GOのビジネスプロデューサーの五十嵐麻衣さん(左)と朝日新聞社メディアビジネス担当補佐の高橋万見子さん。異色のコラボに挑む背景を語ってもらった。
撮影:岡田清孝
2019年秋、SNSを大いにバズらせた異色のコラボが、メディア業界の話題をさらった。ジャーナリズム界の老舗・朝日新聞と、ネットメディアで生まれ『少年ジャンプ+』連載を果たしたサブカル界のスター的漫画『左ききのエレン』が手を組んだ「新聞の広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン」(特設サイト)だ。
プロデュースを手がけたThe Breakthrough CompanyGOと朝日新聞社がタッグを組む第二弾が、社会課題解決型の新聞広告を企業向けに作る新たなサービス「ブランドニュース」。
GO内外の新進気鋭のクリエイターと、朝日新聞の論説委員経験者らによるチームが、これからの時代の新聞広告を企業と共に作り出すサービスだ。広告を通した社会課題解決のアプローチを目指し、収益の一部はNPO、NGOに寄付される。
モノがあふれ、情報のスピードが加速する時代に、広告の役割も大きく変わりつつある。ブランドニュースは何に挑もうとしているのか。立役者たちに聞いた。
「このままでは新聞はいらないモノになる」
Twitter上で話題を巻き起こし、印象的な新聞広告を打ち出した「左ききのエレン」と朝日新聞を掛け合わせたプロジェクト。
提供:The Breakthrough CompanyGO
「紙の新聞が各家庭にあるのが常識という時代は、終わりました。世の中の大きな変化に、新聞が追いつけていない。このままでは新聞はいらないモノになるという、危機感はあります」
朝日新聞社メディアディレクターの高橋万見子さんは、金融や社会保障担当の経済記者、月刊誌記者、論説委員、直近は盛岡総局長などを務めたベテランだ。その高橋さんが入社してからの30年間で、新聞を取り巻く環境は、大きく変わった。
日本新聞協会によると、2009年に約5035万部だった新聞の発行部数は、2018年には3990万部と10年間で1000万部以上を減らしている。
紙の新聞の総発行部数は、10年間で実に1000万部も減っている。
shutterstock/Raihana Asral
「インターネットの時代には読者と双方向のコミュニケーションなしには生き残れない」と、危機感を語る高橋さん。
撮影:岡田清孝
「新聞はもともと一方通行のメディアで、新聞社側が必要と思う取材や思いがあってそれを読者に『伝えたい』が強かった。それが、インターネットの時代には読者と双方向のコミュニケーションなしには生き残れなくなっています。記事だけでなく新聞広告も、読者との対話を意識しないと」
高橋さんがそれを痛感したのが、GOと手がけた「新聞の広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン」(10月20日)だ。
新聞広告30段を使った、フィクション漫画(「左ききのエレン」)の中で描かれる広告のコンペティションを、実際にTwitter投票で勝負をつける。それがさらに新聞広告になるという、紙とウェブを連動させた企画はTwitterで1000万インプレッションと反響を呼ぶ。
電通時代にあえて新聞広告を希望した理由
10月20日に登場した新聞広告「新聞の広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン」。 30段広告でコンペの様子が描かれた。
撮影:岡田清孝
「新聞広告にはシズル感(みずみずしい手触り感)がすごくある。白黒の紙質は左ききのエレンとの相性もよかった。ネットメディアだとよくある試みになってしまいますが、ナショナルクライアントが登場するような固い新聞広告でやったことが刺さり、たくさんの人に見てもらえました」
GOのビジネスプロデューサーの五十嵐麻衣さんは「左ききのエレン」プロジェクトを振り返る。
「新聞だけで跳ねさせるのは難しいですが、どうやってデジタルと絡めるかを緻密に設計することが大事だなと」
五十嵐さんは、新卒で入社した電通時代の3年間も、あえて希望して新聞広告を担当してきたという。
「新聞広告が売れないと言われているからこそ、若くても任せてもらえるチャンスがあると考えました」
2019年4月のGOへの転職後も、電通時代から通い慣れていた朝日新聞とのプロジェクトを、五十嵐さんがつないでいる。
ただモノを売っても売れない時代の広告とは
「新聞広告は企業の姿勢や思想を訴えるのに適している」と言う。
撮影:岡田清孝
チョコレートのゴディバが訴えるフードロス、プロクター&ギャンブル(P&G)の黒髪就活への投げかけ、18歳以下のCFOを募集するユーグレナ……。
昨今、話題になった広告には共通点があると、高橋さんと五十嵐さんはそれぞれ口にする。それは、単にモノを売ると言うより、地球環境や社会問題に対する「企業の姿勢や思想を訴える広告」だ。
「例えば車にしても、かっこいいでしょだけではもう売れないと思っていて。環境問題に配慮した車を作っていますとか、こういう人がこんな思いで作っていますを伝えることで、購買が変動する」(五十嵐さん)
こうした時代の変化に「変わろうとしていない企業はない。それを見せるのに新聞広告は適していて、そこにSNSやPRを掛け合わせることが大事と考えています」(五十嵐さん)。
バズった後にじわじわ何かが残って行くメディア
ブランドニュース参画のクリエイターたちがこれまでに手がけた広告。左から、ケンドリックラマーの黒塗り広告/プランジャパン「13歳で結婚。14歳で離婚。恋は、まだ知らない。」/森専門学校「この国に、いちばん必要な仕事が、いちばん足りていない」/奈良新聞「日本人初の女性総理は、きっともう、この世にいる」。そして手前が「新聞の広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン」。
撮影:岡田清孝
11月22日、朝日新聞とGOが連携する「ブランドニュース」は、まさにこうした「姿勢や思想を伝える広告」を企業に提案するサービス。ポイントは「ジャーナリスト×広告クリエイター」という異例のチームの座組みだ。SDGs(国連が採択した持続可能な開発目標)に関する取材に早くから力を入れてきた朝日新聞のジャーナリズムの観点と、社会課題への姿勢を表す広告を得意とするクリエイターの表現を結集させる。
提供:The Breakthrough CompanyGO
- 広告主である企業が、9人のクリエイター・ジャーナリストでつくる枠組み「ブランドニュース」へ発注
- SDGsはじめ、その企業が向き合う社会問題の切り口を検証する
- 向き合う社会問題のメッセージを元に、クリエイティブチームが新聞広告、PR手法、SNS発信を提案
- 収益の一部を、関係する社会課題解決に着手している団体や活動に寄付する。
高橋さんは言う。
「モノを売ろうとしても、みんなもうそれほど欲しくない。でも、作っている会社のポリシーや、モノを取り巻いている地球環境だったり社会問題だったりとリンクさせると、そのモノなりサービスが、別の価値を持って輝いてくる。そこはある意味、全てのものがジャーナリスティックに表現できるのではと思います」
「バズらせて話題になる、拡散する力はネットメディアやSNSが強い」と認めつつも、高橋さんの考える新聞広告の役割があるとすればこうだ。
「バズらせただけで終わらずに、そこから何かが残って行くことが大事だと思っています。誰もが急いで生きている時代に、紙に落とし込むと何か翌日にまで、引っかかるような。すぐには効いてこなくても漢方薬みたいにジワジワくる役割が(新聞広告に)あるのではと」
(文・滝川麻衣子、写真・岡田清孝)