テスラの元副社長で、現在はモーダ・オペランディのCEOを務めるガネシュ・スリバツ。
Moda Operandi
- 人工知能(AI)の導入など、自社のデジタル戦略見直しを牽引できる高度な人材を求めて、多くの企業が闘いをくり広げている。
- 実情を見ると、利害関係のなさそうな他の業界から引っこ抜いてくるケースが多い。
- 「モーダ・オペランディ」は高級ファッションを手がけるスタートアップながら、大企業から経営幹部をどんどん引き抜いている。最高経営責任者(CEO)がBusiness Insiderの取材に応じた。
例えば、病院や製薬会社は、IBMやマイクロソフトなど巨大テック企業の出身者を連れてきて、デジタル改革をまかせることが多い。こうした動きは大企業に特有のものではなく、スタートアップもやっていることだ。
モーダ・オペランディのガネシュ・スリバツCEOは、テスラの副社長とバーバリーの上級副社長を務めた人物。アマゾンやNetflix、Facebookなどから幹部クラスを引っ張ってきて、多様性のある経営布陣を敷いている。
ビッグデータやテクノロジーを取り込んで高級ファッション業界をディスラプトするのが狙いだ。スリバツはインタビューでこう語った。
「語弊があるかもしれないが、いまあらゆる優秀な人材はたったひとつの業界が生み出している。いま我々はファッション業界で、まったく新しいイノベーティブなやり方でこれまでにない顧客体験を生み出そうとしているけれども、その答えを導き出すのは必ずしもファッション業界の人間とは限らない」
スリバツが取り組んでいるのは、他のアメリカの企業が直面しているのと同じ問題。つまり、デジタル戦略の見直しを図り、いかに新たな文化を生み出すか、ということだ。
モーダ・オペランディで言えば、デパートがどのフロアに置くか決めてくれるまで指をくわえて待つ従来的なやり方ではなく、ファッションショーのランウェイで披露される高級ファッションをダイレクトに消費者につなげる最良の方法を見つけ出すことが、それにあたる。
スリバツは、どの企業からスカウトするんだとピンポイントで決めているわけではない。彼が言うには、もっと「本質的かつ流動的な基準によって決めている」。つまり、果たしてほしい役割に対して最もふさわしい人材を探すことにフォーカスしているのだという。
多様性を確保することによって新しいカルチャーを創り出すことが何より重要であり、そのためにCEOである彼自身も採用プロセスに密に関わることもある、と彼はインタビューで語っている。
他業界から引っこ抜いてからが大変
多様な人材を融合することこそが、採用の本当のゴールだ。
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異なる業界の才能を引っこ抜いてくるのはひとつの採用戦略だが、業界の壁を打ち破るというゴールに到達するためには、寄せ集めたその才能と経験をひとつに溶け込ませなくてはならない。
スリバツは2018年にモーダ・オペランディのCEOになってすぐ、それがきわめて厄介な問題であることに気づいた。
着任した最初の週に行われた上席の経営幹部との会議。彼は会社が一丸となって闘うために、10の指針を発表した。集団での意思決定はやめようとか、試して修正してやり直すサイクルをくり返そうといったことだ。
その提案はすぐに皆に受け入れられた。よし、やろうと。しかし、その後衝突が起こり、現実の姿が見えてきた。スリバツは、自分が直接関与することなしに前には進まないと、すぐに気づかされたのだ。
「(経営幹部を引っこ抜いて会社になじませるのは)本当に大変な仕事ですね。人事や採用担当の部長、あるいは他の役員に、何とかコイツの面倒みてくれない?なんてまかせるわけにはいかないわけですから」
役員会のメンバーに名前を加えたらうまくいくというものではない。スリバツによれば、役員として採用してからが本当の頑張りどころで、モーダ・オペランディもまだ試行錯誤の段階だという。
あらゆるレベルの社員採用にCEOが関与する
ガネシュ・スリバツCEOはリンクトインの活用を「素晴らしいチャンス」とする。
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多様性を受け入れるという方針を浸透させるため、スリバツは自身深く採用に関与する道を選んだ。
「CEOに着任したその日から、普通はあり得ないことだと思うのですが、採用部署に声をかけて選考過程に加えてもらいました。会社のあらゆるレベルの採用に関わることで、偉ぶって見下ろすような(経営者としての)あり方をやめにしたかったのです」
彼はまた、ビジネス特化型SNSのリンクトインに参加して、モーダ・オペランディの必要とするポジションにふさわしい人材に直接声をかけ始めた。
「(リンクトインの活用は)なぜ自分がテスラ副社長のポジションを捨ててモーダに来たのか。なぜ自分はいまワクワクしているのか。そして、私とともに大きな挑戦をし、リスクをとってくれるまだ見ぬ仲間たちに、これから選ぶ道がどんなものなのか、それは間違っていないんだということを伝える素晴らしいチャンスだからです」
例えば、eコマースの見直しを管轄してくれるプロダクトマネージャーが必要なら、スリバツはリンクトインにアクセスして、他の企業にいる相応の経験を持った人材を徹底的に探し回る。もちろん、モーダでインターンの経験のある若手も対象に。
こうした多様性のある連合軍を組み上げるのは、当初はかなりキツい作業だったが、規模が大きくなるにつれ軌道に乗っていった。有望な社員がやって来ては、ガネシュ・スリバツが当初示したビジョンを支持する多様な人材たちと出会い、打ち解けていった。
ただ、スリバツにとっては、将来にわたって成長を続けると思われる先行企業にならい、リンクトインで人材を探すことから、学ぶばかりの毎日が続いているという。
「いつまでも学び続ける人間でありたい。常に観察を続けて、役に立つことは何でも取り入れていく姿勢を忘れないようにしたいのです」
(翻訳・編集:川村力)