よしもと男前ブサイクランキング復活。キャラ作りツールとしての「自虐」はアリか?

吉本男前ブサイクランキング

「男前ブサイクランキング」の復活を告げるビジュアルの中央にはチュートリアル徳井さんが。

出典:ラフ&ピース ニュースマガジン

「よしもと男前ブサイクランキング」が復活した。吉本興業所属の男性芸人を対象に2000年に始まった企画で、4年ぶりだそうだ。

同社の公式アプリなどをダウンロードし、よしもとIDに登録すると投票できるという仕組み。過去のヒット企画で登録者アップを図る。そういう狙いだろう。

ビジネスの手法としては、理解する。だけど、容姿をめぐるいろいろな思いが交錯し、モヤモヤする。そのモヤモヤを通して、「容姿とビジネスと今と」を考えてみたい。

私がランキング復活を知ったのは10月の終わり、「男前部門」で何度かランクインしたことがあるという博多大吉さんの出演するラジオ番組だった。大吉さんはこんなふうに言っていた。

「吉本、そんなことをしている場合かというご批判はあると思いますが、諸々が起こる前に決まっていて、起こった後もそのまま復活させたということで。若手にとっては話題になることではありますしね」

復活を告知するビジュアルの真ん中にドーンと写っているのは、チュートリアルの徳井義実さん。かつて男前部門1位に3度選ばれ、「殿堂入り」を果たした人だ。大吉さんの言うように「諸々」の前に準備を進めていたのだろうけど、それでも「諸々」の1つを担った人を「顔」にするって少し大胆すぎやしないかなあ。

「男前」や「ブサイク」で名前を売っていいのか

吉本ロゴ

6000人もの芸人を抱える吉本。4年ぶりに「男前ブサイクランキング」を復活させた。

撮影:今村拓馬

2010年からは、女性芸人を対象にした「べっぴんぶちゃいくランキング」というのもあったのだが、こちらは復活させてない。今の時代、女性の容姿を点数化するのはさすがにまずいという判断だろう。でも、男性ならいいのかなあ?

番組で大吉さんは、

「男前というのなら、明石家さんまさんですよ。見かけに限らず、芸といい、生きざまといい、全てが男前。だから、さんまさんで投票お願いします」

と言っていた。

吉本興業に6000人いると言われるタレントの中、名実ともにトップなのはさんまさんだろう。ダウンタウンよりも大先輩。ガンガン稼いでいる。大吉さんはそういう人の名前をあげることで、わけのわからない感じにしようとしてるんだな、と思った。そのことで、ラジオリスナーが感じるであろうモヤモヤを吹き飛ばすことにしたんだな、と。

大吉さんは、復活を若手芸人は歓迎していると言っていた。確かに、名前が売れないことには始まらないのが芸人の世界だろう。でも、名前を売る手段が「男前」か「ブサイク」でよいのかなあ、というモヤモヤは、明石家さんま作戦でも吹き飛ばなかった。

安易なキャラ作りとしての「自虐」

塙宣之さんの著書『言い訳』

漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之さんは、著書『言い訳』で芸人がキャラを安易に作るために自虐ネタをしていると。

漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之さんの著書『言い訳』を読んでいたからだ。

サブタイトルに「関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」とついたこの本は、M-1決勝に3年連続で出場しながら優勝できなかった塙さんが展開する「漫才論」だ。インタビューに答える形で進むのだが、全編から彼の漫才に対する愛と誇りがあふれている。

彼が語っていたのが、「ネタ」と「自虐」は違うということだ。ネタというのは、誰がやっても通用するもの。デブネタは太っている人しかできない。ハゲネタはハゲている人しかできない。

だからネタではなく、フリートーク。そう指摘する塙さんは、2018年の『女芸人No. 1決定戦 THE W』について、こう述べていた。

「彼氏いないネタばかりで、正直、観ていてしんどくなりました。『私、今まで付き合ったことないんですよ』みたいのが始まると、僕は『その前にネタを見せてくれる?』という感覚になってしまうんです」

