経済格差などによる「絶望死」が要因か…アメリカ人の寿命は短くなっている

オレゴン州ニューポートでビーチを歩くカップル。

オレゴン州ニューポートでビーチを歩くカップル。

Robert Alexander/Getty

  • アメリカ人の平均寿命は3年連続で低下している。
  • 新しい研究は、25歳から64歳までの「生産年齢」のアメリカ人が、より高い割合で死んでいるという事実を示した。
  • この死亡には、健康上の問題の中でも特に、薬物の過剰摂取、自殺、アルコール関連疾患が関与している。
  • 複数の専門家は、社会経済的な不平等と経済的困難がアメリカ人の死の増加の原因となっているかもしれないと見ている。

アメリカは世界で一番裕福な国だが、平均寿命の針が間違った方向に動いている。

1959年から2014年にかけて、アメリカ人の平均寿命はずっと上昇していた。しかし、『Journal of the American Medical Association』に発表された新しい研究によると、ここ3年は連続して低下しているという。

「アメリカ人は生活のさまざまな面で自分たちが優れているという誤解の下で活動している。これはその一つだ」と、本研究の筆頭著者であるスティーブン・ウルフ(Steven Woolf)氏はBusiness Insiderに語っている。

「世界で最高の医療と最高の平均寿命があると思うかもしれないが、そうではない」

この低下は、人種や性別、地域に関連しているわけではない。アメリカでは25歳から64歳までの人の死亡率が高く、オピオイド中毒、肥満、アルコール性肝疾患、自殺などの問題に悩まされている。

国民一人当たりの医療費が世界一であるにもかかわらず、アメリカ人は「他の国の人よりも65歳未満で亡くなる確率が高い。また、彼らの子どもも同様に長生きはできそうにない」とウルフ氏は付け加えた。

恐ろしい傾向

ウルフ氏と共著者のハイジ・シューメーカー(Heidi Schoomaker)氏による研究では、アメリカの死亡率データベースとアメリカ疾病予防管理センターのWONDERデータベースから、平均余命に関する50年以上に相当するデータが調査された。

その結果、1970年代には平均寿命が急速かつ大幅に伸びたことがわかった。しかし、1990年になると、その増加は横ばいになり始めた。2011年、米国の平均寿命は頭打ちとなり、3年後には低下し始めた。

「この国の寿命は『自由落下』と言えるところまで来ている」とウルフ氏。

医学の進歩、特にがん治療と心臓医療の分野の進歩が、アメリカ人の寿命を10年近く延ばした。1959年から2013年の間に、平均寿命は69.9歳から78.9歳に延びたのだ。しかし今では78.6歳に下がっている。

2017年1月20日にカリフォルニア州ハリウッドで開催されたThe Spare Roomで、女優兼プロデューサーのニーナ・ドブレフ(Nina Dobrev)とベンチャーキャピタリスト兼ポロプレーヤーのオマル・マンガルジ(Omar Mangalji)が誕生日のろうそくを吹き消している。

2017年1月20日にカリフォルニア州ハリウッドで開催されたThe Spare Roomで、女優兼プロデューサーのニーナ・ドブレフ(Nina Dobrev)とベンチャーキャピタリスト兼ポロプレーヤーのオマル・マンガルジ(Omar Mangalji)が誕生日のろうそくを吹き消している。

Rochelle Brodin/Getty

他の国と比較してもよくない。 1960年、アメリカ人は世界のどの国よりも平均寿命が長かった。しかし、過去数年間で、カイザーファミリー財団によると、アメリカは同じようにGDPと平均所得が高い国の中では最下位に急落した。

実際、アメリカは現在、平均余命で世界の40位台にあり、レバノン、キューバ、チリなど、GDPがはるかに少ない国の間にいる。

ウルフ氏によれば、この厄介な落ち込みは、25歳から64歳までのアメリカ人の死亡者数が増加しているという事実に関連している。

「働き盛り」のアメリカ人が死んでいる

これらの死亡は、単一の原因によるものではない。ウルフ氏の研究によると、この年齢層の人々の死亡率は、35の異なる原因から上昇しているという。しかしながら、薬物の過剰摂取、アルコール乱用、自殺といった「絶望死」が主な原因であると考えられる。

この年齢層では、1999年から2017年にかけて致死的な薬物過剰摂取がほぼ4倍に増加した。25歳から64歳の自殺率は40%近く上昇し、55歳から64歳の人の自殺率は同じ期間に56%上昇した。25歳から34歳では、アルコール関連疾患による死亡率も約160%増加した。

2017年8月9日にマサチューセッツ州セーラムで、オピオイドを過剰摂取した後に意識を失った40代の男性を救急車の医療従事者が処置している。

2017年8月9日にマサチューセッツ州セーラムで、オピオイドを過剰摂取した後に意識を失った40代の男性を救急車の医療従事者が処置している。

Brian Snyder/Reuters

この年齢層の肥満に関連した死亡率も114%上昇し、高血症に関連した死亡率は約80%上昇した。「生産年齢のアメリカ人は人生の絶頂期に死亡する可能性が高い」とウルフ氏。2010年から2017年の間に、アメリカの中年の死亡率は6%上昇した。

死亡率が最も高かったのは、ニューイングランド地方の州(ニューハンプシャーの中年は23.3%増。同じくメイン州20.7%、バーモント州19.9%)の住民とオハイオバレー(ウエストバージニア州では23%、オハイオ州では21.6%の増加)の住民だった。

