ヤフー・LINE「経営統合ショック」が業界にもたらす巨大インパクト

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作成:Business Insider Japan

Yahoo! JAPAN(ヤフー)とLINEが経営統合について協議していると報じられた。

実現すれば日本国内で約1億人にリーチする巨大なネット企業が誕生する。仮にこの経営統合が実現した場合、どのようなことが起こり得るのだろうか。

注:関係者によると、一部報道のとおり、11月18日中に都内で経営統合の正式発表をする見込み)

両社の統合のメリットはスマホでの卓越した「起点」の獲得にある

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撮影:伊藤有

ヤフーの強みはインターネットにPCからアクセスすることが主流だった時代に、「起点」であるポータルサイトを押さえていたことだ。ブラウザーが立ち上がって最初に表示する「ホームページ」を、検索やニュースを提供する「ポータルサイト」が奪い合った。

この「起点」を持つことの強みを熟知しているヤフーだからこそ、ネット利用の起点が検索やスマホのホーム画面、SNSのタイムラインに移ってからも、常にネットの「起点」を押さえようとしてきた。

ヤフーは各サービスで数多くのアプリを出し、アクセス数ベースでPCをスマホが抜く水準まで持っていったものの、個々のアプリでトップの座につくことはできなかった。ニュースではSmartNews、地図ではGoogleマップなど、各カテゴリーでヤフーよりも強いアプリがある。

LINEはメッセージング分野で最も強いアプリであると同時に、他カテゴリーに対しても入口となる「スーパーアプリ」となる。日本においてスマホアプリの最高の起点であるLINEと、ヤフーが持っている数々のサービスを連携させれば、日本国内で最強の「スーパーアプリ」として、スマホでの起点を押さえることができる。

メルカリ、楽天、ドコモ、KDDIなどは戦略の練り直し必至

レジでのキャッシュレス決済の例一覧

撮影:小林優多郎

スマホ決済では、300億円超の投資を行ったPayPayがアプリの利用者数・加盟店数ともに独走し、LINE Payが追う展開となっている。

LINE Payはメルカリのメルペイ、NTTドコモのd払い、KDDIのauペイと連携して加盟店の相互乗り入れを行うことを発表していたが、ヤフーと経営統合すれば、株主であるソフトバンクの推し進めるPayPayとの関係を強めるのではないか。

そうすることでPayPayは個人間送金で最強のソーシャルグラフ(友達関係)を手にして、LINE Payは泥沼の加盟店開拓・ポイント還元競争から脱却できる。逆にいえば、LINE Payを核に連携を考えていたメルカリ、NTTドコモ、KDDI、加えて楽天、Origamiなどのスマホ決済業者は、加盟店や利用者の獲得について戦略を練り直す必要に迫られる。

懸案のEC強化へ向けた飛び道具に

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9月のZOZO買収会見に突如登壇した孫正義ソフトバンクグループ会長。

撮影:西山里緒

ヤフーは川邊健太郎社長の就任以降、アスクルの経営権獲得やZOZOTOWN(株式会社ZOZO)の買収、PayPayフリマ、PayPayモールを矢継ぎ早に投入するなど、ここ数年ECのテコ入れに力を入れている。LINEを通じてスマホでの起点と利用者とのタッチポイントを獲得すれば、アマゾン・楽天を追撃する上での大きな武器となる。

まだまだEC分野ではアマゾン・楽天に水を開けられているが、PayPayでスマホ決済を押さえ、アスクルの経営権取得でアマゾンに負けない物流拠点を持ち、LINEを通じてスマホでのユーザー接点でアマゾン・楽天を圧倒できれば、EC領域の成長へ向けて足がかりをつくることができる。LINEにとっても、ソフトバンクの携帯電話販売店やPayPayの加盟店開拓部隊の営業力を活かした地上戦を展開できるようになる。

アジア戦略の足掛かりになる

ヤフーは旧米Yahoo! Inc.との契約で、ヤフーブランドでの事業展開を日本国内に制限されてきた。一方でLINEは世界各国でサービスを展開し、タイやインドネシアでも数字を持っている。

(ヤフー陣営は)LINEブランドでサービスを拡充することによって、人口減で市場の縮小が見込まれる日本を飛び出して、成長著しい東南アジア市場での展開も容易になる。アジアではソフトバンク・ビジョンファンドがさまざまなサービスを展開しており、これらを日本を含めたLINEの普及している国々で展開することも考えられる。

一方で統合へ向けた課題は山積

11月14日付 日本経済新聞の報道によると、今回の経営統合ではソフトバンクと韓国ネイバーで共同持株会社を設立してZHDの株式を7割近くを保有し、その下にヤフーとLINEが並存するかたちが検討されているという。いきなり合併せず持株会社を介した兄弟会社として存続することは、事業レベルでの統合プロセスにおいて、着地点を見出すべきさまざまな課題があることも示唆している。

