就活の仁義なき早期化が止まらない。時代とズレたルールはなぜ残るのか?

学生

撮影:今村拓馬

2021卒の就職活動がシーズンを迎える中、政府は採用選考を6月解禁などとする、いわゆる就活ルールを2022卒(現在大学2年生)以降も維持することを決めた。

ルールに法的拘束力はなく、外資企業やベンチャーは無関係に選考を進めるほか、日系企業でも水面下で選考が進んでいるのが実情だ。そもそも政府調査でも、4月時点で9割の学生が面接を受けている。すっかり形骸化するルールは、なぜいまだに維持されるのか?

ルールめぐって就活現場に漂うシラけたムード

「今年はこのニュース、人材サービスの人間はあまり気にしていないですね。オオカミ少年がまたオオカミが来た!と言っても、誰も聞かなくなるのと一緒」

人材業界のとある関係者は、政府が就活ルール維持を決めたことを受け、冷めた様子でそう話す。10月末の関係省庁連絡会議で、政府は企業の新卒採用活動で足並みをそろえる「就活ルール」を、2022卒でも維持することを決めた。

連絡会議は2018年秋に立ち上げられたもので、就活ルールの「方針」を経団連ではなく政府が決めるのは2019年で二度目だ。そこで決まった2022卒の日程は以下の通り。

  • 広報活動開始:(卒業・修了年度に入る直前の、以下同)3月1日以降
  • 採用選考活動開始:6月1日以降
  • 正式な内定日:10月1日以降

売り手市場を追い風に、新卒人材の採用競争は年々、激化している。優秀な学生をめぐって大学1〜3年生のインターンシップ時点からの囲い込みが主戦場になるなど、早期化する就活現場の実態から、就活ルールはかけ離れたものとなっている。

さらに就活現場にシラけたムードが漂うのは、就活ルール廃止議論が盛り上がったにも関わらず、相変わらず保守的におさめようとする政府の姿勢への失望感があるからだ。

学生は就活ルールを気にしていない

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撮影:今村拓馬

昨年(2018年)10月に経団連の中西宏明会長が2021卒以降について「就活ルールの指針を経団連はもう策定しない」と発表。ルールの形骸化が公にも指摘され、就活ルール廃止議論は盛り上がった。

しかし、学生の学修時間の確保を理由に「経団連がやらないなら国が」と、政府が立ち上げた2018年秋の連絡会議(内閣府、厚生労働省、経済産業省)では結局、2021卒でもルールを維持することを決定。政府から経団連や業界団体に要請するという格好に落ち着けた。

そして2019年も連絡会議はその流れを踏襲し、2022卒についてもルール維持という結論になったというわけだ。

冒頭の人材業界関係者はいう。

「学生も就活ルールがどうこうというのは、気にしてないですね。国がどう言おうが、目の前で先輩も友達も、早くから就活して内定をもらっていますから」

2019卒の社会人1年目という、国立大出身の20代男性も言う。

「就活ルールは就活とはほとんど無関係。面接は3年からどんどん進んでいましたし、(ルールで定める6月より前に)内定も出ていた。ホンネとタテマエが社会の現実なんだなあと思いました」

政府の言い分は「急激な変化は混乱生む」だけど……

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出典:学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査結果について

「実際、ずっとこのままでいいとは思っていません。ただ、急激な変化は混乱を生むということ。アンケートをとるとルール維持を望む学生が多いのも事実です」

就活ルールをめぐり、2022卒も「現行を維持」としたことについて内閣府幹部はそう説明する。

実際、内閣府が6986人の学生・大学院生に実施した調査では、74%の学生が「なんらかのルールが必要」と回答。「ルールは必要ない」は2割程度に止まっている(上のグラフ参照)。就活ルールがあったことで「予定を立てやすく準備ができた」との声も上がったと言う。

ちなみに就職・採用活動時期の設定について2500社に聞いた内閣府のアンケートでは「現在の開始時期でよい」との回答は3割で、「採用活動は自由にした方がよい」「どちらとも言えない」などを上回った。こうした結果を踏まえて「就活ルール」維持に至ったというのが政府の言い分だ。

しかし、実際にはこうしたルールは守られていないのが実態だ。

実際の就活はどう進んだかを学生に聞いたところ、就活ルールが定める6月以前の4月までに最初の面接を受けた学生は9割にのぼり、採用面接のピークも9割の学生が5月だったと回答。「選考活動を早期に開始する企業があって混乱した」との声も複数上がっている。

大半の学生にしてみれば、「ルールは不要」と言い切るには躊躇があるものの、実際にはルールとは乖離(かいり)した就活事情に適応しているのが現状のようだ。

大企業が優秀な学生の採用競争に苦戦し始めた

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就活ルールはそもそも二転三転してきた経緯がある。

2013年、就活開始時期の早期化で、就活自体の長期化が懸念されたことから、国が経済界に対し、時期の後ろ倒しを要請。これを受けて経団連が「採用選考の指針(就活ルール)」を策定し、国がそれを守るよう経済団体や業界に要請するという流れができた。

選考解禁は年によって8月だったり6月に前倒したり、「学生が勉強に集中できる期間を確保する」を理由に模索されてきた。ただ、ここにきて形骸化が強まり、そもそも就活ルールを主導してきた経団連こそが2018年秋の時点で廃止の口火を切ったことは、経団連に所属するような大企業を取り巻く環境の変化を無視できない。

「優秀層の学生は近年、就活ルールとは無関係に採用をする(経団連に所属しない)外資コンサルや外資金融、勢いのあるベンチャーに向かっている。かつてはいくらでも学生の応募が来ていたような日系大企業も、ノーブレスオブリージュ(高貴な者の果たすべき義務や責任)のようなルールに縛られている場合ではなくなってきた」(就活支援サービス運営企業の幹部)

止められない就活の仁義なき早期化

就活

撮影:今村拓馬

「これだけSNSが発達して多くの情報に触れることができる時代で、選考解禁(6月)前に、学生が企業に会わないようにというのは無理がある。就活の仁義なき早期化は止められないでしょう」

新卒採用支援を複数企業や大学で手がける、採用コンサルタントの谷出正直さんはそう指摘する。

「学業に支障をきたすとして、早期の就活に消極的だった大学側にも、今年は採用情報解禁(3月)前から積極的に企業と学生の接点を作る動きが出ています。会社や仕事は知らないと選べない。解禁前に、そうした情報を見るなと言うのも無茶な話です。就活ルールは今さら感があり、現実に追いつけていないというのが就活現場の実感でしょう」

2019年はリクルートが内定辞退率データを顧客企業に販売していた問題が明るみになり、採用にも活用されつつあるビッグデータをどう取り扱うかという「AI倫理」の問題が注目を集めた。

就活がビッグデータとテクノロジーと切り離せないものとなった今。かけ声にしたがって企業が足並みをそろえるような就活ルールが色あせていくのは、必至の流れと言えそうだ。

(文・滝川麻衣子)

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