アイリスオーヤマのテレビ「ルカ」シリーズ。すべて4Kで、43型から65型まで、2シリーズ7機種を用意。最廉価モデルは9万9800円前後。
撮影:西田宗千佳
アイリスオーヤマは11月13日、日本のテレビ市場に本格参入すると発表した。アイリスオーヤマといえば、掃除用具やインテリア用品など、数多くの日用雑貨を手がける企業で、最近はエアコンなどの家電事業にも参入している。
同社は2018年から一部店舗で、テレビや洗濯機などの大型家電のテスト販売を進めてきたが、このほど正式販売を開始する。
アイリスオーヤマは都内で発表会を開催。左から、家電事業部 統括事業部長の石垣達也氏、同 テレビ事業部長の武藤和浩氏、テレビ事業部 開発マネージャーの鴫原秀郎氏。鴫原氏が持っているのが、新機種に同梱される「音声リモコン」。
テレビは過去には家電の王様だった。しかし、今はそうではない。同社が参入する勝算は何か?
取材から見えてきたのは、アイリスオーヤマらしい「逆転の発想」の製品だった。
2018年のテスト販売まで「まったく自信がなかった」
同社家電事業のあゆみ。2010年には100億円規模だったものが、2019年度には1100億円を狙う。国内に大規模開発拠点を2つ持っている。
アイリスオーヤマが属するアイリスグループは、現在急速に「家電シフト」を強めている。日用雑貨のイメージが強い同社だが、2010年以降、次の成長領域として家電事業の比率を高めている。
2010年には100億円規模だった同社の家電事業は、2018年には810億円に拡大、国内事業であるアイリスオーヤマの売り上げのうち、52%を占めるに至っている。2019年度はそれを58%にまで伸ばし、家電売り上げだけで1100億円を狙う。
これまで同社の家電事業の主軸は、LED照明だった。その後、調理家電や空気清浄機、掃除機などへとジャンルを広げてきた。2017年に販売したエアコンも好調だという。
2017年以降は総合家電メーカーを目指し、エアコンや冷蔵庫などの大型家電も販売している。テレビもその一環だ。
そんなアイリスオーヤマが、今後の家電事業の主軸として期待するのがテレビ事業だ。
同社は大阪と東京に開発拠点を持つが、テレビは東京の開発拠点が手がけた初の商品になるという。同社は2018年から、一部店舗でテレビの試験販売を開始していた。今回販売する製品もその流れに沿ったものだ。
順調に家電の売り上げを伸ばし、ついにテレビに参入……というと、自信満々での市場参入のように感じる。
だが、アイリスオーヤマ家電事業部統括事業部長の石垣達也氏は会見で、「昨年のテスト販売をするまでは、まったく自信がなかった」と意外な発言をした。
出典:アイリスオーヤマ
同社は2010年代半ばに、他の家電メーカーから多くの人材を集めている。大阪と東京の開発拠点はそうした人材によって生まれたもので、技術面に不安があるわけではない。
とはいうものの、日本のテレビ市場はソニー・シャープ・パナソニック・東芝(現Hisense傘下)のトップ4社による寡占状態で、そこに中韓のメーカーが迫っているものの、数量は多くない。
果たして、勝算はあるのか?
2018年度、同社は販路を絞ってテスト販売を行った。このテスト販売だけで、同社製テレビは約10万台が売れたという。JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の調べによれば、2018年の国内でのテレビの出荷台数は約451万台。新規参入で10万台と考えれば、悪くない数字だ。
コスパと売り場選択で「大手と戦わない」戦術
2018年のテスト販売では10万台を販売。特に好調だったのは、ホームセンター市場という「テレビ不毛の販路」だったという。
アイリスオーヤマのテレビがなぜ売れたのか?理由は2つある。
ひとつは「コストパフォーマンスにこだわった」ことだ。
石垣氏は「日本のテレビ市場は分断されている」と言う。主流は、高画質・高音質・高付加価値なテレビだ。ネット接続機能や映像配信の視聴機能も備える。その分、どうしても高くなる。一方で海外製を中心に、低価格なテレビもある。
アイリスオーヤマは、シンプルな液晶テレビに絞った。4K対応ではあるが、ネット配信などの機能は一切ない。それによって、4K対応で売れ筋の50型でも10万円を切る。
その上で、売り上げアップに大きく貢献したのが「販路」だ。テスト販売は、自社直販や家電量販店の他、いわゆるホームセンターでも売った。あまりテレビが販売されていないホームセンターでの販売が、同社家電が好調である理由のひとつだ。
ネットなし・すぐ使える音声認識で「ホームセンター市場」を取り込め
同社製新テレビには「音声リモコン」を付属。声で電源操作やチャンネル切り替えなどができるが、ネット接続は不要。
本格販売にあたって、同社はもうひとつ武器を用意した。それが「音声操作」だ。
音声操作というとスマートスピーカーのようなネット連携機器を思い浮かべるが、同社のテレビは音声操作対応でも、ネットには一切接続する必要がない、という特徴がある。音声に反応する音声操作リモコンが付属し、それを壁などに貼り付けて使うことで、テレビの音声操作に対応する。
音声操作関連技術を担当した、アイリスオーヤマ家電事業部テレビ事業部マネージャーの鴫原秀郎氏は、「スマートスピーカーを否定する存在ではない」と説明する。
「音声操作の世界は今後も広がっていくが、Wi-Fiでのネット接続などを難しいと思う人も多い。ネット接続が一切不要なこの製品で、まずは音声操作を広げたい」(鴫原氏)
音声認識機能は自社で独自に開発したもので、電源のオンオフやチャンネルの切り替えなど、27のコマンドを声で行える。前述のように、ネットには一切つなぐ必要がないので、電源につなげばすぐに使える。
「早期にテレビ市場でシェア10%を狙いたい」シンプル路線
同社リリースより。音声リモコンは使い勝手を重視し、あえてテレビには内蔵せず、付属のものを壁などにかけて使う。
出典:アイリスオーヤマ
ネット接続なしで認識できるよう、音声認識モデルも自社で作り込んでいる。確かにこれは、従来の家電メーカーにはなかった発想だ。
音声認識搭載の新モデルは、年間で5万台の販売を予定している。前述の「シンプルモデル」と合わせ、15万台以上の販売を見込む。
前述の石垣氏は、「早期にテレビ市場でシェア10%を狙いたい」と語る。2018年度実績から計算すれば45万台程度だ。
同社は大手4社とは、機能でも販路でも直接戦わない道を選んだことになる。シェア10%はかなり強気な目標だが、顧客がバッティングしない状況を維持できれば、可能性はある。
(文、写真・西田宗千佳)