今回の調査で1位になった岡山県西粟倉村。
提供:ETIC.
地方の自治体にとって、人口減少による過疎化は深刻な問題だ。地方創生では、たった一度だけ訪れるような観光客ではなく、何度も訪れる、地域内にルーツがあるなど地域と深いつながりを持った人=「関係人口」を増やすことが課題とされている。
名刺アプリを提供するSansanでは、名刺交換のデータを使って、どの自治体で関係人口が多いかを初めて計算した。トップ10に入ったのはどんな街なのか?
関係人口が地方創生のカギ
出典:総務省「『関係人口』ポータルサイト」
総務省によると、関係人口とは、移住した人を含む「定住人口」と、観光でその土地を訪れた「交流人口」の中間の層で、地域と多様に関わる人としている。具体的には、過去にその土地に勤務した人や、その地域にルーツがある人、ルーツがなくてもその土地と行き来している人などを指す。
同省の担当者によると、地域の担い手になる可能性がある層だが、明確には定義がないため、定量的な把握はしていないのが現状という。
名刺の住所を合計して計算
Sansanは、名刺交換のデータから「ビジネスにおける関係人口」を計算する試みを始めた。
名刺の特性として、ただその地域を訪問する場合ではなく、ビジネスの目的で交換されることが多いため、ビジネスにおける関係人口の把握に役立つという。
今回の調査では、2018年に登録された名刺データを活用。自分の住む地域とは違う地域の人と名刺交換した場合に、名刺に記載された市区町村名を集計した。地域間で比較するため、名刺の交換数をその地域の従業者数で割って算出したという。
調査は同社のデータ統括部門が実施。データでは個人を匿名化し、Eightの利用規約で承諾を得ている範囲で使用した。調査の監修はETIC.が行った。
1位は「起業家の村」
出典:DSOC Data Science Report
出典:DSOC Data Science Report
調査の結果、ビジネスにおける関係人口が最も多かったのは、岡山県の西粟倉村。林業を主産業としながら、多くのベンチャー企業が誕生している村だという。「起業家の村」として知られており、全国各地から視察に訪れるという。
第2位は、徳島県の上勝町。里山で収穫した植物を料理に使用するビジネスで注目されているという。第3位の東村(沖縄県)は、修学旅行客をターゲットにしたエコツーリズムを推進している。
調査を行った、Sansanの前嶋直樹研究員は次のように分析した。
「ローカルビジネスが成功している地域が上位に入った。もともと工業団地だったり、観光地だったりする自治体もあるが、企業誘致や起業など、地域の自主的な取り組みが関係人口を生み出していることを、数値で示せたのは成果だった」
活性化策の検証につながる
調査をした前嶋さんは「2015年のデータを見ると上位の自治体はあまり変化していなかった。継続的に関係人口を保っていることが分かった」と話す。
撮影:横山耕太郎
今回の関係人口の算出には課題もある。Sansanによると、Eightサービスを利用していない人が交換した名刺のデータを反映できないため、サービスの利用状況によってデータに偏りが生まれるという。
「情報の感度が高い地域ではEightのサービスの利用率が高い。名刺が取り込まれやすい地域と、そうでない地域がある」(前嶋さん)
ただ、これまで数値化されてこなかった関係人口が、ビジネスの側面から数値化されたことは大きな成果と言える。
「関係人口が多い自治体の特徴を継続的に分析することで、地域のどんな取り組みが役立つかの検証につながる。名刺のデータを公共のためのテクノロジーに生かしていきたい」(前嶋さん)
(文・横山耕太郎)