ちなみに塙さんは、マセキ芸能社所属。彼は「売れるきっかけ」としての自虐について、「ひな壇系の番組への出演を意識して、自分のキャラを安易に作ろうとし過ぎているのではないでしょうか」と分析していた。

同時に塙さんは芸人だけでなく、テレビ局の問題として捉えていた。「テレビは、イケメンの役者が来たら、女芸人にいちいち『カッコいいですね』と言わせるような風潮があります」と指摘、「そういう圧力がある以上、本気でちゃんとしたネタを作れる女芸人は現れないと思います」と言い切っている。

2018年のM-1で審査員を務めている塙さんは、漫才を愛するゆえにネタを愛し、自虐という安易さに走ることを嫌っている。だが塙さんの指摘するように、テレビ局側が自虐を求めているのだとすると、「男前ブサイクランキング」が復活するのも「時代の要請」なのかなあ、とモヤモヤは続く。

「ビジネスブス」はありかなしか

最近、「ブス」という立場から女性に生き方を説くような文章をあちこちで見かける。「ビジネスブス」という言葉も、当たり前のように使われている。「ブス」という枠組みを示し、ビジネスを展開しているという意味においては、芸人による「モテない」自虐も、文章による生き方指南も同じだろう。

正直に書くならば、私はそのことを「アリかなあ」と思っていた。「立ち位置」というものを過剰に気遣い、人間関係が複雑さを増しているらしい今どきの人を思うと、そういう対処法もアリなのかも。そう思っていたのだ。「ブスです」と言ってみせ、そこからビジネスを展開するというのは、今どき女性のたくましさと言ってもいいのかな、とぼんやり考えていた。

長田杏奈さんの著書『美容は自尊心の筋トレ』

「自分のことブスなんて言うもんじゃねぇ」と美容ライター・長田杏奈さんは言う。書影は3刷だが、本はすでに4刷に。

でも、ある文章に出合って、そんな己を恥じた。それは『美容は自尊心の筋トレ』という本で、帯に「さよなら自虐!」とうたっている。著者は1977年生まれの美容ライター・長田杏奈さん。彼女は『ちょうどいいブスのススメ』という本から話を始めていた。吉本興業所属の女性芸人・山﨑ケイさんの本だ。

長田さんはこの本を「見た目偏重に対する自己防衛の進化系」と定義づけていた。私が「ビジネスブス、アリかも」と思っていたのはそういうことだったのだと、この定義付けでスッキリした。

だけど長田さんは、自分の考えは正反対だと言い切っていた。渥美清さんという名優が演じた「フーテンの寅」というキャラクターの口調で、こんなふうに考えを表明していた。

<バカを言っちゃいけねぇよ。自分のことブスなんて言うもんじゃねぇ。世の中にちょうどいいブスなんていねぇんだよ。おまえさんもあたしも、生きとし生けるもんは、みんな美しいんだ>

「べっぴんぶちゃいくランキング」を復活させなかった程度では済まないほど、日本の女性は進化している。そう感じた瞬間だった。

自虐よりも、「Love Yourself」の時代に

歩く男女

男性女性にかかわらず、時代は「自虐」から「Love Myself」に移り変わっていくのではないだろうか。

撮影:今村拓馬

長田さんは、ある番組のことを書いていた。「ル・ポールのドラァグ・レース」と「クィア・アイ」というNetflix(ネットフリックス)の番組だ。

どちらも<Love Yourself>というメッセージ届く、そこがよいと熱く綴っていた。詳しくは書かないが、この2番組は若い女性から勧められることが多い。実は11月1日からNetflixで「クィア・アイ」の日本版「クィア・アイin Japan!」が配信されている。

7月に発売された長田さんの本は、すでに4刷だ。こういう本が売れて、「クィア・アイ」が上陸する日本。やっぱり「ブサイク男前ランキング」の時代じゃない。しみじみ思った。

長田さんは女性で、「自分のことをブスなんて言うもんじゃねぇ」という意見は同性を念頭に置いてのものだろう。だけど、<Love Myself>の方が心地いいのは男性だって同じはず。フリートーク番組における自虐話は、男性女性に限らず、笑えないものになっていくのではないだろうか。


矢部万紀子:1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。最新刊に『美智子さまという奇跡』。

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