米中代理戦争と化した香港デモ。アメリカの「香港人権法」は諸刃の刃になるか

炎の中に立つデモ参加者。

学生たちが立てこもった香港理工大学。警察が踏み込み、多数の逮捕者を出した。11月22日時点でまだ数十人が学内にいる(2019年11月18日撮影)。

REUTERS/Athit Perawongmetha

香港のデモ隊と警察の衝突が続く中、アメリカの上下両院議会は、香港で人権と自治が守られているかどうかの検証を政府に求める「香港人権・民主主義法案」を可決し、トランプ大統領も署名の意向と伝えられている。中国は報復に出る構えで、香港問題は「米中代理戦争」の様相を濃くしている。

アメリカは、関税やビザ発給などで香港を中国大陸より優遇している。人権法案は「一国二制度」の履行状況を踏まえて、優遇措置を続けるかどうかを毎年検討するよう国務省に求める内容。上院は11月19日に全会一致で可決、10月にいったん可決した下院も20日、法案内容を修正し改めて可決した。

大統領は法案への拒否権を発動できるが、上下両院で3分の2以上の議員が賛成すれば拒否権を覆せる。上院は全会一致、下院も417対1の圧倒的多数で可決しており覆すのは困難なため、トランプ大統領は10日以内に署名する可能性が出てきた。

米中貿易協議の合意は先送り

習近平国家主席

アメリカの「香港人権法」の可決に、中国は激しく反発している。

REUTERS/POOL New

中国外務省の馬朝旭次官は米上院がこの法案を可決した直後、駐北京アメリカ代理大使を呼び「強烈な抗議」を伝え、法案成立を止めなければ報復措置を取り、「一切の結果はアメリカが負う」と警告。香港政府も「香港とアメリカ双方の利益を損なう」と反発した。

双方の駆け引きが激化する中、ロイター通信は、米中貿易協議の「第1段階」合意が、2020年に先送りされる可能性と報じた。制裁関税の扱いを中心に溝が埋まらないためで、香港情勢の緊迫化は、貿易協議の行方を複雑化している。

中国政府が人権法に強く反発するのは、アメリカの介入を「カラー革命による中国内政への干渉」と非難する政治的判断からだけではない。中国にとって、香港は依然として「金のタマゴ」を産む国際金融センターだからである。

カラー革命とは:2000年ごろから中・東欧や中央アジアなど旧共産圏諸国で起きた政権交代を総体的に指す。CIAを中心にアメリカが主導したと言われている。

中国では資本取引が全面的には自由化されていないため、中国の対内・対外直接投資の6〜7割は香港経由だ。さらに2008年から2019年7月まで、中国企業が株式新規上場で資金調達した金額は、中国市場の3148億ドルに対し、香港市場は1538億ドルと半分近くを占める。中国企業が2018年海外市場で行ったドル建て起債1659億ドルのうち、33%は香港の債券市場が占めている。

一方、アメリカの香港投資も2018年に約825憶ドル(約8兆9000億円)と少なくない。香港には約1400の米企業が進出、香港居住のアメリカ人は8万人と、約2万人の日本をはるかに超える。

貿易戦での対中高関税によって、不利益を受けたのは中国だけではなくアメリカの企業だったように、香港への優遇措置を見直して不利益を受けるのはアメリカ企業も同様。その意味では「両刃の剣」だ。

「一国二制度」めぐる攻防

現香港行政長官を担う林鄭月娥氏。

香港行政長官を担う林鄭月娥氏。11月24日に予定される区議会選挙が実施されるかどうかは予断を許さない。

REUTERS/Tyrone Siu

中国は人権法に対して、どんな「報復措置」に出るだろうか。香港では抗議活動への締め付けを強め、中国の主権(「一国」)を内外に示そうとするだろう。香港高等法院が11月19日、「覆面禁止規則」を香港基本法違反とした判決を出したことに対しても、中国政府は猛反発した。

基本法158条が「全人代常務委が基本法の解釈権を持つ」と定めているのを根拠に、「香港の法律が基本法に適合しているかは全人代(国会)常務委だけが判断し決定できる」と主張。全人代が解釈権を行使した例は、これまでも5回あった。

今後も事あるごとに、全人代常務委が前面に出て関与の姿勢を強めるはずだ。「港人治港」という香港自治(「二制度」)への不信が高まれば、香港の金融機能にもマイナスの影響が出て、減速している中国経済が一層不安定化する恐れがある。

ただ「人権法」発動で、香港への関税優遇措置が取り消されても、中国にとって「金のタマゴ」の利用価値が全てなくなるわけではない。引き締めによって「二制度」が窒息死すれば、元も子もない。さじ加減が難しい。

武力介入はない

香港理工大学から撤退しようとするデモ参加者を拘束する警察

香港理工大学から撤退しようとするデモ参加者を拘束する警察。警察の暴力によって、市民の間ではますます警察への反発が強まっている(2019年11月18日撮影)。

REUTERS/Tyrone Siu

半年近くに及ぶ抗議活動は、九龍の繁華街にある「香港理工大学」での攻防で頂点を迎え、多くの学生の逮捕者を出した。次は11月24日に実施予定の区議会選挙に、帰趨がかかってきた。

抗議活動の先頭にいる「勇武派」(武闘派)の戦術は、警官の発砲など過剰警備への反発も手伝い、過激化の一途をたどる。

市街戦同様の衝突の陰で、デモに反対する市民に対する「私了」(リンチ)も横行し、ニューヨーク・タイムズやBBCなど、欧米主要メディアの論調も、勇武派批判へと変化している。民主化運動の一線を越えた今、「民主か独裁か」という二分法は通用しなくなった。

抗議活動は次第に『攬炒(やけくそ、死なばもろとも)』となり、勇武派の狙いは国際金融センターとしての香港の地位の破壊、それに親中派既得層や中国政府への打撃だ。アメリカをはじめ国際的な支持を巻き込み、景気減速が目立つ中国経済に打撃を与えれば成功。中国政府の武力介入も「歓迎」だ。世界中の非難が中国政府に集中するから。

香港理工大に若者が籠城した11月16日、中国人民解放軍の香港駐留部隊の兵士が、Tシャツ、短パン姿で市街に現れ、障害物の除去作業を行った。人権法をめぐるアメリカとの対立がエスカレートした今、こうした威嚇行動も増えるだろうが、武力介入はしない。それは「米中代理戦争」化する中、「敵の術数」にはまる結果をもたらすからである。

民主化と独立の間で分断

勇武派が「民主化」の一線を越えた今、香港政府は区議会選挙を予定通り実施したいはずだ。「民主の守護者」のイメージにも役立つからである。ただ理工大をめぐる攻防に最終決着がつかず、交通手段が確保されない事態が続けば、それを理由に延期する可能性も残る。

「祭り」はいずれ終わる。「一国二制度」下で民主化を求める市民と、独立を求める「勇武派」との分断も広がるだろう。抗議活動はいったん収まっても再発含みだ。戦術が一層過激化し、爆弾テロも起きるかもしれない。ちょうど、イギリスからの独立を目指した北アイルランド共和国軍(IRA)のように。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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