充実した読書だった……と思ったのに、数日後には話のスジさえあいまい。よくある話だ。
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どんなに面白がって読んだ文章でも、そのうちほとんど忘れてしまう、という人は多い。
確かに、忘却は人類に共通の現象ではあるけれども、だからといって、ただ諦めるしかないという結論はならない。
実は、読んだものをもっと長いこと記憶にとどめておく、簡単でクリエイティブな方法はいくらでもある。それが小説であれ、ニュース記事であれ、科学の教科書であれ。
そうした方法のいくつかは、知識共有プラットフォーム「クオーラ(Quora)」のスレッド「読んだばかりのものを忘れないようにするにはどうしたらいい?」にも書いてあるし、ウェブ検索でよく調べれば、いろいろ出てくる。
以下に最も実用的な10のテクニックを紹介しよう。
1. テーマについての知識を仕入れておく
ブロガーのリアン・バトルスは、テキストを読む前に、そのテーマに関連する知識を仕入れておくことをオススメしている。
「あることがらについて理解していればいるほど、事実を記憶につなぎとめる『フック』が生まれるのです」
それによって、新たに得た情報とすでに知っている情報をより深く結びつけることができるようになるわけだ。
例えば、準備として事前に(同テーマについて)ウィキペディアの記事を読んでおくだけでもいい。
2. とりあえずざっと目を通してみる
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先述のクオーラのスレッドで、テキサスA&M大学教授のビル・クレム博士(神経科学)の論文を、匿名のユーザーが引用している。同論文では、情報を記憶するための重要な戦略として、ざっと読むことにスポットが当てられている。
全体をしっかり読み込むプロセスを省く、という意味ではない。重要なトピックやキーワードを拾いながらひと通り読んでおくことで、本格的に読み込んだら何を得られるのかがわかる。大枠を知っておくと、細部を覚えやすくなる、とクレム博士は指摘する。
3. ページに書き込みをする
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クオーラのユーザー、デニス・アテシュはこう書いている。
「ペンを持たずに読むべからず。よくわからなかった箇所、興味深いと感じた箇所、重要だと思った箇所にはアンダーラインを引くこと。大事なパラグラフの脇にもマーカーを。大事なアイデアの骨組みを忘れないよう図を書き込んでおくべし」
4. 声に出して読む
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別の匿名のユーザーが次のように書いている。
「声に出して(自分に聞かせるように)読むことで、多くの場合、理解して記憶にとどめることができるようになる」
また、『サイコロジー・トゥデイ』への寄稿で、テキサス州立大学オースティン校教授のアート・マークマン博士(心理学)は、覚えておくべき要素がいくつかにしぼられる場合、この「声に出して読む」戦略は最大の効果を発揮すると述べている。
口に出したセンテンスは、それがささやきのような小さな声であっても、「弁別性」を帯びるからだ。音声をつくり出し、それを聞くという行為を伴う記憶は、黙読するだけの記憶とは差別化されるのである。
5. 読んだ内容について、自らに問いかける
材料工学に詳しいライターのイングリッド・シュピールマンは、読み進めながら自分に問いかけることで、テキストと触れ合うことをオススメしている。
教科書を読む場合なら、問いかけは至ってシンプルだ。「このセクションの主旨は?」。
フィクションなら「この登場人物の真意は?」とか、「この作品を書き直していいなら、どんな風になる?」とか。
6. 印象づけ、結びつけ、くり返す
Q&Aサイト「スタック・エクスチェンジ(Stack Exchange)」のユーザーTRdHは、記憶を3つのプロセスから説明している。
最初は「印象」。状況を心の中に思い描いたり、作品に登場するイベントに参加している自分を想像したりすることで、文章によってもたらされる印象を強めることができる。
次に「結びつき」「つながり」。言い換えれば、すでに知っている何かとリンクさせる。例えば、ある登場人物の名前は、あなたの友人の名前に響きが似ているな、というように。
最後は「反復」。くり返し読めば読むほど、記憶は定着する。本をまるごとくり返し読むのは嫌だ、という人は、読み直したい箇所だけでもいい。
もう1つだけ付け加えておきたいのは「思い出す」プロセスだ。本を読んで得た情報を、本を手にしていないときに意識的に思い出すことは、一種のセルフチェックになる。記憶とのズレがあれば、そこで明らかになるだろう。
7. 紙で読む
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電子書籍リーダーは便利なツールだ。1トンにもなる本をデバイスに詰め込むことができるし、読みたい本をすぐにダウンロードすることもできる。
しかし、電子書籍リーダーには記憶力を弱めるマイナス効果があるとの研究成果もある。同じ短編をペーパーバックとキンドルで読んでもらったとき、話のスジをよく覚えていたのは、ペーパーバックで読んだ被験者たちのほうだったのである。
研究を率いたノルウェー・スタヴァンゲル大学のアンネ・マンゲン博士はこの結果について、本を手に持って読むと、キンドルにはない、読み進めている肌感覚を得られるからではないかと推測している(もちろん、オンラインで読むのに相当慣れている人たちには当てはまらないだろう)。
一方、マンゲン博士の別の研究成果によって、高校生の文章読解力は、スクリーン表示のテストより、紙にプリントしたテストのほうが得点が良いことが明らかになっている。
8. 集中して読む
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何かを読むと決めたら、一定時間は気の散るもの(こと)を遠ざけよう。外的な妨げだけでなく、自分の気も強く持って。うたた寝、メールチェック、スマホ、ネットフリックス……いずれも厳禁だ。
そうやって自らを深い集中状態に置くことで、テキストとのより強い一体感を得ることができる。最初は難しく感じるかもしれないが、そのうち徐々に集中状態をつくるのに慣れてくる。
まずは毎日25ページ、集中して読む時間を1週間。その後、35ページに増やす。ゆっくりとだ。
9. 読んだ内容を誰かに伝える
専門家によると、経験を記憶にとどめるためには、その情報を使って何か行動することが重要だという。
クオーラのあるユーザーは、読んだことを語り合うことは、新しく得た情報を処理する有用な手法だと書いている。
また、米作家のヴェンカテシュ・ラオは、本を読んで学んだと思うことをブログに書いたり、誰かに説明するのがいいと(やはりクオーラ上で)指摘している。
もし他人に説明できなかったら、もう一度読み直しておこうという気になるだろう。
10. 自分に関係のある本を選ぶ
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教材として割り当てられたとか、テストに出るとか、論文を書かなくてはいけないとか、「読むプレッシャー」がない場合はどうだろう?
なぜその本を読むのか、理由をはっきりさせておいたほうがいい。その本に興味をそそられるのはなぜなのか。自分の成長に目に見えて影響のある本なのか。異なる思考の流れに一時的に逃げ込むための本なのか。
何かに強い印象を覚えたなら、それは学んだことを記憶にとどめ、誰かにそれを話す絶好の機会だ。
そんなわけで、本は慎重に選ぼう。何冊でも挑戦しよう。自分が好きなごくごくわずかな本しか読み切ることができないとしても、それは何ら恥ずべきことではないのだ。
[原文:10 tricks for remembering everything you read]
(翻訳・編集:川村力)