重なり合うユーザー層とサービス

いずれも日本を代表するネット企業であるヤフーとLINEは、重複するサービスも数多くある。ゲームのようなコンテンツであれば共存できるが、ニュース、スマホ決済はじめ数多くの重複するサービスが多い。

またYahoo! JAPAN IDとLINE IDは、いずれも国内最大規模の利用者数を擁している。金融分野でもヤフーがジャパンネット銀行を持っているのに対して、LINEはみずほ銀行と組んでLINE銀行を設立しようとしている。IDをはじめとしたサービス基盤を統合し、事業のポートフォリオを整理するには、かなりの豪腕を要するだろう。

一方でヤフーとLINEともにリーチできていない利用者層も日本国内にいる。検索にグーグル、ソーシャルメディアにTwitterやFacebook、買い物にAmazonを使っていて、ヤフーもLINEも楽天も使っていないユーザー層である。

日本国内で圧倒的な利用者数を抱えているヤフーとLINEだが、苦手としているセグメントもやや似ている。LINEは日本国外でもタイ、台湾、インドネシアで比較的高いシェアを持つが、両社とも日本市場を主たる収益源として、日本市場で高いシェアを持っており、重複した利用者も多いのではないか。

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出典:LINE

LINEが公表している紹介資料(上図:2019年10-12月版)によると、普段スマートフォンで利用しているサービスとしてLINEを挙げている人は81.3%、ヤフーを挙げている人が51.6%おり、そのうちLINEのみを使っている人が19.1%、Yahoo! JAPANのみ使っている人が4.1%いるとしている。LINEからみるとヤフーの利用者はかなりの部分がかぶっているが、ヤフーからみると、LINEとの連携で新たに獲得できるリーチが2割近くあることが分かる。両社を足すと85.4%の利用者がスマホで普段から使っている計算となり、まさに国民的サービスといえる。

利用者は「スーパーアプリ」を求めているのか?

LINEには既に多くのサービスが統合されており、関連アプリへの導線は複雑になりつつある。LINE Payで決済した店舗からのプッシュ通知が煩わしいという不満も聞かれる。

事業上のシナジー(相乗効果)を出すにはLINEから各サービスへの誘導を増やす必要があるが、それ自体がLINEの競争力を損なうリスクがある。その上、単にLINEアプリから呼び出せるというだけでは、各セグメントでトップを獲ることは難しい。

例えばLINEは「LINE NEWS」という単体のニュースアプリを出したが、SmartNewsやGunosyといった専業ニュースアプリと比べて存在感は薄い。LINEアプリ自体でニュースを配信するようになってリーチは拡大したが、LINEから他アプリへの誘導には必ずしも成功していない。

単にYahoo!ショッピングやZOZOTOWNといったECアプリをLINEアプリから呼び出せるようにしただけでは、顧客を思うように誘導できるとは限らない。ユーザー不在の企業戦略でLINEに様々な機能を盛り込もうとし過ぎれば、LINE自体からのユーザー離れを招いてしまう危険性もある。

ソーシャルメディア疲れという言葉にも見られるように、コミュニケーションツールの移り変わりは早い。今は日本市場でLINEが圧倒的なプレゼンスを誇るが、経営統合で機能改善のスピードが遅くなったり、事業上のシナジーを優先して、UIが複雑になったり、動作が重くなったり、通知を送り過ぎるなどして利用者からの支持を失うことがあれば、大きなリスクとなり得る。

社風と競争軸の違いを克服して新たな文化を創造できるかが鍵

ヤフーは長らくソフトバンクグループでありながら経営の自律性を保ってきたところ、ここ数年はソフトバンクの影響が増していた。

LINEは韓国ネイバーが資本を持ち、全く異なる企業文化を持つ。

ライバル視する企業も、ヤフーであれば楽天、リクルートといった国内大手であるのに対して、LINEの競争相手はWeChatやWhatsAppなど海外のメッセンジャーアプリで、対象とする市場も日本に留まらない。経営と開発のカルチャーやスピード感、戦略の優先順位にも違いがありそうだ。

事業統合プロセスがうまく行けば、新グループは日本国内での圧倒的なプレゼンスを持ってスマホのスーパーアプリを提供してマネタイズしつつ、東南アジアを中心にソフトバンク・ビジョンファンドの投資先ポートフォリオを、LINEが比較的強いタイ、台湾、インドネシアなどの国々に展開することも考えられる。

一方でグループでの意思決定プロセスが複雑化したり、サービスの統廃合に手間取って足を引っ張り合うことがあれば、互いの事業資産を磨耗して時間を空費してしまうシナリオもあり得る。

とはいえ楽天、メルカリなどの国内ネット各社、NTTドコモ、KDDIなどの国内キャリア各社は、敵失を期待するよりも前に新たなグループとの競争をにらんだ戦略の練り直しを迫られることになる。

(文・楠正憲)

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