PayPayとLINE Payはどっちが生き残る? ヤフーとLINEの経営統合で重複する事業とは

経営統合会見

2020年10月頃の経営統合を目指すヤフーとLINE。両社はお互いに競合するサービスをいくつか提供している。

撮影:小林優多郎

11月18日、ヤフーを傘下に持つZホールディングスとLINEが、経営統合することが発表された。両社の統合で補完し合える事業も多い一方、競争が激しいQRコード決済など、重複する事業も少なからずある。実際のところ、両社の事業はどの程度重複しているのだろうか。

経営統合後、統廃合・変更などがありそうなサービスは?

川邊社長と出澤社長

「Yahoo! JAPAN」を有するZホールディングスと、「LINE」を有するLINE社は2019年11月18日に経営統合を発表。

撮影:佐野正弘

両社は、日本最大手のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」、国内メッセンジャーサービス大手「LINE」を展開している。2020年10月頃までに経営統合するという発表がなされ、国内では大きな驚きをもって受け止められた。

Yahoo! JAPANは月間アクティブユーザー(MAU)数が6743万人、LINEは8200万人と、ともに国内では非常に大きな顧客基盤を抱えている。

それを運営する2社が統合すれば、単純計算すれば1億人を超える顧客基盤を持つことになるだけに、今回の統合は非常に大きな注目を集めたようだ。

プロダクト委員会

経営統合後のZホールディングスには、ヤフー、LINE側から5名ずつの役員が連なる「プロダクト委員会」が設置される。

出典:LINE

記者会見では、統合完了まで両社とも引き続きサービス競争を続けていくとしたが、当然のことながら両社には補完し合える事業がある一方で、重複するものも少なからずある。

そこで両社は統合後、「プロダクト委員会」で議論しながらサービスの整理・統合を進めていくと説明している。

では実際のところ、両社の事業はどの程度補完し合うことができ、またどの程度重複しているのだろうか。主だった事業について確認してみよう。

ポータル・コミュニケーションは補完関係、ニュース分野は要注目

ポータル・コミュニケーション領域

作成:佐野正弘、Business Insider Japan

まずは両社の主力となるポータルやコミュニケーションに関連する分野だが、これらに関しては比較的住み分けがしやすい印象だ。ヤフーはコミュニケーション系サービスを持たないし、LINEは検索サービス「LINE Search」を始めたばかり。

それだけに、両社の実績あるサービスを利用することで、互いの弱い部分を補完しやすいだろう。

ヤフー 広告

ヤフーの広告関連事業の収益(Zホールディングス 2019年度第2四半期決算資料より)。

出典:Zホールディングス

また、両社の主力事業である広告に関しても、ヤフーはWeb広告、LINEは公式アカウントなどLINE上の広告がメインであるため、事業の重複は少ないと見られる。

唯一競合しそうなのはメディア関連のサービスで、なかでも人気が高く利用者も多い「Yahoo!ニュース」と「LINE NEWS」をどう整理していくのかは、大きな課題となりそうだ。

買い物はヤフー、フード系はLINE

Eコマース領域

作成:佐野正弘、Business Insider Japan

Eコマースに関しても、比較的住み分けがしやすいように見える。ヤフーは「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」などを持ち、最近では「ZOZO」を買収するなどEコマースサービスの充実度が高い。

一方、LINEの「LINEショッピング」はショッピングサイトへの誘導が主で、実質的に広告事業に近いサービスであることから、この分野ではヤフーに分がある。

LINE ポケオ

6月にスタートしたテイクアウトサービス「LINEポケオ」。

撮影:小林優多郎

ただしLINEは、「出前館」を展開する夢の街創造委員会(11月28日からは商号を「出前館」に変更予定)の筆頭株主でもあり、「LINEデリマ」や「LINEポケオ」を展開するなどデリバリー・テイクアウト系のサービスには強い。

旅行・宿泊系での重複はあるものの、全体的に見れば相互補完しやすいと言えよう。

動画以外のエンタメ分野はLINEの存在感が強い

エンタテインメント・コンテンツ領域

作成:佐野正弘、Business Insider Japan

コンテンツの分野も意外と競合サービスが少なく、相互補完が成り立ちやすそうだ。ヤフーは現在、音楽配信サービスを提供していないが、LINEは「LINE MUSIC」という成長の続いているサービスを持っている(2019年第3四半期決算では29億円の決済高を誇り、前年同期比+46%)。

また、ゲームに関しても、ヤフーのゲームサービスはブラウザゲームが主体である一方、LINE社のゲームはスマートフォンアプリや、LINE上の「LINE QUICK GAME」が主体と明確な違いがある。

動画については、ヤフー側の「GYAO!」は映像作品の配信であるのに対し、LINE側の「LINE LIVE」はCGM要素の強いサービスと、かなり内容が異なっている。唯一競合となりそうなのが電子書籍関連で、ヤフー系の「ebookjapan」も、LINE系の「LINEマンガ」、ともに漫画に強いことから、何らかの整理を求められることになりそうだ。

※CGMとは:
Consumer Generated Mediaの略。ユーザーが制作、発信するコンテンツやメディアのこと。

しのぎを削る金融分野、ヤフー側が先行している点も

決済・金融領域

作成:佐野正弘、Business Insider Japan

両社の事業重複が多く、最も整理統合が難しいと考えられるのが金融・決済の分野ではないかと考えられる。

特に決済に関しては、現在もヤフー系の「PayPay」とLINE系の「LINE Pay」が激しく争っているし、クレジットカードに関してもヤフーが「Yahoo!カード」を展開する一方、LINEも「Visa LINE Payカード」の提供を今後予定しているという状況だ。

金融に関しても、LINEはみずほフィナンシャルグループと銀行業の設立を目指している最中だが、ヤフーはすでにジャパンネット銀行を持っていることから、同じグループ内に複数の銀行が必要か?という疑問が浮上してくる。

もちろん統合によって、スコアリングなどデータを活用した金融サービスの充実を図りやすくなるなどメリットはあるが、この分野はいまインターネット関連企業の競争が激しい分野だけに、両社の手腕が問われる領域だ。

ビッグデータの統合、海外事業への取り組みは両社にメリットあり

その他

作成:佐野正弘、Business Insider Japan

それ以外の事業に関して見ていくと、特にヤフー側にとっては統合によって海外(アジア)進出できることが大きなメリットとなりそうだ。

台湾やタイなど基盤があるLINE経由で海外での事業展開ができることは、“ヤフー”ブランドのOath Holdingsとの契約上、制約があったヤフーにとって長年の悲願とも言える。

一方のLINEにとってメリットになりそうなのが、ヤフーの持つビッグデータである。LINEは「Clova」「LINE BRAIN」などAI事業を今後の成長領域として力を入れていただけに、ヤフーが持つ国内の豊富なデータを活用できることによって、国内のAI事業でいっそう優位に立てる可能性が出てきた。

(文・佐野正弘)


佐野正弘:携帯電話ライター。デジタルコンテンツ・エンジニアを経て、現在では携帯電話・モバイルに関する執筆を中心に活動中。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み