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コスト“半額”。次世代ロケット「H3」で狙う、持続可能な宇宙開発の未来

燃焼試験

H3ロケットの燃焼試験のようす。約100メートル離れた場所から撮影。

提供:JAXA

日本の純国産新型ロケット開発が佳境を迎えている。

「現在は、だいたい8合目くらいまで来ていると思っています。残りの2合で、各パーツ(サブシステム)を組み合わせて試験を行っていきます。最後に向けてこれから本当の修羅場になってくると思います」

JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙輸送技術部門H3プロジェクトチームのプロジェクトマネージャを務める岡田匡史(おかだ・まさし)氏は、 日本の次世代大型ロケット「H3」の開発状況をこう語った。

25年ぶりの刷新で、持続可能な「宇宙開発事業」を

歴代のロケット

JAXA筑波宇宙センターには、1950年代に開発された「ペンシルロケット」から、開発中の「H3ロケット」まで、JAXA(前身であるNASDAも含む)が開発したロケットの実寸比模型が展示されている。開発中のH3ロケットは、写真右から3番目にある一番大きなもの。H3ロケットの左隣にあるのがH-IIBロケットで、右隣にあるのはイプシロンロケット。

撮影:三ツ村崇志

現在、JAXAが運用しているロケットは、これまでに40回近い打ち上げに成功し、数々の人工衛星を宇宙空間へと送り届けたH-IIAロケット。H-IIAの打ち上げ能力を改良し、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担うH-IIBロケット。そして、小型衛星の打ち上げのために2013年から運用が開始された、コンパクトな固体燃料ロケットであるイプシロンロケットの3種類。

JAXAでは、2014年頃から主力であるH-IIA/Bロケットに代わる次世代「H3ロケット」の開発を進めてきた。現状では、2020年度内の試験機打ち上げを目指し、さまざまな試験を進めている。

2019年8月に行われた、固体ロケットの地上燃焼試験のようす。

出典:YouTube公式チャンネル「JAXA Channel」

岡田プロジェクトマネージャは、H3ロケット開発の必要性を次のように語る。

「一つは、いつでも日本独自のロケットで宇宙にアクセスできるという、宇宙開発における自立性を確保すること。このためには、 ロケット打ち上げ事業の産業基盤を維持・発展させていくことと、ロケット技術を未来に伝えることが重要です。

H-IIAロケットを使い続けることもできますが、それだとこれまで培ってきた新しいロケットを設計する技術が少しずつ失われてしまうことになると思います。

前回は、1994年に打ち上げられたH-IIロケットを開発するタイミングでフルモデルチェンジを行いました。現在運用されているH-IIAロケットは、H-IIロケットのコストダウンチェンジで、ロケットのコンセプトは大きくは変わっていません。今回は、H-IIロケットを開発して以来、25年ぶりのフルモデルチェンジになります」

岡田プロジェクトマネージャ

JAXAH3ロケットプロジェクトのプロジェクトマネージャの岡田匡史氏。「宇宙開発事業をビジネスとして軌道に乗せるまでが我々の使命」と意気込みを語る。

撮影:三ツ村崇志

また、岡田プロジェクトマネージャは、国際競争力のあるロケットを開発することをもう一つの重要な点として指摘している。

H3ロケットでは、打ち上げ頻度を増やし、さらにロケットのコストを下げて、年に6回程度の打ち上げを目指す。そのうちの半分で従来通り政府やJAXAの人工衛星などの打ち上げを行い、残りを民間企業の人工衛星の打ち上げを担う商業利用に活用しようとしている。

「政府・JAXAミッションと商業ミッションを両輪とすることが、H3ロケットの事業モデルです。宇宙開発事業を持続可能な事業にすることが、課せられた使命の一つです」と、岡田プロジェクトマネージャは宇宙開発事業の将来像を語る。

政府機関と民間企業の「共闘」で、国際競争力の強化を狙う

H3ロケットの打ち上げイメージ

H3ロケットの打ち上げイメージ。順調に進めば、2020年度内には第1号機となる試験機が打ち上げられる。

提供:JAXA

H3プロジェクトでは、国際競争力を高めることを目的に、これまで以上に民間企業が開発の深い段階まで関与している点が特徴だ。中でも三菱重工は機体開発の総取りまとめ役を担う。

H3ロケットに求められる水準を満たしていることは大前提ではあるが、これまでJAXAが決めていたロケットの仕様の決定を三菱重工に託した形だ。

岡田プロジェクトマネージャは「民間企業に自分たちがロケット打ち上げ(輸送)事業を行うためにふさわしい設計をしてもらうのが、今回の開発のスタイルです」とその意図を語る。

