アメリカのトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相。
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- アメリカのポンペオ国務長官は11月18日(現地時間)、アメリカは長年にわたって維持してきた外交的見解を放棄し、イスラエルが占領しているヨルダン川西岸地区での入植活動を「国際法と矛盾する」とは見なさないと発表した。
- ポンペオ国務長官が示した見解は、これまでの政権の政策や、1978年のカーター政権下で国務省の出した法律上の見解から大きく逸脱するものだ。
- イスラエル人の入植活動は、外交問題のトピックの中でも最も激しい論争になっているものの1つだ。今回の動きは、イスラエルとパレスチナの間の和平および二国家解決への望みを砕きかねない。
- パレスチナの指導者らは今回の発表に反発する一方、イスラエルのネタニヤフ首相は感謝を示している。
トランプ政権は11月19日、中東の和平を事実上、実現不可能にしかねないイスラエルに関する政策の大幅な転換を発表した。
ポンペオ国務長官は、アメリカはイスラエルが占領しているヨルダン川西岸地区での入植活動を「国際法と矛盾する」とは見なさないと語った。
これは事実上、アメリカがもはや1978年のカーター政権下で国務省の出した、イスラエル人の入植活動を国際法違反とする法律上の見解を支持しないことを意味する。
ポンペオ国務長官は「民間の入植活動を国際法と矛盾すると言っても、和平の推進にはなっていない」とし、「厳しいが、紛争に司法的な解決はなく、国際法上、誰が正しくて誰が間違っているかの議論は平和をもたらさないというのが現実だ」と語った。
オバマ政権は2016年、イスラエルが占領地で進める入植活動の停止を求める国連安保理決議案に拒否権を行使せず、棄権した。入植活動は国際法の「甚だしい違反」としたこの決議案は、賛成14、反対0で採択された。
パレスチナ解放機構(PLO)のサエブ・エレカット(Saeb Erekat)氏は11月19日に声明文を出し、トランプ政権の発表を批判した。
「この発表によって、トランプ政権はまたもや国際システムを脅かしている。国際法を(弱肉強食という)"ジャングルの法則"で絶えず置き換えようとしている」
「ただ今より、国際社会はアメリカのこの無責任な行動に対応し、これを阻止するために必要な全ての手段を取らなければならない。世界の安定、安全、平和に脅威をもたらすものだ」
イスラエル人による入植活動は、今も続くイスラエル・パレスチナ間の紛争に関する話題の中でも、最も意見が分かれるトピックの1つだ。入植活動は長年にわたって国際社会から違法と見なされ、アメリカ政府が目標としてきた二国家解決の主なハードルの1つと考えられてきた。
地域の安定を犠牲にして、ネタニヤフに贈り物を続けるトランプ
今回の発表は、アメリカの長年にわたる対イスラエル政策からの大幅な転換を図るトランプ政権による決断の1つだ。トランプ大統領は2019年3月にも、イスラエルがシリアから奪って占領するゴラン高原について、イスラエルの主権を正式に認めていた。今回の決断は、パレスチナの国家樹立に向けた努力をさらに損なわせかねない。
より過激さを増すイスラエル寄りのスタンスを取り続けることで、トランプ政権はイスラエルとパレスチナ間の合意の可能性を低下させている。
AP通信が入手、分析した公的なデータによると、イスラエル政府のヨルダン川西岸地区での入植活動の費用はトランプ大統領就任以来、急激に増加している。そして、トランプ政権の今回の発表は、入植地の拡大に対する"青信号"と見なされ、地域の緊張を高め、さらなる暴力につながる可能性がある。
トランプ大統領と親しいネタニヤフ首相は数カ月前から、約40万人のイスラエル人入植者と280万人のパレスチナ人が暮らす、イスラエルが占領しているヨルダン川西岸地区の全てのイスラエル人入植地を併合すると約束してきた。
8月のスピーチの中で、ネタニヤフ首相は「神の助けによって、我々は全ての入植地にユダヤ人の主権を拡大する。(聖書に書かれている)イスラエルの地の一部、イスラエル国家の一部として」と述べた。
パレスチナ自治政府のアッバス議長のスポークスマンは当時、ネタニヤフ首相の発言は「受け入れられない既成事実を引き続き作り出そうとするもので、平和や安全、安定にはつながらない」と語った。
イスラエルのネタニヤフ首相は11月18日、トランプ政権の決断を称賛した。
その声明文の中でネタニヤフ首相は、アメリカが「歴史的な誤りを正す、重要な政策を採択した」とし、「歴史的な真実を反映するものだ」と述べている。
ネタニヤフ首相は「ユダヤ人は、ユダヤやサマリアに外からやってきた入植者ではない」と言い、「事実、我々がユダヤ人と呼ばれるのは、我々がユダヤの人間だからだ」と主張している。
その上で、ネタニヤフ首相は「イスラエルはトランプ大統領、ポンペオ国務長官、そしてアメリカ政府に対し、真実と正義を支持し、和平を望む全ての信頼できる国々に同様の姿勢を取るよう呼びかけるその揺るぎない姿勢に深く感謝している」と加えた。
(翻訳、編集:山口佳美)