2大横綱NetflixとSpotifyにみる、個人課金の2つのモデルケース

Q. 個人課金の2大横綱NetflixとSpotify、ビジネスモデルにおける類似点と相違点は?(1)

A. 類似点 = 継続課金ビジネス

 相違点 = Spotifyは無料ユーザーを有料ユーザー以上に抱えていて、広告でマネタイズをしている点

2019年7月から9月期の決算が徐々に発表になっています。

今日の記事では個人課金ビジネスの横綱である NetflixとSpotifyを比較してみたいと思います。

どちらも個人課金ビジネスとしては大変大きく成功している会社ですが、ビジネスモデルに類似点と相違点があるので、それらをクリアにしていきたいと思います。

ネットフリックスの2019年第3四半期決算概要

ネットフリックスの2019年第3四半期決算概要

はじめにNetflixですが、売り上げが$5.2B(約5200億円)、前年度比+31.1%で成長しています。YoY+31.1%で成長しています。営業利益は$980M(約980億円)で、営業利益率が18.7%と黒字の会社です。

課金ユーザー数はグローバルで1億5,800万人を超えており、YoY+21%で成長しています。

ネットフリックスの料金表

Netflixの料金体系は、一番安いプランが月に$9(約900円)、スタンダードプランが$13(約1300円)という料金体系になっています。

Spotify2019年第3四半期プレスリリース

Spotify2019年第3四半期プレスリリース

続いてSpotifyですが、売り上げはEUR1.7B(約1700億円)、YoY+28%で成長しています。営業利益はEUR54M(約540億円)で、ぎりぎり黒字になったかならないかぐらいのタイミングです。

MAUは2億4800万ユーザーで、そのうち1億1300万ユーザーが、有料プランに加入しています。

Spotifyの料金プラン

会員数(有料、無料)が多いのはどちら?

初めに会員数を比較してみましょう。

NetflixとSpotifyの会員数の比較

Netflixは、トライアルを除けば無料会員というのは存在しませんが、Spotifyは無料会員と有料会員が似たような数存在することになります。

合計会員数で見ると、Spotifyの方が大きいわけですが、有料会員数はNetflixの方が多くなっています。

売上(有料会員、広告)が多いのはどちら?

NetflixとSpotifyの売り上げの比較

続いて売り上げを見てみると、Netflixの方が課金売上が3倍以上大きい計算になります。Spotifyの広告売上を考慮しても、全体でNetflixが2.7倍大きいです。

売上成長率はどちらもYoY+30%程度と、同じような速いペースで成長しています。

ARPUが大きいのはどちら?

1ユーザーあたりの売り上げであるARPUを比較してみます。

NetflixとSpotifyのARPUの比較

ネットフリックスのオフィス

計算すると、NetflixのARPUは、Spotifyの2倍以上という結果に。

Getty/Mario Tama

NetflixのARPUは月間$11(約1100円)となっており、SpotifyのEUR4.6(約460円)に比べると Netflixの方が2倍以上大きい計算になります。

少し細かい話になりますが、Spotifyはアメリカでは月に$10(約1000円)のプランを販売しているわけですが、ARPUがそれよりもずっと低い数字になっており、詳しく調べてみたところ以下のような記載がありました。

The largest driver of ARPU decline continues to be product mix, although geographic mix also plays a role. As a reminder, approximately 75% of the impact to ARPU is attributable to product mix changes, and the remainder a function of changes in geographic mix and other factors.

この記載によれば、昔からの古いプランに加入しているユーザーがまだ残っている点と、地域によって価格帯を変えているという点が、とても大きなインパクトがあるということです。

Spotifyのロゴ

Spotifyは広告によって、無料会員のマネタイズもできている。

REUTERS/Dado Ruvic

Spotifyは無料会員からも月間EUR0.4(約40円)ずつマネタイズできています。

For the Ad-Supported business, revenue growth of 20% Y/Y underperformed our expectations in Q3. Roughly 80% of the miss was related to self-inflicted implementation and integration issues we experienced with the rollout of a new order management software to replace Google’s Doubleclick Sales Manager which was sunset in July.

こちらも少し細かい話ではありますが、Spotifyの広告売上はGoogleのダブルクリックシステムを新システムに置き換える際に少し障害があり、売上ロスが一時的に発生したと書かれています。

まとめ

以上をまとめるとこのようになります。

指標        Netflix  Spotify

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合計会員数     1.58億人 2.48億人

  有料会員数   1.58億人 1.13億人

売上        $5,245  €1,731

  YoY 売上成長率  +31.1%  +28%

有料会員ARPU/月  $11.04  €4.60

どちらも、グローバルで1億人単位での課金ユーザーを有する巨大な個人課金ビジネスになっています。

共通点として挙げられるのは、売り上げの成長率がYoY+30%程度と、非常に成長スピードが速い、そして有料課金がとてもうまくいっている、の2点と言えるでしょう。

一方で相違点としては、Spotifyは全体のユーザー数のうち半分以上が無料プランを利用しており、かつその無料プランを利用しているユーザーから広告で月間EUR0.4(約40円)ずつマネタイズができているという点が、一番大きな相違点だと言えるでしょう。

この違いというのは非常に興味深くて、例えば Netflixも、無料プランを提供して広告でマネタイズするということも不可能ではないはずですが、今のところトライアルを除いて無料プランを展開する様子は見せていません。

Spotifyのデータを見る限り、有料会員の方が10倍以上大きくなっているので、Netflixとしては有料会員からの売り上げが減ることを恐れているのかもしれません。

一方でSpotifyの方は、まずは無料プランでユーザーを大量に獲得し、広告で少しずつマネタイズしながら有料プランに移行させていくというモデルが着実に実を結んでいるとも言えますので、それぞれ2つとも違った進化の形態を取って今に至っているのではないかと思います。

同じ個人課金ビジネスでも違った進化をしてきているのが、とても興味深いと思いましたが、皆さんはどう思いましたでしょうか。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。

決算が読めるようになるノート(2019年11月12日公開)

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