診断書があっても“女性はメガネ禁止”。経済界が「私は好き」と笑っている場合ではない理由

女性にメガネを禁止している企業について、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事が「ナンセンス」としながらも、笑いながら「私はメガネの女性が好きなので」と発言したことがSNSを中心に批判を呼んでいる。

一方、国内の大手化粧品会社で美容部員として働いていた女性は、半年もの間、目の病気で通院していたにもかかわらず、メガネの着用が許されなかった。笑いごとでは済まされない深刻な事態が、すでに起きているのだ。

目薬を差すことすら後ろめたい

メガネ禁止

「接客業だから」「人相が悪くなるから」、そんな理由でメガネを禁止され、健康を犠牲にすることを強いられる女性たちがいる(写真はイメージです)。

shutterstock/ leungchopan

Aさん(女性、30)はつい数カ月前まで国内の大手化粧品会社で美容部員として働いていた。勤務先は東京都内の大手百貨店だ。身だしなみは入社後の研修の際に渡された小冊子に詳細に規定されていたという。靴は3〜5センチヒールの、ストラップがない黒のパンプスが指定され、メガネの着用も禁止だった。

靴は外反母趾の場合は「例外」としてヒールパンプス以外も許してもらえたという。ただし毎月、医師の診断書の提出が義務だ。診断書の費用は会社が負担したそうだが、

「あまりにも理不尽なので、診断書の提出を半年に1度で済むよう、上司に交渉した後輩もいました」(Aさん)

しかし、メガネにはそうした「例外」はなかった。Aさんは視力が悪く、仕事では毎日コンタクトをつけざるを得ない。ドライアイに苦しんだが、目薬を差してメイクが崩れると「トイレで直してきて」と、すぐに上司から厳しく注意されるため、目薬を差すことすら後ろめたい気持ちだったそうだ。

診断書があってもメガネNG、理由は「人相」

繁華街

日本が誇る「おもてなし」が過剰な女性性の搾取の上に成り立っていないか、考える必要があるだろう(写真はイメージです)。

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Aさんが最もつらかったと振り返るのは、約半年もの間、左目まぶたが腫れ、瞳も赤く充血する症状が続いた「ものもらい」だ。2週間に1度の頻度で眼科に通院し、飲み薬と目薬を処方してもらったという。担当する医師からは「コンタクトをしないで生活した方がいい」「会社には診断書を書きますよ」と言われたが、そのどちらも叶わなかった。直属の上司、マネージャー、営業担当にも事情を説明してメガネ着用を許可してもらえるよう頼んだが、「許可できない」の一点張りだったのだ。

医師の診断書をもらってきますと何度も主張したのですが、それでもダメで、本当に頑なだなと。理由をたずねると『接客業なんだから』『メガネをかけると表情が見えづらいし、人相が悪くなる』と言われました。同じ百貨店にはメガネをかけて接客する男性がたくさんいました。接客業だからダメって何? 私と彼らの違いは何なんだろうと」(Aさん)

ノーメイクはもちろん禁止、薄いメイクも注意の対象だ。毎日コンタクトを装着し、腫れて痛むまぶたにアイメイクをする日々が続いた。複数の客から「大丈夫?」と心配されたという。「そんなに腫れてるのに、どうしてメガネにしないの?」と聞かれ、メガネを着用できないと伝えたときの「ええ、どうして?」と驚いた客の顔が強く印象に残っているという。

商品で差別解消するのが世界の潮流、日本の労働環境はどう?

化粧

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当時のAさんの写真を見せてもらったが、客の心配は当然の反応で、この状態でもメガネの着用を許可しなかったという上司の判断には、大きな疑問を抱かざるを得ない。

当時は多くの同僚から「本当にダメなの?」と心配されたという。視力が悪い女性も多く、皆、仕事終わりの更衣室で、コンタクトをはずしてメガネをかけて帰宅していたそうだ。Aさんはこれまで数年間、美容部員として働いたが、「マネージャークラスがたまに老眼鏡をかけているくらいで、美容部員がメガネをかけて接客しているのを、見たことがありません」と話す。

「私たちがつらいのはもちろん、腫れた目で接客するのはお客様にも良い印象を与えません。メガネは医療機器です。視力の悪い人にメガネを禁止することは、足の悪い人に車椅子を使うなと言うようなもの。

どんな肌の色にも合うようファンデーションを多色展開するなど、コスメにできることから差別を無くしていこうというのが、化粧品会社の世界的な流れです。そんな中、女性にだけメガネを禁止している日本がどう見られるか、企業の経営層には考えて欲しいですね」(Aさん)

産業医が掛け合っても、認められないケースも

メガネ

産業医が会社に掛け合っても、メガネの着用を認めてもらえなかったケースも(写真はイメージです)。

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ある企業の体験型ミュージアムでアテンドスタッフとして働くBさん(24)も、同様の経験をしている。メガネの着用が基本的に禁止されていたためコンタクトをつけて働いていたが、館内の乾燥と長時間の装着により、勤務後数カ月でひどいドライアイに。眼科で複数の治療を試したが改善しなかったため、かかりつけの眼科医からはコンタクトをやめるよう促された。産業医も「コンタクトが合わない人もいる」と会社に掛け合ってくれたが、メガネ着用の許可はおりなかった

