都内で行われた「FileMaker カンファレンス 2019」(2019年11月6〜8日開催)で開催されたパネルディスカッション 「イノベーションを導くリーダーシップ」。
環境の変化が速く、将来が見通しにくい今、企業は「イノベーションを起こせ」というプレッシャーにさらされている。経営者が「現場から提案が上がってこない」と嘆く一方、現場からは「新しいことを提案しても『前例がない』と言われる」と声があがる。イノベーションが求められる今、組織、リーダーには何が求められているのだろうか。
2019年11月6日、都内で行われた「FileMaker カンファレンス 2019」(11月6〜8日開催)で、パネルディスカッション 「イノベーションを導くリーダーシップ」が開催された。登壇者は、経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子氏、カワムラモータース社長の河村将博氏、日本航空 運航訓練審査企画部 定期訓練室 室長の荻 政二氏、同社 訓練品質マネジメント室 室長の京谷裕太氏、Eight Arrows 代表取締役の河野英太郎氏の5人。自らのリーダー経験、組織改革の経験をリアルな言葉で語り合った。
VUCAの時代、求められるリーダー像は変わった
Eight Arrows 代表取締役の河野英太郎氏。著書の『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がミリオンセラーに。
「今はVUCAの時代だ」
こう話すのは河野氏。河野氏はグロービス経営大学院客員准教授でもある。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性) 、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語。
「外部環境がVUCA化し、持続的に成長することが難しくなっており、リーダーの過去の成功経験が生きず、俊敏に次々とイノベーションし続ける必要性が増している」(河野氏)
このような時代に、求められるリーダー像もかつてとは変わってきている。
日本航空のパイロット(機長、副操縦士)の訓練を行っている荻氏によれば、機長に求められるリーダーシップも時代とともに変化しているという。かつては、機長が最終意思決定者として全て判断して指示を出し、副操縦士とキャビンクルー(客室乗務員)は言われた通りに動いていた。だが、時代が変わり航空機事故の原因が故障や外的要因よりも人的要因のケースが増え、機長だけでなくチーム全体として安全性を高める意識に変わってきたそうだ。
「機長はリーダーとして仕切るのではなく、キャビンクルーも含めて現場の情報や意見をもらってベストなソリューションを出していく位置づけに変わった。訓練で教えることも、一人よがりのオペレーションではなく、みんなから意見を聞き出せるオペレーションにシフトしました」(荻氏)
日本航空 運航訓練審査企画部 定期訓練室 室長の荻 政二氏(写真・中)は「航空機事故の原因が故障や外的要因よりも人的要因のケースが増えている今は、機長だけでなくチーム全体として安全性を高める意識が大事。みんなから意見を聞き出せるリーダーが求められている」と話した。
チーム全体で目的達成のために進んでいくこと。それをあえてリーダーを作らないことで、実践した組織がある。Honda Carsの販売店2店舗を運営する、社員30人ほどのカワムラモータースだ。2016年に日本経営品質賞 中小企業部門を受賞した社長の河村氏は、「2店舗とも店長がいない」と明かす。
「優秀な店長がいれば収益は上がるが、それよりも目の前のお客様に対して自分で決断しなければいけない環境をつくろうとした。実勢に基づいて自ら考えて行動し、反省するという従業員のニーズを大切にしようと考えた」(河村氏)
そうした組織を築くには「情報共有」が大切だと強調する。河村氏の会社では、河村氏自信がSEとして必要なシステムを、FileMakerを使って構築した。
「権限委譲は、情報公開と情報共有をセットで行わないと危険。そのためにFileMakerを駆使しています。日々の情報にアクセスしている人であれば、その判断に心配はない」(河村氏)
スタッフ全員が情報を共有しているからこそ、誰もが的確に判断、対応できるのだ。
一人ひとりの力を最大にするリーダーとは?
