記者会見に登壇したZHDの川邊健太郎社長(写真左)とLINEの出澤剛社長。
撮影:三ツ村崇志
ヤフーを傘下にもつZホールディングス(ZHD)とメッセージングサービス大手のLINEは11月18日夕方、両社の経営統合に関する共同記者会見を、東京都内で開いた。
会見には、ZHDの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長が登壇。川邊社長がLINEの緑、出澤社長がヤフーの赤という、お互いのコーポレートカラーのネクタイを身に付けて登場した。
質疑のなかで今回の経営統合に関するソフトバンクグループ(SBG)孫正義会長の関与について問われて、川邊社長は「孫さんの関与は1回だけというのが真実」と明かした。
経営統合後の組織の構造。新生Zホールディングス傘下に100%子会社の兄弟会社としてヤフーとLINEがおさまる形。
川邊社長は「孫さん主導、SBG主導という報道が情報不足の中で走っているが、かなりの程度、両当事者で話して、SBKKの宮内社長、ネイバーの方々に話してすすめてきた話。孫さんはこれに関しては関与してこなかったというのが真実」だと説明した。
孫会長がヤフーの取締役であることから、9月に報告したという。川邊社長によると、意思決定に孫会長がかかわったのは、この1回だけだと断言した。
その際、孫会長からは「100%賛成である。日本のため、アジアのネットのため、スピーディーにこれをやるべき」と言葉をもらった、と話した。
3、4月頃から動き出した「統合の話」
記者会見のプレゼンテーション資料より。月間利用者数ではLINEがすでに上回るが、年齢層の違いなどから双方のシナジーは高いとする。
統合話のきっかけについて、出澤社長は次のように明かした。
「毎年、新年会をやっていた。双方忙しくて、3、4月頃に食事をさせていただいた。2社で大きいことができそうだよねとここのメンバーで初期的な感触を確認した上で、6月くらいに、両親会社に相談した。その時は経営統合ということまで念頭にあったわけではなかったが、広い範囲で検討しようとなった。夏の間に議論を重ねて、もちろん両親会社に相談しながらいろいろと進めてきた」(出澤社長)
一方、川邊社長は「ラグビーW杯になぞらえるが、『ONE TEAM(ワンチーム)』、最強のワンチームを目指していきたい」と今秋、日本全土を熱狂させたラグビー日本代表の標語になぞらえた。
「危機感」が日本の巨大テックカンパニーを動かした
両社でがっちりとした握手。グループ全体で2万人の経営統合ともなれば、苦しい決断が出てくることも考えられる。「子会社側から親会社に経営統合をエスカレーションした」ことが絆となるのかどうかは、この先のスムーズな事業運営ができるかを見ていればわかる。
質疑応答のなかでは、ヤフーとLINEという日本の巨大テックカンパニーが合意にいたった「理由を」問う質問が飛んだ。両社長は、その理由として「危機感」を挙げた。
「人材、研究開発費など全てにおいて、(グローバルカンパニーに)大きな差をつけられている。それが結果的に、国力、文化においても大きな影響をあたえると考えている」(出澤社長)
「労働人口減少、生産性、自然災害などに対して、もっといろんな形で役に立てるはずだ」(川邊社長)
さらに、出澤社長は「競合を含めた危機感がある。LINE一つであらゆることができるよう取り組んでいるが、時間とともにグローバルプレーヤーが出てくる。国内からも出てくる。今、手を打って、次に出ていかないといけない」と話した。
北米にはGoogle、Apple、Facebook、Amazonといった「GAFA」、中国にはアリババ、テンセントといったグローバルテックジャイアントの存在がある。
IT業界は、人が国をまたいでは働いていく業界であり、強い所に人材や技術などが集まっていくビジネス構造を持っている。
経営統合は2020年10月を目標に進めるロードマップが改めて明らかにされた。
LINEの出澤社長はその“恐ろしさ”と危機感について「不可逆といっていいか、強いものがどんどん強くなる構造があり、他の産業よりそういう流れが非常に大きい。(これが)一番のリスクだと思う。(大差がついたと)気づいたタイミングでは、もう何もできないというのが、このビジネスの非常におそろしいところだ」と口にする。
経営統合の実現に当たり、Zホールディングスの親会社であるソフトバンクと、LINEの親会社である韓国の検索大手・NAVERはLINE株の共同公開買付(TOB)を行い、LINEを非上場化することを明らかにした。
ソフトバンクによると、TOBに際する共同公開買い付け価格は、LINE普通株式1株あたり5200円を提案価格とする。
(文・滝川麻衣子、伊藤有、大塚淳史)