衝撃的な見た目の「MUSHIパフェ」。パフェを回すとつぶらな瞳のタガメとバッチリ目が合った。
撮影:西山里緒
無印良品、パルコ、ドン・キホーテ……。大手企業が「昆虫食」に熱い視線を送っている。“ゲテモノ”のイメージが強かった昆虫食が今、さまざまな理由から「新たな食のスタンダードになり得るのでは」と注目されているのだ。
その理由を深掘りするために、まずは渋谷パルコで「虫ランチ」を試してみた。
“タガメ”パフェはマスカットのお味
新生・渋谷パルコで初めての「虫ランチ」体験!
約3年の休業を経て11月、グランドオープンした「渋谷パルコ」。その地下レストラン街には、昆虫を扱うレストラン「米とサーカス」があるらしい —— 。そう聞いて早速、現場に行ってみた。
地下街をうろついてみると、長蛇の列ができている店もあったが「米とサーカス」には客が10人ほど。ガラガラではないが、他の店に比較するとやや控えめな人数だ。ただ、店の外では人々がひっきりなしに立ち止まっては、メニュー看板をスマホで撮っていた。
頼んだのはランチメニューの「バグバーガー(1480円)」。パテにはコオロギ肉にひよこ豆や白米が練りこまれているという。追加でグランドメニューの「いなごの佃煮(500円)」「スズメバチの子甘露煮(470円)」デザートの「MUSHIパフェ(1250円)」も注文した(いずれも税別)。
ランチメニューとして提供されている「バグバーガー」(1480円)。
隣の席では、会社の同僚と思われる5人グループが「六種の昆虫食べ比べセット(1780円)」を囲み「これインスタにアップしたら、全員アンフォローされちゃうかなあ?」などとワイワイ話している。
15分ほど待つとすべての注文がそろった。バグバーガーは、粘着があまりないためホロホロと口の中でほどけてしまうが、あっさりとしてクセがない。
いなごの佃煮はすでに日本でもおなじみのメニューだが、スズメバチの子甘露煮は初めてだった。プチプチとした食感に甘さが絶妙にマッチ。いずれも「目をつぶって食べれば、虫とはわからない」と言える味だ。
もっともインパクトあったのは「MUSHIパフェ」。タガメがパフェを抱きかかえるように飾られているという衝撃の見た目に、ハサミがついていて、タガメをチョキチョキ切って“解体”するようだ。
身をスプーンでかき出してみると「うーん、マスカットみたいな感じ……?」見た目と味のギャップに戸惑いながら、初めての虫ランチ体験は終わった。
タガメをチョキチョキ解体するところ。中身はマスカットのようなフルーティな味。
長澤まさみもコオロギラーメン試食
新生パルコに昆虫食レストランを入れた背景として、パルコ広報担当者は「未来の食として真剣に昆虫食やジビエと向き合っているオーナーの思いを聞き、新しいカルチャーを発信するパルコとして(昆虫食に)取り組む意義があると感じた」という。
昆虫食に参入を決めた大手企業はパルコだけではない。
無印良品を展開する良品計画も11月21日、2020年春から一部店舗とネットショップで「コオロギせんべい」を発売すると発表した。理由について、良品計画の広報担当者は「環境負荷の低い食材として昆虫食に注目したことがそもそものきっかけだった」と語る。
良品計画は2020年、コオロギでできた「コオロギせんべい」を発売すると発表した。
Twitterを見ると、2017年頃からヴィレッジヴァンガードやドン・キホーテといった大手小売店でも、昆虫食の取り扱いが話題になっている。
さらに、11月21日放送のTBS系『櫻井・有吉THE夜会』では、ゲストの長澤まさみさんが「今一番やりたいこと」として昆虫食を挙げ、実際にコオロギラーメンを試食するなど、大手メディアでも昆虫食の注目度は高い。
昆虫食は今「ゲテモノ」から「大きな可能性を秘めた食材のニュー・スタンダード」へと進化を遂げているのだ。
「ここ1年が昆虫食勝負の年」
そもそもなぜ今、昆虫食がにわかに流行り始めているのか?
前述の「コオロギラーメン」の開発者でもあり、昆虫食の魅力を研究している篠原祐太さん(25)に話を聞くと「さまざまなプレイヤーの動きが注目され始め、今(昆虫食は)ちょうど点と点が線や面に変わっている状況」だという。
まず一つ目は、大手も注目する「代替肉」としての文脈だ。環境問題の解決策がこれまで以上に真剣に議論される中、エネルギー効率がよく栄養価も高い食材として昆虫食はにわかに脚光を浴びている。
日本では、雑誌「Discover Japan」11月号の「発酵食」特集で、篠原さんらが開発を手がけたコオロギ醤油や、タガメのクラフトジンが大きく取り上げられるなど「新たな食材としての可能性」にも熱い視線が注がれている。
さらに、虫の乾燥スナックやプロテインバーが楽しめる自動販売機がTwitterで話題になるなど「おもしろコンテンツ」の文脈もあるという。こうした多様な文脈が織り重なり、今「昆虫食」ブームの兆しが訪れている、と篠原さんは言う。
コオロギラーメンを調理中の篠原祐太さん(写真左)。コオロギラーメン開発者でもある篠原さんは、今やメディアに引っ張りだこだ。
「日本のトップを走る女優さんが、自らコオロギラーメンが気になる、と言ってくださったのは(環境としても)本当に大きな変化だった」(篠原さん)
現在、篠原さんは東京・日本橋にオープン予定の昆虫食レストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」の開業に向けて準備中だ。2020年春のオープンに先駆けて実施したクラウドファンディングは、公開5日目で目標金額の300万円を達成した。
「2020年は、昆虫食元年になると思う。ここ半年から1年で、どこまでこの注目を日常の選択肢に落とし込めるか、が勝負どころだと思っています」(篠原さん)
(文・写真、西山里緒)