なぜインスタは2020年の東京に注力するのか —— トップ発言「競合はTikTok」

アダム・モッセーリ氏

インスタグラム責任者のアダム・モッセーリ氏。

撮影:西山里緒

2019年3月には国内月間アクティブアカウント数(MAU)が3300万を突破し、全世界MAUも10億アカウントを記録(2018年6月時点)しているインスタグラム。

2019年からはインスタグラム初の試みとして、自治体(東京都)と組んだキャンペーン展開(後述)や、アメリカ国外初の開発拠点として東京にオフィスを置くなど、“日本戦略”を強化している。

過去にはFacebookのプロダクトマネージャーとして、仕様の大改革「ニュースフィード」の開発に携わったことでも知られる、現インスタグラムの責任者、アダム・モッセーリ氏に、日本戦略を強化した理由を聞いた。

日本人のインスタ利用は特徴的だ

日本市場は、モメンタム(勢い)の中にある

インスタグラム責任者のアダム・モッセーリ氏は、日本市場に注力する理由についてはっきりとそう語る。

その言葉通り、インスタグラムの国内ユーザー数は、日本市場に定着した今も堅調に伸び続けている。2018年9月には2900万だった月間アクティブアカウント数(MAU)は、半年後の2019年3月には3300万を突破した。

正直にいって、世界でうまくいっていることが日本ではうまくいかない、その逆に日本で成功するのに世界では通用しない、そんな例が多くある。だから日本に開発拠点を持って、そのニュアンスを理解することが重要だと思ったんだ」

モッセーリ氏のいう日本のインスタの特徴的な使われ方の一例が、2016年8月に導入されたストーリーズの活用だ。24時間で投稿が消えるというカジュアルさや、投稿した写真や動画につけられるハッシュタグ機能の充実などが日本でヒット。

ソフトウェア開発企業のジャストシステムが2018年10月に発表した調査では、日本では10代のインスタグラム利用者のうち約7割がストーリーズを活用しているとの結果も出ている。

“プライベート化”するインスタ

インスタグラム

日本で特に伸びているという「親しい友達のみに見せる」機能。

2018年11月に開始した、ストーリーズを「親しい友達のみに見せる」機能も、日本において特に伸び率が高いという。

「日本のユーザーは、よりプライベートな、自分のコントロールが効く条件下で自己表現をしたい、というニーズがあるようだ。だからフィードやプロフィールよりもストーリーズを好み、『親しい友達』機能も受け入れられたのではないか。一般化しすぎたくはないが、これは日本カルチャー全般に当てはまることのようにも思える」(モッセーリ氏)

いじめやバッシング、「FOMO(Fear of Missing out、取り残される不安)」などに疲れた人が増え、SNSの「プライベート化」は世界の潮流にもなっているが、日本は特にその傾向が強い、とモッセーリ氏は続ける。

日本でユーザーテストをした後、アメリカ版のアプリで実装された機能もある。「いいね」数の非表示だ。

アメリカでは特に「いいね」数を他人と比較して落ち込んでしまうことが、子どもの精神衛生に良くないのではとの批判も強かった。非表示にしたことで日本ユーザーの反応が良かったことも一因となり、アメリカでも11月から一部地域で非表示にすることを決めたという。

東京に国外初の開発拠点

インスタグラム

11月11日に行われた、東京都とインスタグラム共同キャンペーン発表会の様子。

2019年夏には、アメリカ国外初の拠点として、東京に開発チームを設置した。現在少しずつメンバーが移籍している途中で、エンジニアだけでなく、デザイナー、リサーチャー、マーケターなどが常駐する予定だという。

東京拠点では、日本市場の分析や日本版アプリへ機能を反映させるだけでなく、それをどのように日本国外のインスタグラムへフィードバックさせるかについても検討したい、とモッセーリ氏は語る。

11月11日の会見では、東京都と共同で実施するキャンペーンも発表した。11月から3月(予定)のキャンペーン期間中に東京でアプリを開くと、「#MY TOKYO IS _____」という東京限定のスタンプが現れ、シェアできるようになる。自治体と共同でキャンペーンを打つのはインスタグラムにとっても初めての試みだとモッセーリ氏は語る。

「10代ファースト」競合TikTokとどう戦うか

インスタグラム

TikTok vs. インスタグラムの戦いを制するのはどちらか。

2017年には「インスタ映え」が流行語大賞を受賞し、すでに日本の10〜20代が使うSNSとしては盤石の地位を築き上げているインスタグラム。一方で、2018年頃からは中国初のショートムービーアプリ「TikTok」が大流行するなど、競合も生まれている。

TikTokを競合として認識しているか、とモッセーリ氏に尋ねると、現在もっとも強い競合の一つがTikTokで、アメリカ・日本でもその動きを注視しているが、特にインドでの市場競争が激化している、と明かしてくれた。

「TikTokを使う動機には二つあると思っている。一つは、TikTokで(面白い、可愛い)動画を作って(別のアプリで)友だちにシェアしたいという動機。もう一つはTikTok上でインフルエンサーになりたい、というもの。我々がすべきは、これらのユースケースのニーズを理解し、そのニーズを満たすことだ」

移り変わりの激しいSNS界でも、“王者”として君臨し続けてきたインスタグラム。モッセーリ氏は特にその戦略を「10代オンリーではないが、10代ファースト」と明言する。

「インスタ映え」に次ぐ、世界を席巻するインスタカルチャーは、日本発の機能から生まれるのだろうか。

(文・写真、西山里緒)

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