パブリック・スピーチの世界大会で優勝したアーロン・ビバリー。
Aaron Beverly
- 人前でスピーチをするのが怖いという人は多い。2019年、「パブリックスピーチの世界チャンピオン」に輝いたアーロン・ビバリーは、その不安を克服した。
- 2012年から大会に出場を続けている彼はスピーチに磨きをかけ、ついに「信じられない話」というスピーチで優勝した。
- ビバリーはBusiness Insiderに、過去に経験した不安や優勝を勝ち取ったスピーチの準備について語ってくれた。
世界中から毎年3万人以上の人たちが集まり、話し方やリーダーシップ・スキルの向上を目指す非営利教育団体トーストマスターズ・インターナショナルが認定する、「パブリックスピーチ世界チャンピオン」の座を競い合っている。
2019年は、米銀JPモルガン・チェースでアソシエイト・グローバル・プログラム・マネジャーを務めるアーロン・ビバリー(30)が栄冠に輝いた。
人前で話すことへの恐怖を克服したいという思いから、2012年に大会初出場。8回目の挑戦でついに頂点にたどり着いた。
ビバリーはBusiness Insiderに、優勝までの道のりで学んだことを教えてくれた。
怖いと思う原因を明らかにする
2019年の優勝者、アーロン・ビバリーのスピーチ(動画は7分38秒、英語のみ)。
出典:Toastmasters International YouTube Official Channel
ビバリーは、セントラル・ペンシルバニア・カレッジの2年次、パブリックスピーチに恐怖心を抱いている自分に気づいた。リーダーシップ・プログラムに参加していた彼は、卒業式で登壇する役割を与えられたのだ。
「私の役目は、基調講演で登壇した方にプレゼントを贈呈するというものでした。口にすべき言葉はたった3つだけだったのですが」
ステージに上がって講演者と握手をすると、ビバリーは言葉に詰まってしまった。
「ありえないくらい気まずい、15秒の沈黙でしたね」
彼はすぐに気づいた。自身のパブリックスピーチへの恐怖心が、何を言うのか忘れてしまうのではないか、恥をかくのではないかという不安に根づいていることに。
その気づきに駆り立てられたビバリーは、トーストマスターズ・インターナショナルに参加し、国際大会に出場登録。20時間スピーチをぶっ続けで練習を続けた。
「人前で話すのが怖いという人は多いけど、なぜ怖いと思うのか、理由を知らないんですね。その点私は、自分がなぜパブリックスピーチを怖いと思うのか、どんな事態を避けたいと思っているのか、しっかり認識していました。だから練習しようと思ったんです」
ビバリーは8年かけて、完璧なスピーチにたどり着いた。
優勝したスピーチの原稿ができるまで
まずはオーディエンスの求めるものを知る必要がある。
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ビバリーはまず、オーディエンスを知ることから始めた。彼らが何を聞きたいのかを知り、彼らにとって重要なことを話すようにしたわけだ。
「オーディエンスについて知らなければ、一言も発していないのに失敗確定、ということもありえるのです」
ビバリーは8年間トーストマスターズで競い、また他の人が競うのを見てきたので、オーディエンスについて詳しくなるのに充分な時間があった。
オーディエンスのリサーチが済んだら、次は、話すテーマをさらに絞り込むことだ。
自分のスピーチを聴き終えたオーディエンスに、何をしてほしいのか、何を考え、何を知ってほしいのか、あらかじめ書き出しておくといい。その際、一つひとつの項目は英語で10ワード以内(日本語なら20文字程度)に収めること。字数制限をかけておくと、話す内容が複雑にならないで済むという。
次に取りかかるのは、スピーチ原稿の下書き。ビバリーのやり方はユニークだ。
彼は1年を通して、自分が聞いたり経験したことを書き留め、パソコンのデスクトップに作成した「ストーリー」というファイルに保存している。このやり方を始めたのは5年前で、アイデアを教えてくれたのは(トーストマスターズの)競争相手だった。
録音して、何度も何度も繰り返す
オーディエンスの意見に耳を傾けるのは大事だが、自分に嘘をついてスタイルを変えるのは本末転倒だ。
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いわばその「ネタ帳」の中から、最も切実で真に迫るものを選び、下書き第一稿の土台をつくる。
第一稿ができたら、ビバリーはそれを目の前に置き、大会本番にオーディエンスの前で話すときのように、声のバラつきやペースに配慮しながら原稿を1語1語読みあげ、その声を録音する。そしてそれを聴く。
「自分の声を聴くのを嫌がる人が多いのですが、パブリックスピーキングのスキルやストーリーを語る力を伸ばすのに、本当に役立つ手法であると断言できます」
間違えているところはないか、原稿を修正する必要があるのはどこか、注意を傾けながら録音を聴く。
修正したら再度丁寧に読み上げて録音し、また聴いて修正するプロセスを、実際のオーディエンスの前で自信をもって話せると感じるまで、何度も何度もくり返す。
ビバリーはオーディエンスからのあらゆるフィードバックに耳を傾けるようにしているが、自分のスタイルを根底から変えるような意見はスルーだ。
他の人が考える理想の「パブリックスピーカー」ではなく、自分自身に嘘のないやり方でスピーチをしたいからだ。
2019年に優勝をつかみ取ったスピーチを準備するのに、彼は丸1年をかけた。その努力にはそれだけの価値があったとビバリーは言う。トロフィーのためだけでなく、自分自身がどこまで成長できたのかを知るためにも。
(翻訳・編集:Miwako Ozawa)