ユーグレナの決算報告会
撮影:三ツ村崇志
「創業以来はじめて減収となりました。同時に売り上げの業績予想を下振れる着地となりました。この点について、率直にお詫び申し上げたいと思います」(出雲社長)
ミドリムシや廃食油などを主成分にしたバイオジェット・ディーゼル燃料の実用化などに取り組むバイオベンチャーユーグレナ。11月11日に開催された2019年9月期の決算報告会は、出雲充社長の「お詫び」からはじまった。
2018年9月期の売上高151億7400万円に対して、2019年9月期の売上高は139億9700万円。約8%の減収となった。業績予想に対しては85%での着地。
撮影:三ツ村崇志
ユーグレナが発表した2019年9月期連結決算の売上高は、前年比で約8%減の約139億6700万円、創業以来初めての減収となった。最終損益は固定資産などの特別損失の計上によって、97億9800万円の赤字。前期(12億5200万円赤字)に引き続き、2年連続で最終赤字となった。
また営業損益は74億6000万円の大幅な赤字を計上。この赤字のうち63億7000万円は、バイオ燃料製造実証プラントの建設に関わる費用を一括で計上したために生じた損失で、当初から想定されていたものではある。
それを除いた営業損益は10億9000万円の赤字。前年同期比は営業利益ベースでは改善したものの、2期連続で営業赤字が続いた。
売上高減の主要因は通販・流通事業の不調
広告宣伝費の圧縮が影響し、売上高は前年比の8%減。2012年に上場して以来、初めての減収となった。
撮影:三ツ村崇志
過去4期分のユーグレナの食品・化粧品の定期購入者数の推移。化粧品分野の購入者は微増しているものの、食品分野の購入者は減少基調にある。
撮影:三ツ村崇志
永田暁彦副社長は、売上高が減少した主要因は、広告投資を抑制した健康食品の直販・流通部門の不調が最大の要因だと説明。健康食品の直販では、約12億700万円の減収となった。
新たな成長軸として見込んでいたドラッグストアなどでの売り上げ(流通部門)が伸び悩み、結果として売上高全体も減った形だ。
ここ3年注力してきた化粧品事業は、黒字となったものの、期待したほど売り上げは伸びず、結果的に健康食品のマイナス分をカバーするには至っていない。
主力のヘルスケア事業全体(食品と化粧品を含む)では、上期から下期にかけて事業利益は減少したものの黒字を維持。次年度も黒字の見通しだという。
ユーグレナのオンラインサイトでは、食品や飲料、化粧品などさまざまな商品が販売されている。
撮影:三ツ村崇志
一方で、投資を進めるバイオ燃料製造実証プラント(エネルギー・環境事業)は、稼働した分だけコストが増大するという性質がある。
永田副社長は「バイオ燃料事業の継続性の維持は、ユーグレナのヘルスケア事業の成長の上に成り立つというのがユーグレナのメインストーリーです」と説明。エネルギー・環境事業における増加コスト分を吸収できるほどヘルスケア事業の売り上げを伸ばせられるかどうかが、今後の鍵といえる。
約95%が「ユーグレナを知らない、購入したことがない」という現実
ただし、ユーグレナはブランド調査でインパクトのある事実が見えてきたことも、決算会見の場であえて公表した。
永田副社長はユーグレナのヘルスケア事業が抱える課題として「ユーグレナ食品の需要の低迷」「企業/素材/商品ブランドの連携不足」「顧客層の偏り」の三点を指摘。「この三点の課題を『成長機会』と捉え、再成長を果たしたい」と語る。
外部機関によるユーグレナ食品と他社競合食品に関する認知度調査の結果。ユーグレナ製品を知らない人が52.4%。知っていても実際に購入したり飲んだりしたことのない人が42.2%だった。ユーグレナという素材のプロモーションを進めることで、こういった非認知・非購買層とのコミュニケーションを図ろうとしている。
撮影:三ツ村崇志
これまでの広告、顧客獲得チャネル、年齢分布の概要。通販(直販)事業の広告をオフラインで展開することで、シニア層の顧客を偏って開拓してきたことが伺える。
