2011年7月14日、エグリン米空軍基地(フロリダ州)に初着陸した次世代ステルス戦闘機F35A。
Samuel King Jr./US Air Force
米国防総省は、次世代ステルス戦闘機F35の運用試験が難航していることを明らかにした。同省は少なくとも340億ドル(約3兆7000億円)を投じて、478機のF35を購入する見込みと報じられている。
国防総省運用試験・評価局のロバート・ベラー局長は、11月13日の下院小委員会で「F35部隊の運用持続性は事前の見通しを下回っている」と証言。
「F35のいかなるバージョン(※)も信頼性ないし保全性の指標を満たしていない」と指摘した上で、「端的に言って、どのバージョンも計画以上にひんぱんに故障し、なかなか改善も見られない」と説明した。
※編集部注……F35には通常離着陸のF35A、短距離離陸・垂直離着陸のF35B、艦載機のF35Cといったバージョン開発が並行して進められている。
ブルームバーグによると、納入元のロッキード・マーチンはベラー局長によるプログラム評価の一部に異議を唱えているという。
しかし、米政府監査院(GAO)はベラー局長の評価を支持。GAOが同13日にリリースしたレポートは、F35プログラムが信頼性と保全性に関する8つの指標のうち、4つを満たしていないとしている。
米政府監査院(GAO)が11月13日の小委員会向けに提出した、F35プログラムに関するレポート。
出典:United States Government Accountability Office
2018年5月から11月に行われた運用試験では、完全ミッション遂行可能率は約27%、最低限必要とされる60%を大きく下回った。また、ミッション遂行可能率はいくらか高く52%だったが、それでも必要とされる75%には達せず、マティス前国防長官の求めていた80%には到底およばなかった(GAOが2019年4月25日に発表したレポートより)。
「完全ミッション遂行可能」とは、文字通りすべてのミッションを達成することで、一方の「ミッション遂行可能」は少なくとも1つのミッションを達成することを意味する。
要するに、2018年の運用試験では、任務を完全にこなしたのが3分の1で、残る3分の2は一部の任務しか果たせなかったわけだ。
しかし、下院小委員会での報告によれば、配備済みのF35のミッション遂行可能率はこの運用試験の数字よりずっと優秀で、多くの場合、必要条件を上回っている。
米政府監査院(GAO)の高官が次々厳しい指摘
2019年2月1日、エグリン空軍基地上空を飛行中の空母艦載型「F35C」。
U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Shannon Renfroe
政府監査院のダイアナ・マウラー防衛力マネジメント局長は、Business Insiderの取材にこう語った。
「確かに改善はあった。しかし、それでも必要とされるパフォーマンスとはかけ離れている」
F35プログラムを率いるエグゼクティブ・オフィサーのエリック・フィック空軍中将は、プログラムの不調を部品不足によるものとしている。同氏は下院小委員会で次のように証言した。
「部品がなければ、航空部隊は運用できない。F35の戦闘力を向上させる能力がいま著しく損なわれている」
国防総省は2016年に部品供給インフラの整備を終える予定だったが、2024年まで後ろ倒しになる見込みという。
マウラー局長によると、必要な部品はロッキードが提供することになっていて、F35の購入を管理する「ジョイント・プログラム・オフィス(JPO)」と同社の契約内容によれば、飛行できないのは「少なくとも2割」のはずだった。しかし実際には、部品不足のために「少なくとも3割」が飛行不可の状態にある。
部品供給などを円滑化する情報システムの問題
2019年2月1日、エグリン空軍基地上空を飛行中の空母艦載型「F35C」3機。
U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Shannon E. Renfroe
やっかいな問題がもう1つある。F35の運用や保守管理を円滑化する自律兵站情報システム「ALIS(アリス)」が仕様どおりに(あるいはロッキードの宣伝どおりに)機能していないことだ。
Business Insiderの取材に対し、政府監査院の高官は「ALISはF35の維持管理を妨げる決定的な欠陥になっている」と語った。
前出のマウラー局長はこう説明する。
「最も根本的な問題は、あまりに多くの時間をかけすぎたことだ。さらに広く見れば、JPOと国防総省が保守管理の問題に十分な注意を払ってこなかったことが失敗だった。F35プログラムは20年も続いているのに、その大半の期間において、保守管理の問題は後回しにされてきた」
「それでも、ここ1、2年は良い方向に変わってきた。明るい話題と言っていいだろう。しかしそのおかげで、大きな穴があることもわかった。巻き返しのために、やらなければならないことがたくさんある」
政府監査院の契約・国家安全保障調達チームディレクター、ジョン・ルートヴィヒソンはさらに、F35問題の多くは通常とは異なる開発手順に起因すると指摘する。
「ライフサイクル(機種の開発・導入から退役まで)の初期は、比較的少数の機体を製造して不具合などを解消していくのが通常の手順だ。ところが、国防総省はそうしたやり方を無視して、改善を含めた開発工程が終わる前から大量に製造することを決めた。それが予期せぬ数々の難題を生み出している。兵器調達の観点から見て、これは避けられた問題だと(政府監査院としては)考えている」
保守管理コストは1兆ドル以上
2018年7月27日、英ノーフォーク空軍基地でF35に試乗するチャールズ皇太子。イギリスはF35開発パートナー国として138機の導入を決めている。
REUTERS/Chris Radburn
F35はアメリカ史上最も高価な兵器導入プログラムであり、ライフサイクルコストは4060億ドル(約44兆円)、保守管理コストは最大1兆ドル(約108兆円)と見込まれている。
コストはさらに膨れ上がるのではないかとの見方もあるなか、ペンタゴンがロッキードと「340億ドル、478機」の大型契約に最終合意したことを発表した直後、F35の運用試験が苦境にあることが報じられた構図だ。
F35プログラムは2020年前半にもフル生産体制に移行する予定で、部隊の規模は今回のロッキードとの合意の3倍に膨れ上がるとみられている。そして何より、保守管理の難題にどう立ち向かうのか、ペンタゴンが抱える問題はきわめて深刻だ。
[原文:DoD is spending $34 billion on hundreds more F-35s even though it can't handle its current fleet]
(翻訳・編集:川村力)