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バーニーズは破綻したが……アメリカのデパートが実は生き残れる理由

Barneys New York

老舗高級百貨店バーニーズ・ニューヨークが閉店の危機に陥っている。

Shutterstock.com

ニューヨークのデパート業界に、過去になかった大きな変化が起きている。

おしゃれなニューヨーカーにとっては、デパートはワンストップで買い物できる場所だった。量販店にはない雰囲気で、高級品のセールスを見つけるためにもデパートに向かう。

しかし、以下の3つの状況は、それが変化していることを示す。

  • 経営破綻した老舗高級百貨店バーニーズ・ニューヨークが、大手ブランド会社に買収され、旗艦店が閉店の危機に陥っている。
  • 老舗高級百貨店サックス・フィフスアベニューは旗艦店を大改装したが、改装効果が出ているか疑問。
  • テキサス州が本社のニーマン・マーカスがマンハッタンに進出したが、苦戦中。

ニューヨーク在住26年のリテール・ストラテジスト、平山幸江さんと、バーニーズとサックス・フィフスアベニューを歩き、なぜこういう事態が起きているのか探ってみた。

まず、ニューヨークでも高級住宅街として知られるマディソン・アベニューにあるバーニーズ旗艦店に向かう。

2019年8月、経営破綻して連邦破産法11条を申請したバーニーズ・ニューヨークは11月1日、米ブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)に買収されることが決定した。ABGは投資銀行とともに約2億7100万ドル(約300億円)で、バーニーズの屋号と保有資産を買収し、再建・リストラに乗り出す。

ABGは、Nautica(ノーティカ)、Nine West(ナイン・ウェスト)などの割安感がある50ものブランドを展開し、店舗数は世界に4900店超。ファッションに詳しくない筆者でも、高級品とエッジが効いたハイファッションのバーニーズとは「違うなあ」という驚きだった。

2階には店員が数人いるだけ

バーニーズ

閉店セールが始まっているバーニーズ・ニューヨーク。セール中にもかかわらず、閑散としていた。

撮影:津山恵子

平山さんとバーニーズの正面に行くと、「閉店セール」という大きなサイン。

そのセール品を狙ってか、ピンクに染めた毛皮コートや、超高級と言われるチンチラの毛皮ジャケットを着たお客が店内に入っていく。やはり富裕層が愛してやまないデパートだったと納得。

この日は感謝祭前の金曜日。感謝祭後の安売り日である「ブラックフライデー」に向けて、めぼしいものを探しておくために、いつもよりはお客がいてもおかしくない日だ。ところが、バッグ・小物売り場の1階にこそちらほら人がいたが、衣料品の2階以上は、店員がフロアに2、3人いるだけだ。

バーニーズは1923年開業。ジバンシーやピエール・カルダンをアメリカに最初に紹介し、粋で洗練されたファッションで富裕層に愛された。ここに来れば、他のデパートにはないファッションが見つかるからだ。

流行の最先端をとらえ、「どこで買ったの?」と言われたいニューヨーカーには、最適の買い物場所。ちょっとした小物でも値段は4桁、つまり日本円で10万〜20万円以上であることは珍しくない。

ブランドよりビジネスカジュアル

Barneys の店内

エッジの効いたデザインの洋服やシューズが人気だったバーニーズ。ファッション大好きな人たちには支持されたが……。

撮影:津山恵子

しかし、「こういう業態は無理がありますね」と、平山さんが2つのポイントを指摘した。

「とがったデザインは、exclusiveとしてバーニーズ以外に卸さないようにデザイナーと契約するのですが、それがいつまで続くかわからないので、デザイナーにメリットは少ないんです。デザイナーとの信頼関係が、なかなか難しいビジネスモデルです」

「昔はブランドを着て歩くのがライフスタイルとして定着していた。でも今アメリカでは、ミレニアル世代だけでなくどの世代でも、ブランドにお金を使わないことが当たり前。ビジネスカジュアルが主流になり、普段着がアスレジャー(アスレチックのために作られたウェアを仕事や買い物、学校などに着ていくこと)となっている時に、この価格帯は厳しいですね」

ABGは、バーニーズ全7店舗の大半と流通センターなどを閉店し、従業員約2000人も解雇する計画だと報じられている。政治家やセレブの顧客がいる旗艦店はニューヨークの超一等地にあり、家賃が高騰しているため、閉店の対象になる可能性もある。

さらに、ライバルであるサックス・フィフス・アベニュー内に「バーニーズ」というブランド商品を置くコーナーを検討中という。米紙ワシントン・ポストのファッション・ジャーナリストは、「バーニーズのアイデアというコアだけが残されることになる」と嘆いた。

日本のバーニーズ・ニューヨークはすでに経営が分離されているため、今回のリストラとは関係がない。

1階をぶち抜いた豪華エスカレーター

サックスフィフスアベニューのエスカレーター

サックス・フィフス・アベニューの1階正面にはゴージャスなエスカレーターが。プロの目から見ると、これも疑問が残る、という。

撮影:津山恵子

次に向かったのは、5番街の観光名所ロックフェラー・プラザの真ん前に立つサックス・フィフス・アベニュー。バーニーズよりも立地も良く、高級品もあるが、それよりも下の価格帯のものもあるので、バーニーズよりは人が入っている。2019年2月から2021年にかけて段階的に改装を続けており、総工費は2億5000万ドルという。