撮影:三ツ村崇志
外部機関による調査の結果、ユーグレナ食品の認知度は他社の競合商品に比べて圧倒的に低かった。
これまでユーグレナの広告投資は、通販の獲得広告が9割。広告効率が良かったことから、そのうちオフライン広告が8割で、注文の7割は電話・ハガキによるものだ。結果的に、定期的にユーグレナ食品を購入していた世代の6割は、60歳以上のシニア層だった。
永田副社長は質疑の中で、率直に戦略ミスを認めるコメントをしている。
「ミドリムシは新しく、社会的にも価値が認められていました。ある意味、私たちはそれに甘やかされていました。ミドリムシが入っていればよいという発想で、味やブランドデザインが許容されていたのだと思います。
今期はまずブランドイメージを一新します。基幹商品の開発と、企業ブランドに沿ったブランディングについて、今期末までに成果を見せたいと思っています。」(永田副社長)
バイオ燃料製造プラントの稼働に遅れも、スケジュールは変わらず
バイオジェット・ディーゼル燃料開発のロードマップ。当初は2019年9月期中に、国際規格であるASTM認証を取得する見込みだったが、2020年1月〜3月に順延。バイオ燃料を利用した航空機の有償フライトは当初の予定通り2020年9月期中に行う予定だが、現状のスケジュールでギリギリだという。
撮影:三ツ村崇志
決算報告会では、ユーグレナが取り組んでいる日本初の国産バイオジェット・ディーゼル燃料の製造についての進捗も報告した。
当初の予定では、2019年9月期中にミドリムシを使ったバイオ燃料製造実証プラントを本格稼働。さらに国際的な規格であるASTM認証の獲得を目指す方針だったが、現状ではどちらも実現できていない。
神奈川県横浜市鶴見区に建設された、プラントの全体像。
出典:ユーグレナ2019年9月期本決算説明資料より編集部キャプチャ
「8月下旬にASTM認証に関する委員会が開かれましたが、バイオ燃料として承認に至れませんでした。9合目まで来ている自信はありましたが、ASTM認証の取得がここまで困難なものだと想定していませんでした。非常に深く反省しています」(出雲社長)
飛行機の燃料にバイオ燃料を使用するには、国際的な規格であるASTM認証は欠かせない。すでに必要な追加データは提出済みで、順調に行けば、2020年の1〜3月の間にASTM認証の取得が決まるはずだと出雲社長は話す。
ユーグレナの出雲充社長。決算報告会では終始厳しい表情をしていたものの、日本初の国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化に向けて、強い決意が感じられた。
撮影:三ツ村崇志
神奈川県横浜市鶴見区に建設したバイオ燃料製造実証プラントでは、全4段階の工程のうち3つが世界初の試みということもあり、それぞれの工程で課題が発生し、準備が遅れている。これ以上遅延すれば、2020年9月期中の有償フライトの雲行きは怪しくなる。
出雲社長は「バイオジェット・ディーゼル燃料事業の研究開発を停止すれば、黒字にすることは簡単です。しかし、バイオ燃料市場には、ベンチャー企業に滅多に訪れない、大変大きなチャンスがあります」と話す。
アメリカのバイオ燃料市場は、2017年の段階で5.1兆円。2022年には、10兆円規模になると推定されている(※)。国際的にも、バイオ燃料を使用して二酸化炭素の削減に挑む計画が進められている。
加えて海外では、すでに21カ国でバイオ燃料を使った飛行機の商業フライトが20万回以上実施されている(日本ではまだ0回)。
「ヘルスケア事業の成功をバイオ燃料の実証に投じる」というスキームである以上、ヘルスケア事業の成長はユーグレナにとって「必達目標」だ。次の1年でどこまで盛り返せるのか、今がまさに正念場だ。
※US Environment Protect Agency、Energy Information Administration各種統計資料をもとにユーグレナが独自に作成
(文・写真、三ツ村崇志)