職場でのパワハラやセクハラを防ぐため、国が企業に求める指針案が大筋で固まった。これまで雇用関係にないとして保護されていなかった就活生も、初めて対象になる。社内への周知や研修、相談対応など、企業が取るべき対策とは。
就活セクハラの相談窓口の設置を
雇用関係に無いことを理由に法の狭間に落ちていた就活生をハラスメントから保護するため、国が重い腰を上げた。企業はどう向き合うか。
撮影:今村拓馬
厚生労働省がまとめた指針案の対象は、正規雇用労働者やパート、契約など非正規雇用労働者だ。一方で雇用関係にない就活生にも、企業が取ることが「望ましい」取り組みとして、以下のことが示された。
・就業規則などで就活生へのセクハラ・パワハラを行ってはならないという方針を明確化し、社内報、パンフレット、ホームページ、研修などで周知すること
さらに、
・相談があった場合には、必要に応じて適切な対応を行うよう努めること
も望ましいとされ、適切な対応の例としては、ハラスメントの事実が確認できた場合は、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること、再発防止の取り組みなどがあげられている。
またその際には「相談体制の整備」「事後の迅速かつ適切な対応」「プライバシー保護」など、「※(指針で企業などに)雇用管理上の措置として求めらている内容全体を参考に」して欲しいと、厚労省の藤沢勝雇用環境・均等局長は述べている。(※指針案4「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」)
厚生労働委員会で質問する尾辻かな子議員(立憲民主党)。
出典:衆議院ホームページ
11月22日の衆議院・厚生労働委員会で立憲民主党の尾辻かな子議員の質問に答えたかたちだ。
尾辻議員は就活生が弱い立場に置かれ、どこにも相談できない現状にあると説明。続けて「相談がなくても本来やらなければいけないこと。相談があった場合のみやらなければならないのか。それとも相談がなくともちゃんとやっていくのか」と尋ねた。
これに対し藤沢雇用環境・均等局長は上記発言の後で、「必ずしも相談があった場合の事後的な対応のみに限定されているものではない」とした。
相談窓口の設置など、積極的な対応が望ましいだろう。
今回の指針は、労働者については、2020年6月から大企業、2022年4月から中小企業にも義務化される。就活生対策も遅くともそれまでに取り組むことが推奨される。
現役大学生らが抗議、私たちは「潜在的な部下」だ
SAYの学生らが主催した就活セクハラの勉強会。11月、上智大学にて。
撮影:竹下郁子
Business Insider Japanのアンケートによると、723人の回答者のうち、約半数にあたる359人が就活セクハラの被害にあっている(2019年11月24日時点)。そのうち75%が当該企業や大学などの関連機関、また身近な人にも相談できていない。
今回の指針案はこれまで就活生が労働法で保護されず、法の狭間に落ちていた状況から考えると、大きな一歩だ。しかし非常に限定的な対応で、十分とは言えない。
指針案に先駆けて、「実効性ある「就活セクハラ」対策を求める大学生からの緊急声明」を公表したのは、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、創価大学、ICU(国際基督教大学)の学生らによる団体「SAY (Safe Campus Youth Network)」だ。普段から大学の枠を超えて性暴力についての勉強会を開き、身近で「OB・OG訪問で家に誘われた」など被害の声を聞いてきたという。
同声明に参加したICUなどの学生からなる団体「Voice Up Japan」のアンケート調査には、以下のような回答があったそうだ。
「就活アプリを通して知り合った社員と面会後夕食に誘われ、不適切なボディタッチをされた」
「大学時代に身体関係を持った人の話を聞かれた」
「座っているときに、上から服の中を覗かれる」
「小さな声で話し、聞き取りにくいからと近くに寄ったら息を吹きかけられた」
撮影:今村拓馬
声明では、就活セクハラが起きる背景について、OB・OG訪問、アプリを通じた社員訪問、インターン、リクルーター制、リファラル採用、そして経団連の就活ルールの撤廃など、就活の長期化、複雑化を指摘。企業や大学に責任ある行動を促すと共に、指針案を抑止力がないと批判している。就活生、大学、企業を対象にした包括的な実態調査の実施を求めた。
「現実ではOBOG 訪問等『業務外』とされてしまう空間でセクハラや性犯罪が発生しています。就活生はその会社への入社を希望する『社員候補/潜在的な部下としての立ち回り』を要求されているため、社員からのセクハラに泣き寝入りするしかできない状況にあります。当該指針はこのような事態への解決を提示しておらず、記載内容も不十分です。就活セクハラが起きる構造把握に基づいた実効性のある規定を設けるべきです」(緊急声明より)
「雇用関係にないから事実確認が難しい」
撮影:今村拓馬
2019年6月の国会では就活生やフリーランスなどへのハラスメントを防止するために、必要な対策を指針等で講ずるよう付帯決議が採択されている。学生らの緊急声明が公表された後の11月20日に開催された、指針案を検討する労働政策審議会では、労働側からこのままでは就活生らへの対策が不十分だという意見もあった。
一方、経営側は「雇用関係にない方に、どこまで事実関係の確認ができるか難しい」とし、労働者に対して企業が負う「措置義務の内容を一律に設けるのは難しい」と難色を示している。
上記の厚労委員会で尾辻議員は今回の指針案に対し、「評価できる状況に至っていない。何のために衆参両方で付帯決議をつけたのか。それらが踏まえられたと言い難い」と指摘。現在、指針案に対する意見を一般から募集するパブリックコメントが始まっていることにも触れ、
「事業主が行うことが『望ましい取り組み』になっているが、これでは弱い。実効性が確保されていない。パブリックコメントではいろんな声が聞こえてくると思います。その声をしっかり聞いて、すべての人が働きやすい指針案にしていただきたい」
と訴えた。
また職場でヒールやパンプスを義務づけることに意義を唱える#KuTooは大きな社会運動になり、根本前厚労相も「足をけがした労働者に必要もなく着用を強制するような場合は、パワハラに該当し得る」と答弁しているが、現状の指針案には記載がない。前出の労政審で労働側に見解を問われた経営側は、「現場で足を怪我しても強制する事例がどこまであるのか。個々の企業が提供するサービスや社会的な慣習の下で、一定のルールがあると理解している」とし、「指針に記載することは、現時点では難しい」と述べている。
一方で厚労省はパワハラにあたり得ることもあるため、「周知していく」とその後の厚労委員会で述べているが、具体的な方法については不明だ。
就活セクハラや#KuTooなど職場の身だしなみ規定に関して意見できる、職場のパワハラ指針のパブコメは12月20日まで。
(文・竹下郁子)
※「職場のハイヒール・パンプス着用、緊急アンケート」には、これまで2800人以上から回答をいただきました。ありがとうございます。靴以外についてもおたずねしていますので、引き続きご協力をお願いします。