正面から入ってすぐそそり立つのは1階から地階と2階に向かうエスカレーター。LEDをふんだんに使ったアートで囲まれ、眩しい。以前はエスカレーターは正面から約150メートルほど後方にあり、見つかりにくかった。

また1階は以前、照明が暗めで、化粧品が中心だった。手袋、スカーフなどの小物類は古風な木製枠のガラスケースに入っており、店員に取ってもらう形式だったが、ケースはなくなり、商品は全て洒落た棚に並ぶか、ハンガーにかかっている。「モダンになったな」という印象だ。

しかし、平山さんは……。

「このデザインが話題なんです。化粧品を1階から2階にしたのは、禁じ手とされています。化粧品は1階というのは、どこでも定番です。そして、一番売り上げがある1階にこんな広い空間を割いて、エスカレーターを作ったのも、疑問が残ります」

また、鳴り物入りのオープンだった地階の「the Vault(ボールト、金庫の意味)」は、ほとんど人がいない。この階には、まだアメリカには数少ない宝飾品ブランドを集めている。

ニーマンは出店面積を縮小

ニーマン・マーカス

満を辞してNYに進出したニーマン・マーカスもガランとしていた。

撮影:津山恵子

一方、ニーマン・マーカスは、バーニーズ、サックス・フィフス・アベニュー、メイシーズなどニューヨークが発祥の地であるデパートと異なり、テキサス州ダラスが創業の地で今でも本社がある。

ニーマンは、激戦地であるニューヨーク・マンハッタンを長年避けてきたが、2019年3月、マンハッタン西部にできたニューヨーク最大の再開発計画「ハドソン・ヤード」のモールに進出した。

モールのオープン以来、何度も訪れているが、いつも閑古鳥だ。モールのブランド店のほとんどが苦戦している様子が伺える。ニーマンも、

「ニーマンは財務状況も悪いので、当初約2万3000平方メートルを使用する予定が、結局1万7000平方メートルに縮小してオープンしました。小売業界で店舗面積の縮小は、売上予測の下方修正、そして弱気と、思われても仕方がありません」(平山さん)

在庫を一元管理できていれば

伊勢丹

日本のデパートも売り上げを大きく減少させているが、そこに起死回生の対策はあるのだろうか。

Osugi / Shutterstock.com

一通り見たのち、平山さんに「ではデパートという業態は、アメリカで生き残れるのか」と聞いた。答えは「イエス」だった。

「オンラインショッピングに対応できるように在庫を一元管理するなど、ちゃんと先行投資している店は生き残れます。お店でもオンラインでもどちらでも売れるという投資をしているからです」

翻って言えばバーニーズの経営破綻は、それがうまくいっていなかったということ。1996年に一度、連邦破産法11条の申請をし、経営再建をしてから、オーナーは幾度も変わり、店の特徴も何度も変わった。競争他社に比べて、オンライン化も遅れていた。

実は在庫一元管理と、オンラインショッピング対応というのが、日本のデパートではかなり遅れている、と平山さんは指摘する。

日本のデパートは、オンワード樫山や三陽商会などアパレル大手に店舗スペースを提供しているものの、商品の所有権がデパートにはない。このため在庫の一元管理が難しい。販路であるデパート側が、店舗やオンラインで自由に手持ち在庫を売るための、統合的在庫管理システムを持っていないのだ。

これに対し、在庫を一元管理しているアメリカのデパートは、オンラインショッピング時代への対応ができている。店員がその場で在庫を確認できるようモバイルやタブレットを支給。店舗で気に入った服のサイズがなかった場合、「オンラインにありますよ」と売り上げにつなげることができる。

オンラインへの流れは、止めることができない。

11月29日は感謝祭翌日の金曜日で、安売りが目玉となる「ブラックフライデー」。ここでもオンライン化が、大きな変化を引き起こした。

小売関連調査会社のショッパートラックによると、ブラックフライデーに店舗に行った客足は、前年比で6.2%減少した。感謝祭の日、ブラックフライデー、そして感謝祭後の月曜日である「サイバー・マンデー」にオンラインで注文する人が増え続けているためだ。

それでも、と平山さんは言う。

「もちろんデパートの店舗数は今後も減り続けますが、店舗への投資もきちんとしています。ラックを増やしたり、Kohl’s(コールズ、郊外店舗が中心のデパート)がアマゾンと提携したりしています。車社会の地域ではデパートに家族で行って、ワンストップでわっと買って、車に積んで帰るという習慣は続くと思います」

アマゾンは返品を持ち込める場所として、コールズと提携、返品するだけのために郵便局に行くのは面倒だが、デパートならついでに行ける。しかも返品をしたという証明のレシート裏には、「店内商品20%引き」のバーコードがあるので、思わず何か買ってしまう可能性がある。

デパートではないが、量販店最大手のウォルマート・ストアーズなども、アマゾンなどのオンライン小売り大手の攻勢で危ういと言われながら、アメリカの優良企業であり続けている。ニューヨークのデパート業界は激変に見舞われているものの、全米で見れば特殊な例かもしれない。日本が学ぶべき点は多いだろう。

(文・津山恵子)

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