Men Impossibleの外観。アムステルダムで最も人気のあるエリア、ヨルダン地区にある。
撮影:吉田和充
全ての資源が再生、再利用される仕組みを実現するというサーキュラーエコノミー。
日本語で言うと循環経済と言うのでしょうか?かつての日本は里山的な暮らし、木造住宅、食材の効果的な利用方法など、循環経済の理想のような暮らしを実現していました。
今やそんな循環経済の世界のトップランナーであるアムステルダムの名所になりつつあるのが、日本のラーメン店「Men Impossible」。といっても、日本人がイメージする純粋なラーメンとはちょっと違うかもしれません。
それは「ヴィーガンラーメン」だからです。
実際、まぜ麺やつけ麺といったスタイルで提供されるラーメンは、前菜とデザート、そしてワンドリンクがついた1コースのみ。開店わずか2年で、一体なぜこのラーメンがアムステルダムの名所になりつつあるのでしょうか。
そこには、ヨーロッパを通底する新しい経済の形「循環経済」が関係していました。
ヨーロッパではSDGsより気候変動
9月20日に世界中の都市で行われた気候変動についてのデモ。若い世代を中心に163カ国で約400万人が参加したと言われる(写真はスコットランド)。
Jeff J Mitchell/Getty Images
日本も今年過去最大級の台風に見舞われましたが、近年、自然災害は年を追うごとに激しさを増し、これは気候変動によるものとされています。
9月には世界の主要都市で若年層を中心とした気候変動問題にかかわるデモが繰り広げられ、この活動の発起人でもあるスウェーデンの高校生グレタ・トゥンべリさんの国連でのスピーチは皆さんも読まれたのではないでしょうか。
今、ヨーロッパの最大の関心事は気候変動、環境問題です。
日本でも最近SDGsというテーマがよく話題に上がります。SDGsとは国連の定めた17項目で、持続可能な地球環境のための開発目標です。日本ではあまり知られていないのですが、ヨーロッパではこのSDGsではなく、より環境問題、気候変動に重点を置いたパリ協定が話題にされる傾向にあります。
パリ協定自体がEU主導で作られたものであること、さらにSDGsのように目標対象が貧困や教育など広い範囲にわたったものではなく、「地球環境」「気候変動」に絞られているので取り組みやすい、あるいは最も喫緊の課題であるということなのかもしれません。
トレンドでなくシフト
スウェーデンの高校生、グレタ・トゥンベリさん。彼女はスピーチで政治や経済界のリーダーたちの責任を糾弾した。
Spencer Platt/Getty Images
ヨーロッパの都市にはパリ協定をベースにして、各都市オリジナルで目標設定や条例を定めているところも多く、アムステルダムもその一つです。アムステルダム市の条例では、各項目でパリ協定を大幅に前倒しする数値目標が設定されています。
例えば、すでに市内中心部にはガソリン自動車の侵入が禁止されているゾーンが設定されていたり(ゼロエミッションゾーン)、電気自動車の購入時には大幅な税制優遇が受けられたり(現在はその優遇制度は適度なものに変更された)、「省エネ住宅」が推奨されて多少の補助金が出たりなど、さまざまな面で、この条例を遵守するための対策が取られています。
多くの既存産業もサーキュラーエコノミーに対応するための施策を推進し、この動きはもはやトレンドではなく、完全なるシフト、と認識されています。
一方で、アムステルダムでは近年スタートアップが盛り上がっていますが、その多くがサーキュラーエコノミーを推進する当事者となっており、政官学を巻き込むスタートアップエコシステムが充実しています。
結果、アムステルダムは今では循環型経済を標榜する先鋭的な都市になっています。
なぜヴィーガンラーメンか?
アムステルダムで流行っているヴィーガンラーメン。野菜がたくさん盛り付けられている。
撮影:吉田和充
それでは一体なぜ、この文脈でヴィーガンラーメンが流行っているでのしょうか?
実はアムステルダム市では行政などの行事で提供する食事は、すでにヴィーガンに統一されています。畜産産業、いわゆる「肉」の生産過程での二酸化炭素の排出量の多さが指摘されており、地球環境のために「肉食をやめる」動きが広がっています。若者世代を中心にベジタリアンやヴィーガンになる、肉食の回数を減らすという人も増えています。
そもそも日本食はヘルシーでおいしいというイメージも先行しています。近年、ヨーロッパでは日本食が大ブームで、ラーメンでさえ日本食でヘルシーという優良誤認があるのです。
そのラーメンがヴィーガンとなると、今まではヘルシーとはいえ「豚骨」でしょ?とか、魚介系スープでしょう?ということで諦めていたヴィーガンやヘルシー志向の人が殺到しているのです。
テスラのヨーロッパ拠点もオランダ。自国に自動車メーカーがない、ということもあり政府が積極的に誘致した。
撮影:吉田和充
Men Impossibleのラーメンはチャーシューはおろか、かつおだしなども一切使っていません。にもかかわらず、ヴィーガンを感じさせないほどのパンチの効いた味で、かなりおいしいです。全てオーガニック、地産地消(物流にも負荷をかけない)にもこだわっています。
アムステルダムに来た際にはぜひ訪れることをオススメしますが、今はアムステルダムの地元の人たち以上に、外国人観光客にも大人気(海外展開もすでに決まっているとか)。
つまりサーキュラーエコノミーに特化したサービスや商品、事業活動は儲かるのです。だから、アムステルダムは市をあげて一生懸命、そちらにシフトしているのです。
世界一合理的で、得することが大好きと言われているオランダですよ。このしたたかさ、日本も見習いませんか?だって、我々日本人は、もともとサステイナブルな暮らしをしていたんですから。我々の足元には循環経済的な視点で見ると宝が埋もれているはずです。
吉田和充:ニューロマジックアムステルダムCo-funder&CEO/Creative Director 。1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、オランダに拠点を移す。現在日本企業やオランダ企業のクリエイティブディレクションなどなどを行う。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。