会社はメガネを禁止する理由を「災害時にメガネが壊れると、お客様を安全に誘導出来ない」という「安全上の理由」だとしていたが、Bさんが直接交渉した上司からは、メガネをかけると「顔が暗く見える」「笑顔が見えなくなる」などと言われたという。

安全上というのは建前で、結局は個人的な価値観の問題だと感じます。こういう社風に嫌気がさし、転職を考えています」(Bさん)

Business Insider Japanが職場でメガネを禁止されている女性たちがいることを初めて報じたのは10月25日。以降、国内テレビ局、また英BBC、ガーディアン、米ワシントンポスト、ブルームバーグなど複数の海外メディアが同問題を報じている。記事を読んだ海外の読者からは「2019年なのに?」「とんでもないsexism(性差別)だ!」などの反響がSNSにあった。

メガネ禁止は「ナンセンス」、だって「私が好きだから」?

メガネ禁止

職場でメガネを禁止されている女性たちがいることにコメントする、経済同友会・櫻田謙悟代表幹事。

出典:テレビ朝日ホームページ

そんな中、経済同友会の櫻田代表幹事の発言が批判を集めている。

職場で女性がメガネを禁止されていることについて、「ナンセンスとしか言いようがないですね」としながらも、笑いながら「私はメガネの女性が好きなので。そういうことを言うとまたいけないのかもしれないけど」とコメント。そして「女性のメガネ着用が許されない場合は、採用段階できちんと説明すべき」と話したと報じらている。(テレビ朝日

報道を受けて、Twitterには批判の声があふれた。

「ナンセンスと言いつつもゲラゲラ笑いながら『私はメガネの女性好きなので』などとルッキズム丸出しの発言をしてしまう経済同友会のトップ。この問題の根深さを象徴するような発言だと思う」

「女性は観賞物でないという告発に対して『あくまで俺は女性を観賞物として扱うぞ』という宣言にしかなってない」

職場でヒールやパンプスを強制されることに抗議し、#KuTooのハッシュタグで問題提起を続けてきたグラビア女優・ライターの石川優実さんも「『いけない』(と分かっている)のになんでわざわざ口にするのか」と投稿。続けて、

他者がみてよく見えるから、悪く見えるからで本人が身につけたくないもの、身につけるのに負担があるものを強いるなという話をしてる時にこの発言はもう本当にどうしようもないんだなと思う。

一体なんの権利があって女性を鑑賞物として取り扱ってもいいと考えてるんだろうか。 勝手に見るのは勝手だがそれによって本人の人としての権利をうばってまで優先されるものだと思い込んでる人が多すぎる

と批判した。

「事前説明」あれば不合理な決まりも受け入れるべきか

メガネ

GettyImages/Pra Phasr Xaw Sakhr / EyeEm

女性にのみメガネの着用を禁止することは性差別のはずだ。取材をする中で感じたのは、禁止する理由の多くは個人の主観、しかもルッキズム(人を見た目で評価したり差別したりすること)に由来するものが多いということだ。自身が「メガネの女性が好き」だから「メガネを禁止するのはナンセンス」という発言は、メガネを禁止する側の理屈と同根だろう。冒頭の女性のような深刻なケースもあり、笑いながら話していいことでも当然ない。

また「女性のメガネ着用が許されない場合は、採用段階できちんと説明すべき」という発言にも疑問が残る。

大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の男性運転士が「ひげ」を理由に人事評価を下げられたのは不当だとして市に損害賠償を求めた訴訟では、大阪地裁・高裁ともに市側の対応を違法だとし、計44万円の支払いを命じた。男性の代理人を務めた村田浩治弁護士は言う。

「女性にメガネの着用を禁止するという決まり自体が不合理で、憲法13条で保障する人格権の保障の趣旨に反していると思います。

事前に説明をすれば良いという問題ではなく、たとえ事前説明があった場合でも、労働者が不合理な決まりを変えようと声を上げるのは当然です。

雇用主(企業)は賃金を払って労働者に労務提供義務を課すことになりますが、労務提供はあくまで企業の目的達成のために限定すべきであり、不合理な義務は正すべきです。

最近は企業にも消費者にも、労働者を尊重しない、個人の自由を制限しても良いと考えるような社会の空気が強まっていることを強く懸念しています。本当にその決まりに合理性があるのか、社会全体で考えてみるべきです」(村田弁護士)

(文・竹下郁子)※「職場のハイヒール・パンプス着用、緊急アンケート」には、これまで2600人以上から回答をいただきました。ありがとうございます。靴以外についてもおたずねしていますので、引き続きご協力をお願いします。

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