もちろん、ロケットエンジンや固体ロケットブースターといった技術の連続性、持続性が必要な部分は、引き続きJAXAが開発の主導権を握っている。

「国のプロジェクトを民間主体で進めるには、相当な価値観の共有や信頼関係、約束ごとが必要です。そこを作り込む部分は、非常にチャレンジングな試みでした」(岡田プロジェクトマネージャ)

新型エンジンや部品のモジュール化で、品質・コスト・柔軟性を確保

LE-9エンジン

LE-9実機型エンジンの試験の様子。

提供:JAXA

ロケット打ち上げ事業には「高い信頼性」「コストの安さ」「打ち上げの柔軟性」の3点が求められる。

しかし「高い信頼性」と「コストの安さ」のように、相反する要素もある。これを解決するために、 H3ロケットでは新たな技術開発が必要となった。

その中でもH3ロケット最大の特徴は、新たに開発されたロケットエンジン「LE-9エンジン」だ。

LE-9エンジンでは、H-IIAロケットで使われていたLE-7Aエンジンとは異なるエンジンシステム(エキスパンダーブリードサイクル)を採用し、LE-7Aエンジンの1.4倍となる推力を獲得。さらに主要なパーツの数を20%削減することで、高い安全性と低コストを両立することに成功した。

また、燃料を噴射する装置やエンジンの配管を3Dプリンターで製造したり、エンジンシステムに大型電動バルブを用いたりと、大型ロケットエンジンでは世界初となる試みを積み重ねることで、製造日数、試験回数の削減にも成功している。

実機を模したタンクとLE-9エンジンを組み合わせて行われた燃焼試験のようす。

出典:YouTube公式チャンネル「JAXA Channel」

また、機体側面に付ける固体ブースターや頭頂部に付けるフェアリング(宇宙へ運ぶ人工衛星などを格納しておく部位)を付け替えることで、柔軟に打ち上げ能力を変更できる点もH3の特徴といえる。

「各パーツがモジュール化されているので、製造が始まってから打ち上げミッションが変更されても、モジュールの組み替えで対応することができます」(岡田プロジェクトマネージャ)

モジュール化された部品は同じ設備で製造が可能なため、余計なコストもかからない。

モジュール化されたH3ロケット

H3ロケットでは、側面に付ける固体ブースターの数や頭頂部につけるフェアリング(上部にある白い部パーツ)の大きさを変更することで、柔軟な打ち上げ能力を実現している。運びたい人工衛星の重さや、届けたい軌道に応じて、ロケットの部品を組み替える。

提供:JAXA


この他にも、車載電子部品の活用(全数の90%)や、これまで手作業で行われていた点検作業の自動化、シンプルな構造設計の追求など、H3ロケットの開発ではあらゆる面から工期やコストの削減が進められた。

結果的に、H3ロケットの注文を受けてから打ち上げまでにかかる期間は、H-IIAロケットでかかっていた2年から1年に短縮。ロケット本体の機体価格も、H-IIAの約半分に相当するおよそ50億円にまで低下したという(最軽量の形態の場合)。

進む民間宇宙開発。次世代におけるJAXAの立ち位置とは?

アメリカのSpace X、日本のインターステラテクノロジズやスペースワンなどのように、民間企業による宇宙開発事業は世界各国で進んでいる。

宇宙開発事業のあり方も、H3の開発当初と比べると変わってきた。

自動運転の実現に伴う測位システムの充実や、地球の気候データをはじめとしたビッグデータの活用、5G通信の普及など、今後ますます宇宙開発事業の発展が期待される。

H3ロケットの発射台が組み上がっていく様子。打ち上げに関係する地上設備の整備も合わせて、さまざまなチェックが続く。

出典:YouTube公式チャンネル「JAXA Channel」

JAXAの今後の宇宙開発事業について、岡田プロジェクトマネージャは次のように語る。

「JAXAは基幹ロケットの開発という使命を負っているので、民間ロケットとは異なる役割もあります。確かにサイズが同じロケット同士は競合しますが、全体として宇宙開発が活性化していくはずなので、その中でH3ロケットの新たな役割も出てくると思います」

実際、H3ロケットは開発段階からマイナーチェンジする可能性を考慮した設計がなされているという。

2020年以降、宇宙開発マーケットには世界各国から新型ロケットが投入される予定だ。

H3ロケットの存在感を発揮するためには、予定通り2020年度内に試験機を打ち上げることが望ましい。

H3ロケットの打ち上げまでに、今後もさまざまな試験が予定されている。日本の宇宙開発事業の将来にとって、勝負の時を迎えている。

(文・三ツ村崇志)

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