しかし、すべての地域が同じ傾向を示したわけではない。ハワイ、カリフォルニア、太平洋岸北西部に住む人々の2010年から2017年までの平均寿命は延びている。

ニューヨークの歩道で座りこんでいる男性。

ニューヨークの歩道で座りこんでいる男性。

Flickr / Pabak Sarkar

全体的に見て、男性の死亡率は女性よりも高い。しかし、ウルフ氏の研究によると、女性は過去数十年と比較して、薬物の過剰摂取、自殺、アルコール関連性肝疾患のリスクが高くなっていることが明らかになっている。

「雇用主にとっては明らかな意味がある」とウルフ氏。

「この傾向が続けば、他の国に比べ、健康でなく生産性の低い労働力を早く失うという状況になる可能性が高い」

アメリカでは多くの医療費が使われているにもかかわらず

民営化された医療に何十億ドルも費やしている富裕な先進国で中年の労働者層の死亡率が高いという不思議な現象は、誰もが触れたがらない事実が原因かもしれない。

ウルフ氏は「我々アメリカ人は医療に多くのお金を費やしているのに、なぜこのようなことが起きているのだろう。その答えは経済にあると思う」と話した。

オハイオ州のように五大湖に近いアメリカ中西部の「ラストベルト」は、経済の変化とそれに伴う工場の雇用喪失によって最も大きな打撃を受けた地域だと、ウルフ氏は述べた。

「製鉄所や炭鉱は閉鎖されているが、対照的にカリフォルニアは繁栄している」

ウェストバージニア州出身の炭鉱作業員ジェイデン・フレドリクソン(Jaden Fredrickson)さん(26歳)は、2017年4月13日にペンシルベニア州シカモアのハーベイ鉱山で視察に訪れた環境保護庁のスコット・プルーイット(Scott Pruitt)長官(当時)の到着を待っている。

ウェストバージニア州出身の炭鉱作業員ジェイデン・フレドリクソン(Jaden Fredrickson)さん(26歳)は、2017年4月13日にペンシルベニア州シカモアのハーベイ鉱山で視察に訪れた環境保護庁のスコット・プルーイット(Scott Pruitt)長官(当時)の到着を待っている。

Justin Merriman/Getty Images

ウルフ氏によると、自殺、薬物の過剰摂取、アルコール関連疾患は「住宅を買う余裕がなく、正規の仕事を見つけることができずに貧困で苦しんでいる人々すべてに見られる症状」だという。

「健康に影響する社会的要因が、幸福にも影響していることがわかってきた」と、ハーバード大学T・H・チャン・スクールの公衆衛生学教授で、今回の研究には参加していないハワード・コウ(Howard Koh)氏はBusiness Insiderに語っている。

「所得格差や不安定な雇用などの要因が心理的苦痛を引き起こし、病気や死亡の発生を促進する」と彼は付け加えた。

世界の国々では、低所得者の方が富裕層より早く死亡するという研究結果が出ている。2017年の研究では、社会経済的な地位の低さと平均余命の減少との間に有意な関連性が認められた。

しかしウルフ氏によると、特筆すべき点として「他の国の貧しい人々は、アメリカの貧しい人々より長生きする」ことがあげられるという。

アメリカの富裕層と貧困層の差は、社会経済的な観点だけでなく、健康の面でも広がっている。

医師アルバートウォーレン(Albert Warren)は患者を問診し、電子タブレットで症状を記録する。2013年3月6日。

医師アルバートウォーレン(Albert Warren)は患者を問診し、電子タブレットで症状を記録する。2013年3月6日。

Bob Nichols/USDA

「経済的に恵まれていないことに対して健康面で支払う代償は、ますますひどくなっている」とウルフ氏。

コウ氏によると、アメリカの所得上位1%と下位1%の平均寿命の差は、男性で最大14歳、女性で10歳になるという。

平均寿命の低下が新しい常識になる

「誰もが平均寿命は上昇し続けると思っていたが、この国では平均寿命の低下が新しい常識になるリスクがある」とコウ氏は述べた。

彼の予測が正しいかどうかを確認する唯一の方法は、最新の平均寿命データを分析することだとウルフ氏は述べている。2018年の数値は、CDCによって今後数カ月以内にリリースされる

「しかし、我々が行った研究によるすべての兆候は、それがよいニュースにはならないであろうことを示している」

そして、ウルフ氏もコー氏も、根本的に社会経済的な問題が解決されない限り、平均寿命が改善するとは考えていない。 ウルフ氏は、政府は社会から取り残されたコミュニティに投資し、中流階級の家族の財政的負担を軽減するために努力する必要があると述べた。

2018年5月8日、ウエストバージニア州のコミュニティセンターから出てきた高齢の女性。

2018年5月8日、ウエストバージニア州のコミュニティセンターから出てきた高齢の女性。

Jeff Swensen/Getty

ハーバード大学の研究者は、アメリカの政策立案者は、平均寿命が短くなっている「主要な原因」にもっと注意を払う必要があると付け加えた。それは例えば、活発な社会的なつながりを生み出し、経済的な絶望に直面する人々の目的の再構築を支援するような、より強固なコミュニティを構築することだ。

コウ氏は、「公衆衛生の世界では、健康にとって医者の診察室よりもはるかに重要な場所があることが理解されつつある」と述べた。

「それは、人々が住んで、学び、遊び、そして祈る場所だ」

[原文:Life expectancy in the US keeps going down, and a new study says America's worsening inequality could be to blame

(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)

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