組織をデータで考える「ピープルアナリティクス」という罠。職務満足度を上げても成果は上がらない

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撮影:今村拓馬

先日、ある会社で「人事部・エンジニア」という名刺をいただいて、とうとう人事もこういう時代になったかと驚きました。実際、これまで経験と感覚でやってきた人事を科学的に行おうと、近年、組織におけるさまざまな現象をデータ化して統計学的に処理を行う「ピープル・アナリティクス」が流行してきています。

そのベースとして、いろいろな人事情報を数値で捉えて「可視化」することが必要ですので、それらのデータを格納しモニタリングするための人事システムのサービスもどんどん生まれています。見えないものを見えるようにすることは基本的にはよいことでしょう。

「見える」と対処したくなる、という問題

PDCA

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しかし、いろいろ問題もわかってきました。それは、「見える」ようになってしまうと、低ければ高くしたいというように、それに対して何らかのリアクションを起こさねばと考えるようになることです。

例えば、本稿のテーマである職務満足度(従業員が自分の仕事にどれだけ満足しているかという度合い)も、測って可視化しなければぼんやりとしかわかりません。しかし、一度測って数値化してしまうと、もし満足度が低ければ「上げなければ」と思うのは人の心理でしょう。ほとんどの読者も、「え?高い方がいいに決まっているのでは?」と思うのではないでしょうか。

実は「職務満足」と「成果」には明確な相関はない

達成感

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しかし、ことはそう簡単ではありません。

というのも、人事のプロの立場でさまざまな研究を漁っても、職務満足度と成果の間には明確な相関があるというエビデンスが見つからないのです。

正確に言えば、研究によってあったりなかったりと、一貫した結果が得られていません。つまり、職務満足度をKPI(Key Performance Indicator、最重要指標)として設定し、頑張ってそれを上げたとしても、仕事の成果が上がるとは限らないということです。

ただこれは、私には「さもありなん」な結果です。満足度が高くても、能力が低かったり、向かう方向性が間違ったり、緩い環境に甘んじていたりするような状況であれば、成果にはつながらないのは当然です。

「満足度の向上」にこだわるのが危険な理由

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撮影:今村拓馬

職務満足度を上げることを自己目的化するのは危険です。職務満足度が高くても、上述のように、その理由如何によっては「良い高満足度」と「悪い高満足度」があります。もし、「悪い高満足度」であった場合、解決しなければならない問題が見過ごされてしまいます。

例えば、社員の意欲が低いため、今のぬるい環境に「満足」している時、本当にすべきことは競争や切磋琢磨の促進をすることでしょう。

しかし、そういう「前向きな居心地の悪さ」はむしろ職務満足度を下げるかもしれません。もし、職務満足度を単純にKPI化して、盲目的に追いかけてしまっていると、そんな対策はなかなか取れません。

「結果変数」よりも「説明変数」を見る

変数のイメージ

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本来的にやるべきは「職務満足度」のような、いろいろな原因から生じてくる最終的な結果(結果変数)だけではなく、それが一体何から出てきているのかという原因分析ができるような「説明変数」もきちんとモニタリングすることが重要です。

結果だけみてあれこれ言うのではなく、より深い原因に立ち戻って改めて現象の意味づけを行うということです。

職務満足度で言えば、それが本人の小さなことで満足できる「達成意欲」の低さから来るのと、適度な難易度でうまく成長できる充実した仕事から来るのとでは、解釈や対処方法が変わってきます。「誰が言っているのか」はとても重要です。

「説明変数」で最も重要なものはパーソナリティー

職務満足度などの気になる結果変数の原因となる説明変数で、一般的に最も重要なものはパーソナリティー、つまり「その組織はどのような性格や志向の人から構成されているのか」というものです。

特に離職や欠勤などの客観的な結果変数ではなく、職務満足のような主観的な結果変数であれば、なおのこと「どういう人がそういう風に感じているのか」がわからなければ正確な解釈はできません。

ところがこの自社の社員のパーソナリティーの状況を「可視化」している会社が少ないのが現実です。せっかく測った職満足等の結果変数に適切に対処する第一歩はパーソナリティーの分析です。

「十把一絡げ」に対処せず「個別対応」を厭わない

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撮影:今村拓馬

組織をまるっと一つのものとして見ずに、もっと解像度高くいろいろなタイプのパーソナリティの人々からなるものと見れば、「職務満足度が低いから、●●な施策を打とう」というような大雑把な対策を考えることはなくなるでしょう。

人事の基本は「個別対応」です。満足を感じるものがパーソナリティによってそれぞれに異なるのですから、各マネジャーが直接見ているメンバーの個々の要望に応じて対処するのが最も効果的です。

それを「十把一絡げ」に考えてしまうと、社交欲求の低い人が多い組織に「ピザパーティーを毎週金曜日に行って職場を盛り上げよう!」みたいな白ける施策を打ってしまうのです。

面倒がらずに「個別対応」をしていくことが結局は職務満足を上げる近道なのではないでしょうか。


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曽和利光:京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長を歴任し、2011年に株式会社人材研究所設立。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書等:「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」ほか

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