月の記者発表で展示した楽天が使用するアンテナ設備。
撮影:伊藤有
現状は無料サポーターから料金を徴収しておらず、無制限の利用が可能だ。データ通信では、1人平均1日1GBのデータ利用になっているという。三木谷会長は「かなり使ってもらっていて、しっかりネットワークをチェックしていきたいのでありがたい」としているが、楽天モバイルのエリア外でKDDIのネットワークを利用するローミング契約を結んでおり、そのローミング費用もかさんでいる。
この課題も基地局建設を前倒ししてローミング解消を早めることで、「かなり抑えられる」(同)と見込む。
基地局建設ではまずは東名阪を中心にエリア構築を進めつつ、さらに屋内局も並行して整備を進めていく。現状では無料サポーターを2020年3月末まで継続し、それまでに本サービスとして全国サービスを展開する計画。「全国一斉に基地局建設を進めていくことになる」(同)という。
本サービスでの料金プランは、現時点で明らかにされていない。
大手3キャリアに対して格安を実現すると意気込む三木谷会長だが、基地局数だけで言えば20万局クラスのネットワークを擁する大手3キャリアに対して、「数千局の計画でどの程度のネットワークを構築できるか」「KDDIとのローミング料金をユーザーに転嫁するのか」「黒字化のめどは」といった点にも、答えは見えていない。
商用化に際しては、1億を超える楽天IDや70以上のサービスという同社の資産を生かしていく考えだ。
撮影:小山安博
とはいえ、ソフトバンクもボーダフォン買収以降、10年以上にわたって基地局整備を続けて、1万5000局から20万局へと増やした。早期に大手並みのネットワーク構築は難しいとみられるが、三木谷会長は現状の計画に自信を見せており、商用化に向けた今後の取り組みに注目したい。
(文、撮影・小山安博)