足首授乳、家庭内パンデミック…多胎児育児で追い詰められる母親に父親がすべきこと

まず、この写真を見てほしい。

双子

かわいい赤ちゃんが2人入れば可愛さも2倍なのだが……双子など多胎児の育児には膨大な苦労もある。

工藤さん提供

「かわゆす……」と思わず口をついて出てしまうのではないか。双子の赤ちゃんって、そばで見ているだけなら「それは反則」と言いたくなる可愛さだ。

「かわいいね、と声を掛けてくれる人は多いです。でもその後ろには、膨大な苦労があることも知ってほしい」

そう話すのは写真の双子の父であり、若者の就労支援などを担うNPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓さん(42)だ。授乳もおむつ替えも2人分、やっと1人寝かしつけたと思ったらもう1人が泣きだし、結局鳴き声の大合唱……。そんな双子も4歳になり、やっとひと山超えたと感じているという。

工藤さんの経験談を聞くと、双子育児で父親に求められる心構えは、母親のそれとは微妙に違うことに気付かされる。

足首授乳、家庭内パンデミック…男児4人の壮絶子育て

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授乳は赤ちゃん一人でも大変であるが、双子、三つ子となると、その過酷さは想像を絶する。

写真:shutterstock

工藤家には男児の双子の上に、8歳の長男、6歳の次男もいる。双子が生後8カ月で妻は仕事に復帰し、4人全員が保育園児という時期もあった。

工藤さんにとって、長男が生まれた時から家事育児の折半は当たり前だった。

だが双子は上の子どもたち2人と勝手が違う。授乳ひとつとっても、赤ちゃん1人なら片腕に抱いて別の手で哺乳瓶を支えられるが、双子だと物理的に「手」が足りない。工藤家の場合、さらに上2人の世話もある。工藤さんが悩んだ末に編み出したのが「足首授乳」だ。

「両方の足元に双子を寝かせ、足首に哺乳瓶を立てて同時に授乳。次男のおむつを変えながら、長男の相手をしていた」

入浴では1人を洗っている間に、もう1人に事故が起きてはとヒヤヒヤし、「まばたきすら怖い時期もあった」。食事の世話、寝かしつけなどもそれぞれ手がかかるため「基本的に双子の育児は、2人親がいないと回らない」と、工藤さんは言う。

インフルエンザや手足口病などに4人が次々と感染し「家庭内パンデミック」を起こすことも。こうなると親は長期間、出社もできなくなってしまう。

工藤さんは長男の誕生以降、飲み会の誘いや夜の講演依頼をほとんど受けず、帰宅後は家族全員で過ごしているという。自ら育児にどっぷり浸かっているだけに「(愛知県豊田市で)次男を死なせてしまった三つ子のお母さんのつらさは、本当によく分かります」と、しみじみと語る。

多胎児ワンオペ「殺めるか、自殺するか」と母親

悩んでいる女性

双子や三つ子を育てる保護者の9割が「子どもにネガティブな感情を持ったことがある」と回答。

写真:shutterstock

「多胎育児のサポートを考える会」などが、双子や三つ子を育てる保護者約1600人にインターネット上で調査したところ、親の93.2%が「気持ちがふさぎ込んだり、落ち込んだり、子どもにネガティブな感情を持ったことがある」と回答した。

双子が生まれたばかりのある家庭では、1日の授乳回数が計18回、おむつ替えは28回に上ったという。多胎児を同時に預かってくれる保育園やベビーシッターが見つかりづらいとの意見もあった。こうした中で「子どもを投げてしまったこともある」「何度、子どもを殺してしまうかも……と思ったか分からない」など、追いつめられた親の声が数多く寄せられた。

「生後半年から10カ月までは、子どもを殺めようか、自殺しようか迷っていた」

同会などが11月7日開いた記者会見で、涙ながらに語ったのは、都内で双子の女児(3)を育てる角田なおみさん(39)だ。

夫を頼ろうにも、帰宅は終電近くで「いてほしい時にいてくれない」ことが多かった。角田さんは「永遠に真っ暗闇が続くように感じ、早く楽になりたいと思っていた。もし保育園が決まっていなかったら、私は三つ子の事件よりも先に、虐待死事件を起こしていたかもしれない」と振り返る。

アンケートによると、親の9割が最もつらかったこととして、移動の難しさを挙げた。いつ泣くか分からない双子や三つ子、人数分のおむつと着替えを抱え、バスでは2人乗りベビーカーを畳むよう求められることすらある。「公共交通機関を利用しようと思わない」という意見も多く、多胎児の保護者が家にひきこもり、孤立を深める実態が浮かび上がった。

工藤さんはこう嘆く。

「行政の子育て支援制度も、多胎児ならではの負担が考慮されていない。双子を抱えて両手がふさがっているのに、窓口で子どもの数だけ同じ内容の書類を書かされる。スマホで申請できるようにしてほしい」

アンケートでも「(子育て支援の)冊子やチラシを渡されても、ママたちが双子、三つ子を連れて役所の窓口に行ったり、行事に参加したりすることがどれだけ大変か」といった意見が見られた。

「パートナーのケア」延長線上に育児がある

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双子の出産は母体への負担が大きい。父親にまず求められることは「パートナーのケア」なのかもしれない。

写真:shutterstock

多くの母親は日々の世話に追われて疲弊していく。工藤さんは、父親がまずすべきこととして「パートナーのケア」を挙げる。

「僕の場合は妻の負担を和らげることの延長線上に、育児があった」

双子の出産はたいてい、1人生むより母体への負担が大きい。工藤さんの妻も、双子の産後は長男・次男の時に比べ、筋力や体調が戻るまで時間がかかったという。母親は肉体的にもワンオペで双子育児ができるような状態ではなく、「最初の数年は、半分病人だと思って接した方がいい」と、工藤さんは強調する。自身も妻の回復を優先し、双子の深夜の授乳、朝の子ども4人の世話などを、できる限り引き受けていたという。

仕事などで育児にかかわる時間が限られる場合でも、

「子育てに充てられる時間を明確化し、その中で何ができるかを妻と話し合うことが大事。残業があるなら朝は育児をする、双子を1時間ドライブに連れ出すなど、できることから取り組んではどうか」

多胎児の子育てが最も過酷なのは、最初の数年だ。工藤さんは

「職場の『働き方改革』を待っていたら、時期を逸してしまうかもしれない。共働きの母親の多くは夕方に帰宅しているのだから、父親もこの時期、自分は本当に職場を離れられないのか、よく考えてほしい」

と話す。

工藤さんは双子の子育て情報があまりに少ないと感じ、自ら多胎育児の本を出版しようとクラウドファンディングを実施。このほど目標金額を達成した。

「我が家は何も知らないまま、子育てに突入せざるを得なかった、これから多胎児の親になる人が同じ苦労をしないよう、情報を残したい」

世間の人、つまり「かわいい!」と無責任な声を上げる私たちには、こんな要望を出す。

「まず母親を『がんばってますね』と労り、次は上のきょうだいたちを『えらいね』と褒めてあげてください。双子への『かわいい』は、その後で構いません」

(文・有馬知子)

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