なぜLINEは“失敗”したか。ヤフーの力を借りて「スーパーアプリ構想」は実現するのか

LINE YAHOO 統合

11月18日夕方の共同記者会見。両社は、ラグビーW杯日本代表の結束を示す言葉として使われ、流行語大賞にもノミネートされた言葉「One Team(ワンチーム)」を用いた。

撮影:小林優多郎

ヤフー(10月1日にZホールディングスに商号変更)がLINEとの経営統合を発表した。

ヤフーといえば、井上雅博社長時代はどっしりと動かず、安定した広告収益を稼ぎ続けるのが取り柄の会社だった。

しかし、宮坂学社長時代を経て、2018年に就任した川邊健太郎社長は、ファッション通販大手ZOZOの買収に続き、今度はメッセージアプリ大手LINEとの統合と、「拡大か死か」を体現し続けるソフトバンク流経営を、ヤフーでも実践しているようだ。

巨大プラットフォーム同士の統合となるため、重複するサービスの整理は必要だが、顔となるLINEアプリの確保と、PayPayを補完するLINEペイの存在だけで、ヤフーにとっては魅力的だろう。

問題はLINEのほうだ。はっきり言えば、こんなはずではなかったのではないか。さっそうと登場し、またたく間に国内でメッセージアプリの天下を取り、グローバル化も視野に入れていた。さまざまな関連サービスを手掛け、それこそPC時代のヤフーや、中国のWeChatを手本に、モバイルの一大プラットフォームになれる可能性があった。

しかし結果的には「日本で人気のメッセージアプリ」から脱却できなかった。

潰えたグローバル化の野望

グローバル

アメリカや中国の巨大IT企業(テックジャイアント)に立ち向かう。

撮影:小林優多郎

LINEは2013年に1億登録ユーザーを達成したとき、グローバルでの人気拡大を「2011年10月に(略)大規模な機能拡充を行ったことを契機に、中東に加え、台湾、タイ、インドネシアなどの東アジア地域を中心に海外での利用者が増加」「2012年に入って以降はロシア周辺諸国、スペイン・チリ・メキシコなどのスペイン語圏まで利用が拡大」と誇示した。

また、「1億ユーザーを達成するのに要した期間は約19カ月となり、Twitterの約49カ月、Facebookの約54ヶ月と比較しても急速なペースで成長を続けています」と、先行するプラットフォームへ挑戦する野心を隠さなかった。

その後、登録ユーザーは4億人まで増えたが、2014年7〜9月期の業績開示からは、より現実的な月間アクティブユーザー(MAU)が発表されることになった。

グローバルでは1億7000万MAU、うち日本、タイ、台湾の3カ国が約8700万MAUを占める。4億人の登録ユーザ数からは半減し、国ごとの偏りも大きいが、それでも十分に魅力的な規模である。

それから5年が経ち、いまやLINEはグローバルMAUの更新さえしなくなった。直近で確認できる数字は、2017年時点の媒体資料で「2億1700万人以上」。決算資料によれば、2019年現在の数字は、日本の8200万MAUを筆頭に、タイ、台湾、インドネシアと4カ国で合計して1億6400万MAUだ。

日本、タイ、台湾では引き続きトップシェアのメッセージアプリながら、インドネシアではFacebook傘下のWhatsAppに押されて利用者が減少しており、その他の多くの国々では忘れられた存在となった。そもそも、LINEの売上のうち、海外比率は27%にすぎない

サービスのグローバル化は難しい。時間と手間がかかり、たとえばLINEの40倍近い時価総額を誇るFacebookであっても、日本では2600万MAUにとどまるなど、苦戦が続いている。メルカリのアメリカ進出も苦闘が続いている。

それでも、日本産のサービスとしてLINEはグローバルでの成功に最も近かっただろうし、それを成し遂げられなかったのは残念である。

ゲーム事業の成功と広告事業の遅れ

スタンプ

気軽に送れるラインスタンプ。現在ではサブスクサービスも存在する。

撮影:臼井拓水

LINE自身がベンチマークとしたTwitterやFacebookと比較して、何が成長を妨げたのだろうか。

LINEの初期を思い返すと、収益の柱はゲームとスタンプであった。2013年の通期業績発表では「売上構成比は、ゲーム課金(約60%)、スタンプ課金(約20%)のほか、公式アカウント・スポンサードスタンプ等」とある。

人気サービスを作っても収益化に苦労する企業が少なくないなか、LINEはゲームを柱に、早くから500億円規模の売り上げに到達している。

しかし、ゲームはゲームである。メッセージアプリ自体との親和性は、友だちと対戦できる程度にすぎない。たとえ海外でLINEの人気が拡大したとしても、ゲームが流行るとは限らない。また、ゲームアプリの大ヒットは巨額の収益を生むが、2本目、3本目と継続するのは難しい。