カワムラモータース社長の河村将博氏は店長のいない店舗を運営する。その秘訣は、権限委譲と情報公開、情報共有にあると話した。
リーダーが1人で判断して指示を出すのではなく、チームのメンバーが自発的に動く組織でなければ、変化する状況に対応できない。リーダーはそうした組織を作る役目を担っていると言える。しかし、リーダーは、往々にして過去の成功体験に頼りがち。チームのメンバーの力を引き出すには、まず成功体験から脱却、アンラーン(unlearn)しなければならない。河野氏は、アンラーンの方法を次のようにアドバイスする。
「3年経ったら『コンフォートゾーン』と考える。同じ仕事を3年続けるとノウハウがたまる。実際業績もついてくる。そうなったときが危険。そこに居続けると、それしかできない人になる。3年経ったら違うことをしようと意図的に考えるといい。そうすれば成長して、環境が変わっても対応できるようになる」(河野氏)
また、チームのメンバーが萎縮することなく力を発揮できるよう、河村氏は「平時は影響力があっても存在感のない人を目指し、危機的な状態のときは助けてほしいと思っている自分を素直に表現している」と話す。
米グーグルが2016年に発表した研究結果によると、メンバーが委縮せず、心理的安全性の高いチームのメンバーは、自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があるという。
「メンバーがビクついていては『イノベーションを起こそう』といっても難しい。リーダーがふだんから飾らない自分を出すこと。弱さが最大の強い結びつきになる」(瀬戸川氏)
日本航空 運航訓練審査企画部 訓練品質マネジメント室 室長の京谷裕太氏。「データを見ているといろいろなものが見える。その状況に合わせた訓練を行うことが必要」と話した。
さらに、京谷氏と荻氏は、パイロットの訓練で訓練生に合わせて的確なフィードバックを与えるためのデータベースを日本の航空会社として初めて導入した。訓練の評価を教官がFileMakerに入力し、そのデータを分析することで次年度以降の訓練に反映。2012年に自ら開発して以降、毎年アップデートを続けており、EBT(エビデンスに基づく訓練体系)の本格導入につなげた。
「例えばパイロットの機長昇格訓練に入る人は年齢層も30代〜50代とさまざま。データを見ているといろいろなものが見える。全てに当てはまる正解はない。その場の状況に合わせた訓練を行う必要があります」(京谷氏)
凝り固まった頭、一方通行の指示ではチームの理解を得られないのだ。
イノベーションが起きる組織とは?
経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子氏は、「誰でも同じ情報を持てる環境にしている会社が増えてきた。そうした中でイノベーションを考えなければならない」と話した。
イノベーションが起きる組織とはどんな組織か。数々のホワイト企業を取材している瀬戸川氏は、イノベーションを起こす組織には特徴があるという。
「イノベーションが出やすい組織は透明性が高い。透明性を高くするにはシステムを活用することが欠かせない。どこまで透明にするかというと、全てです。取締役会でどんなことが話されたのか議事録や給料までオープンにする会社も珍しくない。誰でも同じ情報を持てる環境にしている会社が増えてきました。そうした中でイノベーションを考えなければならない」(瀬戸川氏)
現場に情報があってこそ組織全員で取り組むことができ、柔軟に形を変え変化してイノベーションにつなげることができる。リーダーシップにしても、組織全体にしても、状況に合わせて変わっていくことが求められるのだ。
パネルディスカッション「イノベーションを導くリーダーシップ」のグラフィック・レコーディング。
イノベーションを起こしたい組織をテクノロジーがサポート
セッションのモデレーターを務めたBusiness Insider Japan編集部の高阪のぞみ。
ディスカッションでキーワードとなったのは「情報共有システム」と「データベース」。データベース・ソフトウェアのFileMakerを開発する、Claris International Inc. CEO/クラリス・ジャパン 社長であるブラッド フライターグ氏は「イノベーションにはテクノロジーが必要だ」と語る。
「パッケージ化されたアプリを導入するだけでなく、自社のユーザ中心にデザインされたアプリケーション、インテグレーション(統合)、ワークフローの自動化や、IoT、機械学習など全てがイノベーションに役立つ技術です」
その中でクラリスは、アプリケーション、カスタマーエクスペリエンス、ワークフロー、IoT、マシンラーニングなど、さまざまな面からイノベーションを起こしたいリーダーをサポートしている。
「クラリスの研究開発投資は、会社の投資全体の中でも最も割合が大きい。それほど力を入れて優先的に、顧客に対してイノベーションを起こすためのテクノロジーを提供してきました。今後期待が高まっているエマージングテクノロジー(最先端技術についても投資を進めています。さらに、技術を学習するための無償の教育システム、認定の仕組み(※)を持つことで、イノベーションに必要な技術、最新のスキルを誰もが身に着けられるように努めています。日本では今後、クラウドインフラを構築するための投資も進めていく予定です」
「パワフルなテクノロジーをすべての人へ」というビジョンを掲げる新生 Claris。イノベーションを導くリーダーには、組織をまとめ透明性を高めるためにも、ソフト・ハード両面での工夫が必要と言えそうだ。
※ ピアソンという技術認定資格でFileMakerの資格がある。ハンズオン(体験)トレーニングは2014年〜無償で一般提供。FBA(FileMaker Business Alliance)パートナーのエンジニアには7日間の有償トレーニングを無料で実施し技術者の育成を支援している。
Claris International Inc. CEO/クラリス・ジャパン 社長であるブラッド フライターグ氏。
今後はより使いやすいサービスを提供し、ビジネス・サービスを広げていくことを目指している。
「高価で複雑なテクノロジーでは導入できる企業、扱える人が限られてしまう。どんな規模の企業でも、どんな方でも事業に積極的に活用できる技術、サービスを目指して、日々進化させています」
テクノロジーの活用は一部のリーダーや大企業のものという時代ではない。誰もが使って、誰もがイノベーションの担い手になる。そんな時代が到来している。
■FileMakerについて詳しくはこちら。
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