ラグビーのプロリーグ構想を推進する日本ラグビー協会副会長の清宮克幸氏。
撮影:大塚淳史
ラグビーのプロリーグ構想が7月に明かされてから約4カ月。日本ラグビー協会副会長の清宮克幸氏が中心となって進めている。ワールドカップ(W杯)日本大会での日本代表の活躍で、日本中が沸き立ったその熱量をそのままに、順調にプロリーグ化が進むかと思われたが、どうもうまくいってないようだ。
11月19日、さいたまスーパーアリーナで開催された「スポーツビジネスジャパン」のカンファレンス「日本のラグビーを変える!〜新しいプロリーグとは〜」に清宮氏が登壇したが、プロ化へうまく推進できてないのか、不満を口にしていた。
本来なら既に構想発表するはずだったが
「本来なら、私の予定では、今日は(プロリーグの具体的な)構想を発表した後に、ここに座るはずだった。ちょっと(プロ化の動きが)早すぎるという意見があった。前回の(協会の)理事会で、皆さん、総論は賛成なんですよ。ただ、『清宮、頑張ってくれ。でも、やり方があるよね』という感じで。指摘してもらったことを固めなおしている段階です。
個人的にはかなり不満です。こんなスピードでやっていて2021年秋に本当にプロ化できるのかと」(清宮氏)
清宮氏と共にカンファレンスに登壇した日本トップリーグ連携機構会長の川淵三郎氏。Jリーグ、Bリーグと豪腕でプロリーグ化を実現させてきた。
撮影:大塚淳史
一方で、一緒に登壇した、現在日本トップリーグ連携機構会長の川淵三郎氏は、ラグビーのプロ化について、難しい面を指摘した。
「ラグビーのプロ化は結構難しい。Jリーグ(サッカー)とBリーグ(バスケットボール)は、アジアの中でも弱小国だった。サッカーの場合、五輪は28年間出ていなかった、バスケは1976年のモントリオール五輪以降、出ていてなかった。弱い国内リーグの中でプロ化をしたということで、世界との比較がまるでなく、地域に根ざすということに注力した。
ラグビーはすでに世界のベスト8(2019年W杯日本大会)。その試合とどうしても比較されて、結構ハンディキャップになる。それに比べるとサッカーは楽だった」(川淵氏)
他にも、清宮氏が話す収入源やホームタウン、スタジアムに対しても、川淵氏は厳しい指摘を続けていた。
従業員の士気向上やCSRの要素が強い企業スポーツ
ドラマに出演して注目された、元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗氏。現在は一歩離れた位置からラグビー界の盛り上げに関わる。
撮影:大塚淳史
ラグビーの国内リーグの最高峰であるトップリーグは16チームが参加する。東芝、サントリー、トヨタ自動車、パナソニック、神戸製鋼などの企業のチームであって、チーム運営費は会社の経費でまかなわれる。選手たちは、一部にプロ契約する選手はいるものの、多くは各企業の社員である。
トップリーグの1試合あたりの平均観客数は、2015年W杯イングランド大会直後の2015・16年シーズンは1試合平均6470人だったが、2016・17年シーズンは5059人、2017・18年シーズンは5688人、2018・19年シーズンは5153人という数字で推移してきた。
カンファレンスには、2019年7月から9月にかけて放送されたドラマ「ノーサイド・ゲーム」に出演して注目された、元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗氏も登壇し、プロ化の意義を説明した。
「(日本のラグビーは)もとは企業スポーツで、僕たちが優勝した時(廣瀬氏は東芝ブレイブルーパスに所属していた)に言われたのは、従業員の士気向上やCSRの要素があるからと、あまり外側に向いていなかった。
それはそれで、昔は良かったかもしれないですけど、今後に向けて、これ以上ラグビーを発展させるには、最終的にプロ化に向かっていくのは当然の流れ」(廣瀬氏)
W杯がうまくいきすぎてプロ化に躊躇
日本代表はW杯で快進撃。ベスト8では、今大会で優勝した南アフリカに敗れたものの、大健闘した。写真は、南アフリカ戦で突破を図る稲垣啓太(中央)とトンプソン・ルーク(右)。
Matthew Childs/Reuters
日本を代表するラガーマンだった故・平尾誠二さんとの交流があるなど、日本のラグビー界に詳しいスポーツライターの玉木正之さんは、プロ化が順調に進んでいない背景に、思わぬ理由をあげた。
「W杯がうまくいきすぎた。そして、W杯に出ていた外国選手たちが、どこのチームに入るってニュースも出たでしょう。(協会や企業チームから)今のトップリーグのままでも、人気が出るんじゃないか、という読みがどうも出てきたらしいです」(玉木氏)
