各社のトップ級と都知事が一同に並ぶのは通信業界でもなかなかみない異例。左からJTOWERの田中敦史社長、楽天モバイルの山田善久社長、KDDIの髙橋誠社長、小池百合子都知事(中央)、慶應義塾大学教授で座長の村井純氏、NTTドコモの丸山誠治副社長、ソフトバンクの宮内謙社長。
撮影:小山安博
東京都は、次世代携帯電話「5G」を構築して世界最速のモバイルインターネット網で世界最先端の都市を目指す「Tokyo Data Hightway」(東京データハイウェイ)戦略を2019年8月に発表。その公の動きの第一弾「Tokyo Data Hightwayサミット」を都庁で開催した。
サミットでは小池百合子知事とヤフー元社長の宮坂学副知事、そして座長をつとめる村井純・慶應義塾大学教授に加え、携帯キャリア4社の幹部が参加した。
小池都知事は5G網の構築について、「世界との競争に打ち勝つためにはこれを整備しなければ勝負にならないと危機感を持って進めている」語り、スピード感を持った推進に取り組む心構えを示した。
前回の東京五輪で生まれた「レガシー」が新幹線と首都高速道路という目に見える道に対して、2020年の東京五輪では東京データハイウェイ戦略として、「電波の道」という目に見えないインフラを構築し、国際競争力を高めて世界最先端の都市を目指す。
都の保有する建物の一部を「5G基地局に開放」
東京都庁の大会議室で開催されたサミットの様子。小池都知事の対面に 4キャリアのトップ級が肩を並べて討論した。
撮影:小山安博
東京都では、東京データハイウェイ戦略にもとづき、戦略政策情報推進本部に専任の部署を設置。都庁内の各部局を横断する組織として、縦割り行政を排した取り組みを進めていく。
8月に開かれた東京データハイウェイ戦略発表会見より。こういった都の資産をアンテナ用地として開放することで5G網の積極的な整備を目指す考えだ。
撮影:伊藤有
サミットで発言する小池百合子都知事。5G網の整備を進め、都のデジタル変革を進めることで「都民にもより良いサービスに繋がる」とする。
撮影:小山安博
宮坂学副知事。自治体のデジタル人材は人口564万人のシンガポールが1000人規模を抱えるのに対し、人口で2倍以上の東京都のデジタル人材は100名程度しかいないことに注目。今後も積極的な人材確保を進める方針。
撮影:小山安博
なかでも注目されるのは、都が保有するスペースを、5G基地局(アンテナ)向けに積極的に貸し出す仕組みだ。5G基地局網の展開にあたっては、建設用地の確保に各社が苦労していることが背景にある。
都が保有するスペースの開放にあたっては、バス停やビルや公園といった管轄の縦割りを廃する専任窓口を設け、利用手続きの簡素化とスピードアップを図る。
現在、都の保有地に設置されたアンテナ数は40程度だが、新たに1万2799件をデータベース化して公表。携帯キャリアは簡単な手続きを経て5Gアンテナの設置が可能になる。
「開放」に最も反応したのは楽天モバイル
2020年春以降に5Gの商用サービスを開始する携帯キャリア各社も、5Gネットワークの構築に都の支援が受けられるのは渡りに船だ。都のアセットをはじめ、自治体との連携で5Gネットワーク、新産業の創出といった取り組みを強化していく。
基地局用地開放の取り組みについて、最も強く反応したのは新規参入組として基地局設置に苦労している楽天モバイルだ。
楽天モバイルの山田善久社長は、「基地局を一気に作っているところなので、アセットの活用、窓口の一本化は、切実な課題だった。非常にありがたい」と強く歓迎した。
また、KDDIの髙橋誠社長は、通信キャリア側に立ち、一歩踏み込んだ配慮を求めた。基地局自体の通信を支える「バックホール」としての光ファイバーも大事になるため、用地開放だけではなく、回線引き込みや電源の確保の必要性に言及した。
JTOWER「インフラシェアリングを5Gにも対応させていく」
4キャリアに加えて参加したJTOWERは「インフラシェアリング」分野のベンチャーだ。2014年からサービスを展開する同社は、ショッピングモールやオフィスビル、病院、ホテルなどの建物で携帯インフラを共有化する仕組みを提供してきた。
インフラシェアリングとは:通常は各キャリアが個別に設置する建物内のアンテナを、共用アンテナ一つとすることでスペース効率の高く設置する仕組みのこと
これまでは4Gのシェアリングだったが、これを5Gにも対応させていく予定で、都が公表したアセットから、シェアリングのニーズがありそうな施設をピックアップして提案していく。また、ローカル5Gの整備支援にも乗り出す考えを示した。
(文、写真・小山安博)