自閉症など発達障害人材に米マイクロソフトなどIT企業が熱い視線。日本では“埋もれた人材”の発掘なるか

タイピングする男性

欧米で、発達障害者を高スキルのAI人材やITエンジニアとして活用しているというニュースを目にすることが出てきた。

Shutterstock/Joyseulay

欧米メディアで、自閉症などの発達障害者を高スキルのAI人材やITエンジニアとして活用する企業が増えてきているというニュースを目にすることが出てきた。そうしたニュースでは、「neurodiversity(ニューロダイバーシティ)」という語が出てくる。

シリコンバレーで注目される人材

人間の脳

ニューロダイバーシティは「神経の」「多様性」を意味する新語。ニューロダイバーシティにおいて発達障害は、周囲による少しの支援、協力、理解があれば、能力が開花される、と考えられる。

Shutterstock/Yurchanka Siarhei

ニューロダイバーシティとは、「神経の」を意味するneuroと「多様性」を意味するdiversityを合わせた新語。発達障害のカテゴリーである自閉症、ADHD、統合運動障害、失語症、計算障害、読字障害などをマイナスではなく「違い」の1つとして見る。あくまでも脳神経の状況が違うので、治療する必要はなく、周囲による少しの支援、協力、理解があれば、能力が開花される、と考える。

アメリカでは1990年にADA法(障害を持つアメリカ人法)により障害の社会モデル(障害は個人ではなく社会にあるという思想)が確立され、障害児者の教育環境が向上したにも関わらず、自閉症者の多くが失業状態だったり、不完全雇用(著しく能力以下の仕事についている)だったりしている。

一方で近年、シリコンバレーのエンジニアに自閉傾向を持つ人材がいることが注目されるようになっていた。有名なのは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏だ。

が、これからは成功を当事者のマンパワー次第にするのではなく、組織的な取り組みで当事者を取り込むことで成功を支援しようという流れになってきたのである。

マイクロソフトなど大手企業が続々採用

ビル・ゲイツ氏

自身も自閉症的な傾向があると言われてきたビル・ゲイツ氏。

Getty/Jeff J Mitchell

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、自閉症の労働者は極めて高い集中力と分析的思考能力、並外れたIT能力を備えていることが多い、と採用企業の複数の幹部が証言している。彼らはAI開発に伴う反復作業(コンピュータービジョン用の写真・動画のラベリングなど)に長時間取り組んだり、論理的推論やパターン認識の高い能力を生かしてAIモデルの体系的な開発やテストに取り組んだりしているという。

またロイターによると、2024年までに110万件のコンピューター関連の求人が出ると見込まれているが、アメリカの大学卒業者数がニーズに追いつかない、とデルで退役軍人や障害者の採用を担当するルー・キャンディエロ氏は指摘する。

「有能な人材を集めるためには、考え方を改める必要がある」

自閉傾向と言われてきたビル・ゲイツ氏が創業したマイクロソフトはニューロダイバーシティの先陣を切り、2018年6月までに56人を雇用したという(フォーブス)。IBM、HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)、デル・テクノロジーズ、SAPも採用している。

IT業界にとどまらず、国際会計事務所EY(アーンスト・アンド・ヤング)も2019年8月までに約80人雇用したほか、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やフォード・モーターのようなメーカー、JPモルガン、クレディ・スイス、ゴールドマン・サックスのような金融機関も続いている。2019年8月までの実施企業は40~50社と推定されている。



30%も高い生産性

こうした企業ではニューロダイバーシティ人材を活用するうえで、既存の選考や人事システムでは無理があることにも気付き、外部の自閉症に詳しい専門家の意見を取り入れ、独自のインターンシップ・プログラムを作っている

例えば一般的な面接で採用を決める代わりに、数週間のインターンシップで能力を評価する。そもそも面接のルールは「自分の話ばかりしない」「(特にアメリカでは顕著だが)相手の目を見て話す」、これらは多くの発達障害者の苦手とするところ。しかし、実際プログラミング実習などをしてもらうと、彼らが働けることがわかる。企業によっては、採用者には大卒者だけでなく高卒者も含まれている。

そして採用後も、外部ジョブコーチによる定着支援や、働きやすい環境整備に力を入れている。

こうした支援をすることによって、ニューロダイバーシティ人材は生産性、品質の向上などで、企業に多様なメリットを生み始めていることも証明されている。ハーバード・ビジネス・レビューの論文によると、HPEはこの取り組みにより、ニューロダイバーシティ人材がいるチームを構成したところ、そのチームの生産性が他のチームより30%も高い結果が出た。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、EYの14人のチーム(うち8人が自閉症スペクトラム)は2018年、同社のコンサルティング契約を自動で組成するアルゴリズムを開発。月間2000件の契約を組成し、同社は年間労働時間を約50万時間節約したという。

日本では埋もれた人材

街を歩く男性

ニューロダイバーシティはやがて日本にも上陸するだろう。AIやデータサイエンスの人材不足などの問題を打開するかもしれない。

撮影:今村拓馬

ニューロダイバーシティで実績を上げたグローバル企業は、それを世界各国の支社にも拡大している。やがては日本にも上陸するだろう。

日本でも発達障害者の多くが、周囲の間違った思い込みや理解不足により、働く能力があるにもかかわらずそうでないと判断され、埋もれた人材となっている。この中には、高学歴でプログラミングや論理的思考力や語学力に優れた人材もいるだろう。

日本はAIやデータサイエンスの人材不足がアメリカ以上に深刻で、政府も企業も危機感を持っている。

障害者の法定雇用率を達成している企業は45.9%にとどまり、特に情報・通信業になるとその割合は25.4%にまで下がる(厚労省による平成30年の障害者雇用状況の集計結果)。2020年度末には法定雇用率の2.2%から2.3%へ引き上げが決まっている。発達障害者の雇用は待ったなしの状況だ。

障害者枠は一般枠と比べて給与水準が低く、仕事内容がいつまでも補助的なものが目立つ。こうした就労は意欲の高い障害者にとってはモチベーション維持が難しい。外注化や事務職の自動化(AI、RPA)により、障害者への業務切り出しは限界にきている。ニューロダイバーシティはそうした現状を打開していく可能性がある。

日本の場合、企業と障害者就労定着支援事業との連携があれば、より高度人材の活用は進むだろう。まだ少ないが、高スキル人材育成を目指す就労移行支援事業所も現れている。

11月1日には東京・秋葉原にAI特化型就労移行支援事業所Neuro Dive(ニューロダイブ)が開設。他にもAI特化就労支援事業を作るクラウドファンディングがある。

企業も支援機関がついていれば、発達障害者を安心して採用でき、支援機関の意見を聞いてコツをつかめば戦力化もできると理解するようになってきた。

ニューロダイバーシティは障害者の職域開拓や雇用率達成、イノベーションの切り札となるだろうか。


長谷ゆう:翻訳者・ライター。ビジネス、ダイバーシティを中心に取材・執筆・翻訳。発達障害と診断されたが、富士登山や60キロマラソンに成功し、挑戦やダイバーシティの価値を信じる。ブルームバーグでニュース翻訳やダイバーシティ推進に携わった。現在『Coco-Life☆女子部』『ミルマガジン』などで執筆。

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