W杯で火がついたラグビー人気は、下部リーグであるトップチャレンジリーグにも及んでいる。11月にリーグが開幕したが、日本代表で人気選手であるトンプソン・ルークが所属する近鉄ライナーズの試合には、なんと1万5596人(11月24日の豊田自動織機戦)が集まった。トンプソンが引退を表明したこともあるにせよ、下部リーグの試合でこれだけ観客が集まったのは驚きだ。
「ラグビー自体、そんなに試合(数)ができないということがある。どれだけギャランティーが保証できるのかもある」(玉木さん)
2020年1月に開幕するトップリーグのシーズンは、1チーム当たり15試合。また、ラグビーでは試合人数が15人と他スポーツに比べて多い。
「私の予想としては、1年間くらいもう一度延ばして、様子見をするのではないか。今あるトップリーグをやってみようかという意見が出るんじゃないかと想像しています」(玉木さん)
日本中がラグビー日本代表のプレーに興奮し、声援を送った。
Matthew Childs/Reuters
玉木さんはプロ化の鍵として、大学や会社などの派閥を打破できるかを挙げた。
「日本のラグビー界には、社会人ラグビーがあり、大学ラグビーがある。その大学が完全に学閥で分かれている」(玉木さん)
ラグビーは早稲田大学、明治大学、慶応大学、同志社大学などの学閥が根強く残っているとたびたび指摘されてきたが、学閥はラグビーに限らず他競技にも言えるという。玉木さんはBリーグ以前の、バスケのプロリーグ構想が出た時に参画し、学閥を目の当たりした。
「Bリーグやその前のBJリーグより前、2000年前後にプロリーグを作る動きがあったが、その前段のプレリーグを1年間やったところ、赤字が出ました。すると、学閥の中の反対派が赤字を問題視して、推進派を追い出してプロ化はなくなりました。赤字額といっても200万円。腰が抜けましたね。
サッカーでも学閥はありましたが、早稲田大学→古河電工という(サッカー界の)派閥の王道を歩んだ川淵さん自身が派閥を否定した。これが大きかった。同じように、清宮さんが派閥を否定できるか。ラグビーの派閥はすごいですから」(玉木さん)
左から、清宮克幸氏、川淵三郎氏、境田正樹氏、廣瀬俊朗氏。
撮影:大塚淳史
昨年開幕した卓球プロリーグ「Tリーグ」は苦戦中?
この数年はスポーツのプロリーグが続々と始まっている。
2016年に始まったバスケのBリーグは、順調に運営規模を拡大している。
一方で、2018年に華々しく立ち上がった卓球のプロリーグ「Tリーグ」はどうだろう。8月末に今シーズンが開幕しているが、どれだけの人がそのニュースを知っているか。ラグビーW杯の開幕直前とかぶったことも大きかったにせよ、既に開幕から約3カ月だが、昨シーズンほどの話題性が失われているようにも見える。
卓球コラムニストの伊藤条太さんは、Tリーグの現状について、「試合がないから、ニュースもない」と説明した。背景に東京オリンピックの前年という影響をあげた。
「五輪の前年ということで、主要な選手たちが自分のランキングを上げるために、例年以上のペースで国際大会に出ないといけない。今のランキングシステムは、試合に出るほどランキングが上がる可能性が高まるから。
Tリーグは当然そこの日程にかぶらないように試合を組み、結果的に、リーグは8月末に開幕したものの、試合間隔が空いて間延びしてしまった」(伊藤さん)
Tリーグは各チームが計21試合を行う。今シーズンの観客動員は、開幕週こそ各会場で2000人、3000人と集まったが、その後は1500人前後に推移、地方の大会だと1000人を切る会場も多い。プロリーグの興行という点だけで見れば、明らかに厳しい数字だ。
メディアに取り上げられる機会も大幅に減っている。伊藤美誠、平野美宇、張本智和、水谷隼といった日本代表クラスの選手たちの国際大会での試合は、取り上げられる機会は多いのだが。
「確かに試合日程が間延びしたことがマイナス要因となり、昨シーズンよりは(Tリーグの)勢いが落ちているかもしれない。
ただ、今シーズン参加している海外からの選手は、昨シーズンよりレベルが上がっている。Tリーグが注目されていないのは実情ですが、ここが踏ん張りどころです」(伊藤さん)
プロリーグを始めることはできても、スタートした後にどれだけ盛り上げられるのか、ビジネススキームを築けるのか。清宮氏はカンファレンスで「後出しの強みを発揮する。良い人材がいればいただきます。(他のプロリーグに)ヒアリングして失敗した話も参考にする」と川淵氏に答えていた。
ラグビープロリーグは無事に2021年秋にスタートできるのか。まずは清宮氏の手腕に注目だ。
(文、写真・大塚淳史)