巨匠ポランスキー監督新たな「レイプ疑惑」で作品上映禁止呼びかけ。作品と人物は切り離せるのか

ポランスキー

『戦場のピアニスト』でカンヌのパルムドールも受賞した巨匠ロマン・ポランスキー。一方で、アメリカでのレイプ犯罪などを告発されている。

REUTERS/Charles Platiau

ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(審査員賞)を取ったロマン・ポランスキーの新作『J’accuse(英題An officer and a spy)』が11月13日にフランスで封切りになったが、フェミニスト団体の抗議行動で上映を中止する映画館が出て、物議を醸している。

観客も鑑賞ボイコットを呼びかけられ、この映画を観に行くことが「レイプ犯」を支持することになるのか、作品と人間を切り離すことができるのかという問いを突きつけられている。

ポランスキーは1977年に13歳の少女への淫行容疑でカリフォルニア裁判所で訴追されているが、釈放中にヨーロッパに逃亡し、映画製作を続けて来たことはよく知られている。

ところがこのたび、封切りの数日前に、新たに犯罪が告発された。カメラマン、ヴァランティーヌ・モニエが大衆紙「パリジャン」で発表した公開書簡で、1975年、モニエが18歳の時に、ポランスキーに殴られた上、レイプされたと明かしたのである(ポランスキーは否定)。

次々中止されたプロモーション

ジャン・デュジャルダン

ヴェネチア映画祭に参加した『J’accuse』の出演者たち。左からルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、ジャン・デュジャルダン。

REUTERS/Piroschka van de Wouw

これを受けて、新作映画のプロモーションはバッタリと止まった。

新作ではスパイ容疑で逮捕されたユダヤ人のドレフュス大尉の冤罪事件を扱っている。原題の『J’accuse(私は弾劾する)』は、作家エミール・ゾラがドレフュス擁護のため新聞に掲載した有名な公開質問状から取っているが、主人公は真犯人を発見したピカール中佐である。

そのピカール中佐を演じた俳優のジャン・デュジャルダンは11月10日の日曜日、民放の20時のニュースに出演するはずだったが急遽中止。中佐の愛人役で実生活ではポランスキーの妻であるエマニュエル・セニエも、封切り前夜の火曜日に予定されていたラジオ局のインタビューをキャンセル。他の局も続々と、すでに収録した関係者のインタビューをお蔵入りにした。

新たな告発について語らないインタビューは放映できないだろうという判断からだ。

プレスリリースからは映画公開直前に、ドレフュスとポランスキーを重ねるような箇所が削られた。

リリースでポランスキーは、「この物語の中には、私も経験したものがあります。事実を否定し、私のやっていないことで私を断罪しようと人が躍起になるのを見ました。でもほとんどの人は私を知らないし、問題の内容も知らないのです」と言っていたのである。

芸術家と人間を分けて考えるべきか?

エマニュエル・セニエ

『J’accuse』はヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞した。トロフィーを持つエマニュエル・セニエ(中央)。

REUTERS/Piroschka van de Wouw

こうした騒ぎにもかかわらず、映画の滑り出しは好調で、2週間で88万6000人を動員している。

11月12日の夜、封切り前の試写会に詰めかけた観客の1人は、テレビのインタビューに「告発が事実かは分からないし、俳優は何も悪いことをしていない。私は作品を観に来たのだ」と答えている。

俳優のブリュノ・ソロはラジオ番組で、「芸術家個々人のプライベートを探れば、何か出てくることもある。その場合は人間として裁くべきであって芸術家を断罪すべきではない。ただし、それが絡み合っていることはあるが」と述べている。

こうした意見は多くの観客を代表するものだろう。

一方で、芸術家と人間とを分ける考え方が、映画界の性犯罪を見逃すアリバイになっているという指摘もある。

モニエの告発に先立つ11月4日、女優のアデル・エネルが、ニュースサイト「メディアパール」のインタビューの中で、彼女が12歳から15歳の間、最初に出演した映画の監督のクリストフ・ルッジアから体を触られるなどのセクハラを受けたと告発し、大きな反響を呼んだ。

エネルは、10月に『J’accuse』が一般公開に先立ち、映画祭で上映された際、過去のレイプを許容してしまう文化についての議論を付随させるべきだと発言、モニエの告発があるといち早く支持を表明した。

上映中止の是非が論争に

アデル・エネル

ポランスキー作品の上映に関して、議論を喚起したアデル・エネル。

REUTERS/Stephane Mahe

11月26日、とうとう初めて上映を中止する映画館が出た。これまでは上映中止に追い込まれたのは試写会のみだったが、ポワティエ市の映画館で、前夜に起こったフェミニスト団体による入り口封鎖の混乱が続くのを避けるため、上映を中止。映画人団体は「観客の自由を奪う検閲である」と強く抗議している。

2週間前にはセーヌ=サン・ドニの9市町村を束ねる公共団体エスト・アンサンブルの議長が地域内の6映画館でこの映画の上映を中止する決定を通達したが、映画館館長らと各市町村議員が反対して、上映中止は阻止されている。

9市町村のひとつ、モントルイユ市の映画館のメリエス館長は、「観客の自由な判断に任せるのでは不十分なのか」と反論し、上映時にフェミニスト団体との討論の機会を設けた。モントルイユ市の文化担当助役も、「どのような正しい目的があったとしても検閲は正当化されない」と語っている。

日本では俳優による犯罪で過去の作品が見られなくなったり、撮影のし直しという事態が続いている。制作側が“罪”を犯したとしても作品に罪はないという“作品無罪”の考えが議論され始めている。

フランスでは、伝統的に“作品無罪”の考え方が主流だが、ここへ来て性犯罪への意識の覚醒が、作品の鑑賞が性犯罪の許容につながるのか、ひいては検閲が正当化されるのかという問題を提起している。


中島さおり:エッセイスト・翻訳家。早稲田大学、学習院大学大学院でフランス文学を学び渡仏。パリ第3大学博士前期課程修了。2006年、『パリの女は産んでいる』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。他に『フランスではなぜ子どもが増えるのか』『哲学する子どもたち −バカロレアの国フランスの教育事情』など。

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