卒業生の平均収入が高い大学ナンバーワンにランキングされたオールバニ薬科健康科学大学のキャンパス。
Facebook/Albany College of Pharmacy & Health Sciences
- オールバニ薬科健康科学大学の卒業生は、他の全米4500校以上の大学の卒業生に比べ、40年後の平均収入が高いことが明らかになった。ジョージタウン大学が行った調査研究の成果だ。
- 調査報告書をまとめたジョージタウン大学の研究者とオールバニ薬科・健康科学大学の学長に話を聞いた。
コストが将来的に得られる収入に見合うなら、大学には行く価値があると言える。
そう語るのは、ジョージタウン大学の研究員で、最近公開された公共政策に関する論文「First Try at ROI(費用対効果を考える最初の試み)」をまとめたマーティン・ヴァン・デル・ワーフだ。彼は同僚たちと一緒に、全米4500校以上の大学を調査し、どの大学を卒業すると将来最も高い平均給与を受け取れるのかを明らかにした。
第1位にランキングしたのは、調査にあたった研究者らが予想もしなかったオールバニ薬科健康科学大学(ACPHS)。ハーバード大学やイエール大学、プリンストン大学のような世界的名門校を上回った。
学費は年間400万円、でも卒業後すぐ年収1000万円に
テクノロジーや科学の発展によって、薬学の研究者や薬剤師の活躍の場はますます増えていく。
Shutterstock.com
ACPHSは、薬剤師を養成する大学として1881年に創設された。最近では、公衆衛生や薬学、生物医学に関するテクノロジーなどのコースも提供している。
ニューヨーク州の州都オールバニと、バーモント州のコルチェスターにキャンパスがあり、1クラスは約200名。直近の2019〜20年、薬学の教養課程と理学士の学位を取得するプログラム(4年)の学費は年間3万6120ドル(約390万円)。
薬剤師は、卒業後すぐに年間10万ドル(約1080万円)以上稼げることに加え、世間的にも誠実で高い倫理観をもった人物と見なされ、尊敬もされる。薬剤師の需要は高く、他の医療関係の仕事を選ぶ場合でも学位が有利に働く。他の仕事ではなかなか感じられない費用対効果をすぐに得られるのが薬学の学位だ。
薬剤師はカウンターの向こうだけが仕事場ではない。
Shutterstock.com
融通がきくのも、薬学の学位の良い面。ACPHSの学長を務めるグレッグ・デューウィー博士は、Business Insiderの取材に対し、薬剤師が一般に想像されている以上に大きな役割を果たしていることを教えてくれた。
「薬剤師は、単にカウンターの向こうで処方する薬を数えるだけの存在ではなく、ますます重要な役割を果たすようになってきています。薬剤師は医療チームの一員として、非常に重要な決定を担っています。堅固な基礎科学の素養をもつ薬剤師にとって、あるいは薬学界全体にとっても、いまはかなり面白い時期だと思っています」
ジョージタウン大学のヴァン・デル・ワーフら研究チームが、大学の費用対効果をランク付けするのに使った指標は、College Scorecardのデータに基づいている。
「正味現在価値(Net Present Value、NPV)」と呼ばれ、将来受け取る収入が現在どのくらいの価値をもっているかを意味する。生涯収入から、大学にかかるコストを差し引いて計算する。
大学卒業後に40年間働くと想定すると、NPVのトップ5ランキングは以下のようになる。
- オールバニ薬科健康科学大学 272万2000ドル(約2億9400万円)
- セントルイス薬科大学 271万4000ドル(約2億9300万円)
- マサチューセッツ薬科健康科学大学 242万1000ドル(約2億6100万円)
- マサチューセッツ工科大学 227万3000ドル(約2億4500万円)
- スタンフォード大学 206万8000ドル(約2億2300万円)
費用対効果だけで大学を選んでいいのか
ヴァン・デル・ワーフによると、正味現在価値は最も重要な指標というわけではないものの、大学に投資を行う学生あるいはその家族にとっては、重要な指標の1つとなり得る。
だからこそ、大学は本来、著名な卒業生の存在ではなく、平均的な卒業生の経済状態のような情報提供を優先するべきなのだが、実際にはキャンパスや課外活動など(二の次の)宣伝に時間をかけている。
ただし、ヴァン・デル・ワーフは、費用対効果だけを基準にして大学や学部を選ぶのはオススメしない。
「最初からやりたくもないのに、投じた金額の大半が戻ってくるからという理由だけで何かを始めたところで、すごくうまくいくことはおそらくないでしょうね」
彼はまた、大学に通うためにローンを組んでおきながら卒業しないのは最悪だと強調する。というのも、ローンを完済するという信用を失うことになるからだ。
オールバニが第1位になった本当の理由
ヴァン・デル・ワーフは、大学への投資を確実なものにするためには、「やりたいこと、情熱をもって取り組めることを大事にすべき」と指摘する。使わないかもしれない学位に時間とお金を費やさなくて済むよう、あらかじめその点をはっきりさせておくべきだ。
ACPHSの学生たちはこのアドバイスどおりに行動しているからこそ、大きなリターンを得ている。彼ら彼女らは入学する前から、地域の薬局や小売りチェーン店、調剤薬局、あるいは健康科学分野の仕事……何になるにせよ、薬学の道を選ぶことに迷いはないのだ。
費用対効果を考える前に、まずは自分がやりたいこと、情熱をもって取り組めることを選ぶのが大事だ。
Shutterstock.com
デューウィー学長によると、ACPHSの平均的な学生は「思いやりがあり、数字に強く、課題解決ができる」。また、大半は資産家の子息や令嬢たちではなく、中流階級の出身だという。
「自分を育ててくれた地元に何か恩返しがしたい、医療システムに何かしらかかわりたいという思いをもった学生たちだからこそ、薬剤師のような仕事に魅力を感じているのです。エンジニアやサイエンティストの道も選べたのに、医療に惹きつけられた学生たちですからね」
薬剤師や健康科学にかかわる仕事は「エバーグリーン」だ、とデューウィー学長は強調する。
需要はいつでもある。テクノロジーや科学の発展を受けて、新たにさまざまな治療法を生み出していく将来を考えたとき、薬学や健康科学への需要がますます高まることは間違いない。薬学の研究者、現場で活動する薬剤師、いずれも必要だ。
「薬剤師ほど薬について知っている人はいません。処方するのは医師だとしても、薬剤師が医師にアドバイスして支える医療チームのあり方がますます重要になってきています」
くり返しになるが、薬剤師はアメリカの大半の州で年間10万ドル(約1080万円)以上の初任給を受け取れる。ギアチェンジして職場を変えたくなったら、強力なアルムナイ(卒業生)ネットワークが助けてくれる。
そういう意味で、ACPHSの学生たちにとって大学への投資は、間違いなく将来の利益を生む選択なのだ。
(翻訳・編集:Miwako Ozawa、川村力)