App Annieのまとめによれば、LINEは2013年から2015年までは世界5指に入るトップパブリッシャーとしての地位を確立したものの、以降はテンセントやNeteaseといった中国勢、日本でもバンダイナムコやソニーの後塵を拝しており、最近の決算説明資料ではゲーム事業に触れられることさえない。

前述のTwitterやFacebookは、ほぼ広告事業を収益源としている。さまざまな事業を手掛けるアルファベット(グーグル)にしても、収益に関して言えばほとんど広告依存と言っていい。

広告頼みの収益構造には批判もあるが、LINEの現状と比較すると、やはり広告は優れた収益源と認めざるを得ない。広告は利益率が高く、利用者が増えれば増えるだけ自然に収益を増やすことができる。海外のどの国でユーザが増えても、比較的容易にマネタイズが可能だ。

LINEの広告売上は、直近の四半期で306億円、前年同期比で13.8%増だった。8200万MAUという規模を考えると、1人あたりの四半期売上(ARPU)は370円程度にすぎない。

ARPU:Average Revenue Per Userの略。ユーザーあたりの平均売り上げを指し、サービスの健全性をはかる指標の1つ。

比較すると、FacebookのARPUは、日本より遥かに広告単価の安いようなさまざまな国を含めても、全世界平均で6.75ドルを誇る。また、ヤフーの広告売上は近年鈍化しているものの、それでも直近で821億円と、LINEの倍以上の規模である。

今日のLINEの苦境を招いた一番の理由は、ゲーム事業である程度の収益を確保できたがゆえに、広告事業の確立にあまりに時間がかかりすぎたのではないか。公開情報からはそのような状況が見え隠れする。

モバイルポータル化は実現したか

lineeconomy

さまざまなサービスを手掛けたLINE、この見取り図は2019年初頭の情報をもとにしたもの。

図面作成:さかいあい

それでも、LINEがさまざまなサービスの立ち上げに成功していれば問題なかった。むしろLINEとしては、いつでも拡大できる広告事業は後回しにして、メッセージアプリを起点に、サービスの拡充を第一に考えていたのかもしれない。実際、LINEはローンチ翌年の2012年から、毎年のように事業戦略をイベントで発表してきた。

2012年はLINEトークノベル、LINEコイン、ホームとタイムラインなど。2013年はビデオ通話、LINE Music、LINE Mallなど。2014年はLINE Pay、LINE Taxi、LINE WOW (EC), LINE@IDなど。

1年間をおき、2016年はLINE Live、LINEポイント、LINE Mobileなど。2017年はLINEショッピング、LINE デリマ、Clovaなど。2018年はLINEトークンエコノミー、LINEトラベル、LINE Newsなど。2019年はLINE Mini app、LINE Score、OpenChatなど。

ネットサービスはいまやどこも過当競争であり、勝ち抜くのは簡単ではない。しかしLINEの圧倒的なユーザー数を考えれば、ちょうどヤフーがウェブポータルとして成功したように、モバイルポータルとして各種のサービスに手を伸ばしていけるはずだった。

しかし現実は甘くない。ミュージック、ペイメント、タクシー、トラベルなどは他社との差別化要素に欠け、ショッピングを含めた「戦略事業」の売り上げは全体の1割強にとどまっている。AIやトークンエコノミーはまだ掛け声に過ぎず、本体アプリに組み込まれたニュースが何とか存在感を示している程度である。

客観的に見ると、LINEはメッセージアプリ本体と、初期のゲーム以外は、稼げるサービスを育てられなかったのではないか。

モバイルポータルは今度こそ生まれるか

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Zホールディングス社長の川邊健太郎氏(左)、LINE社長の出澤剛氏(右)。

撮影:小林優多郎

過去はさておき、ヤフーとLINEの経営統合は決まった。ヤフーには歴史の長い広告事業があり、LINEの各種サービスへ活用されるだろう。LINEの各種サービスは整理された後、これまでより収益化に貢献するはずだ。

そして、両社による記者会見でも言われたように、LINEはメッセージ、決済、ショッピングなど、さまざまなサービスの入り口として、スーパーアプリをあらためて目指していくことになる。

しかし、それはLINE自身がこの数年目指してきたことと何も変わるところがない。LINE単体では道半ばだったスーパーアプリへの野望が、ヤフーの力を借りることで実現できるのだろうか?

さらに言えば、LINEのユーザはメッセージ以外のサービスをLINEに求めているのだろうか?

LINE自身がこれまでさまざまなサービスを展開してきた「失敗」から学ばなければ、スーパーアプリ構想は未来のビジネスというより、絵に描いた餅で終わるだろう。

(文・上田はるか)


上田はるか:コンサルティングファームでインターネットビジネスの事業開発などに関わったあと、複数のメディア、プラットフォーム企業で広告事業拡大に従事する。

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