グーグルが日本の家庭へ浸透めざす「アンビエント・コンピューティング」は成功するか

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グーグルの「大画面搭載スマートスピーカー」といえるスマートホーム製品「Google Nest Hub Max」(2万8050円)。11月22日から国内販売を開始した。液晶サイズは10インチ。

撮影:小林優多郎

グーグルは日本で11月22日より、スマートホーム製品「Google Nest Mini」「Nest Hub Max」の出荷を開始する。

グーグルは音声アシスタント「グーグルアシスタント」を持っており、スマートスピーカーの市場をAmazonと分け合う存在。そのグーグルは、現在の市場、特に日本でのスマートホームの状況をどう考えているのだろうか?

グーグルのバイスプレジデントでNest事業を統括するジェネラルマネージャーのリシ・チャンドラ氏を直撃した。

日本のスマスピ普及率は8%程度、アメリカとは使い方が違う

リシ・チャンドラ氏

グーグルのバイスプレジデントでNest事業を統括するジェネラルマネージャーのリシ・チャンドラ氏。

撮影:西田宗千佳

現状のスマートスピーカーの日本での普及状況をどう感じているのか? グーグルはどのくらいの数を出しているのか?

「ナイストライですが、数は教えられないです」

チャンドラ氏は笑いながら、日本の状況について次のように説明した。

「スマートスピーカーは、アメリカの家庭への普及率は30%を超えています。しかし、日本では7~8%というところでしょう。まだまだ少ない」

ではなぜ少ないのか? 「そもそも日本とアメリカでは、使われる機能も、使われ方も大きく違う」とチャンドラ氏は指摘する。

「アメリカやインドでは、スマートスピーカーはストリーミング・ミュージック再生に広く使われています。しかし、日本はそうではない。アラームやタイマーの設定などに使われることが多いです。ストリーミング・ミュージックの利用は進み始めたところでしょう。

アメリカでは、Wi-Fiに接続するホームネットワーク機器が増えていますが、日本の場合は、まだまだ赤外線リモコンを使った連携機器が多いですね。

写真に関するニーズがきわめて大きいのも日本の特徴です。Nest Hubに写真を表示し、そこからフォトブックを作るサービスも人気です」

特にアメリカでは、セキュリティーに関わる機器が注目されている。自宅にいない間、玄関の様子をチェックして警告を鳴らしてくれるセキュリティーカメラなどが人気だ。日本の場合、こうした製品はそこまで注目されていない。

しかしそれは「カメラのニーズがない、という話ではない」とチャンドラ氏は言う。

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プライバシーへの配慮として、カメラとマイクを一時的にオフにするスライドスイッチも搭載(製品上部の小さなスイッチがそれ)。利便性とプライバシーは、今後社会的な共通理解も必要になってくるだろう。

撮影:小林優多郎

「(カメラの)ニーズは日本にもあります。ただ、使われ方が大きく違う。アメリカではセキュリティー用途ですが、日本では“モニタリング”です。ペットや子ども、両親などの様子を確認したい、というニーズはあります。当然、(スマートホーム製品も)そのために最適化する必要があります」

スマートホームはどの国にもニーズがあり、今後大きな可能性を秘めている。一方で、ニーズはどの国にでも存在するが、「解決しなければいけない家の中の問題」は国によって異なる。

そこに合わせて、どうサービスやソフトウエアの最適化を進めていくかが問題なのだ。

「アメリカでグーグルは、『Nest』ブランドで、カメラからスマートロックまでさまざまな製品を用意しています。よりグローバルな開発を進めつつ、各国のニーズに対応できるようにしていきます。日本ではすでに『Nest Mini』などを購入できるようになっていますが、来年はより多くのラインナップが日本でも購入できるようになりますよ」

「アンビエント・コンピューティング」とは何か

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10月に開かれたグーグルハードウェア製品の発表イベントにて撮影。リビングなどに置いて、日常のライフスタイルの中で「語りかけて使う」製品として設計されている。

撮影:小林優多郎

現在グーグルは、スマートスピーカーを中心としたスマートホームに関する製品を「Nest」ブランドに再編している。

従来は、サーモスタット(アメリカで一般的な、冬場の室温調整に使う設備)やカメラは「Nest」、スマートスピーカーは「Google Home」とブランドが分かれていた。

2018年からは、チャンドラ氏の指揮のもと、ビジネスの再構築が進んでいる。

「双方で成功してはいたのですが、これからコンピューティングの世界に起きる変化を踏まえ、統合してリセットする必要があると考えたのです」

その変化とは「アンビエント・コンピューティング」への移行だ。アンビエント・コンピューティングとはなにか? チャンドラ氏は次のように説明する。

「アンビエント・コンピューティングとは、PC・スマートフォンに続く新しい形です。ハードウェアに統合されたコンピューティングから、分散型のコンピューティングへの移行といってもいいでしょう。

従来の、そして現在のコンピューティングは、時間の経過とともに機器が進化しました。(手に持ったスマホを指して)これの性能が上がっていくことがコンピューティングの進化、つまり、1つのデバイスに搭載されるコンピュータとセンサーの進化が重要でした」

チャンドラ氏は続ける。

「しかしアンビエント・コンピューティングでは変わります。家に取り付けた多数のカメラやセンサー、家電製品が連動し、相互に働きます。“1人が使う1つのデバイス”ではなく、家族4人が同時にデバイスにアクセスするようになります。

そうなると、重要なのはCPUやGPUが進化することではなくなります。

いかに“行動からコンテキストを知るか”ということが重要です。

あなたの行動がどういういう意味を持っているのか、家族にとってどういう意味を持つかを理解し、あなたたちの行動を助けてくれなければいけません。当然そのためには、非常に強力なAIの助けが必要です」

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こちらはWi-Fiルーター製品「Nest WiFi」(1万8150円)。電波の範囲を広げる「拡張ポイント」(右)はスマートスピーカーとしての機能も持っている。近日発売予定。

撮影:小林優多郎

グーグルは、家庭の中にコンピューターが入っていく新しいモデル、つまり手元のコンピューターに自分がやりたいことを助けてもらう形から「自分が暮らす環境の中に分散したコンピューター」に助けてもらうようになる将来像を描いている。1人1台ではない、とチャンドラ氏が言うのは、そういう意味だ。

国によってスマートスピーカーなどの使い方が違うのは、「生活によって求められるコンテキストが違う」と思えばわかりやすい。

グーグルが関連製品群を「Nest」ブランドに統一したのも、アンビエント・コンピューティング向け機器だという一貫性を強める狙いがある。

「重要なことは、“人々はスマートホームを求めているわけではない”ということです。“スマートホームを求めている”と考えるのは、あまりにテクノロジー指向的です。

人々が求めているのはあくまで“生活の中での課題の解決”です。安全で快適な生活をしたい、というニーズは、アメリカであろうがインドであろうが日本であろうが変わりません」

実現のためには課題もある。特に日本語の場合、認識精度にも問題がある。プライバシー保護の面でも、お互いが納得できる社会的理解の構築が必要だ。

「プライバシーについては、選択肢を用意することが重要です。例えば『Nest Hub』には、カメラを搭載したモデルとそうでないモデルがあります。

プライバシー面でセンシティブな人は、カメラのないモデルを選ぶでしょう。

どういう形をユーザーが選びたいと考えるのか、ちゃんと幅を持たせた選択ができることが必要です。

機能や精度は日々進化していきます。使っていただいた情報から学んでいくからです。日本でのAIの機能をよりよいものにするためにも、“使いたい”と思っていただけるものを作らなくては」

(文・西田宗千佳)

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